詳細
調査を行ったのは、スロベニア・リュブリャナ大学獣医学部のチーム。側方から撮影したエックス線写真だけで、大型犬に多いとされる腰仙椎狭窄症の兆候を見つけることができるかどうかを確かめるため、警察犬として現役で活躍するジャーマンシェパード24頭(平均76.6ヶ月齢)と、ベルジアンマリノア12頭(平均51.8ヶ月齢)を対象とした比較調査を行いました。
Slov Vet Res 2016; 53 (4): 219-27, Estera Pogorevc et al.
- 腰仙椎狭窄症
- 脊髄(神経線維の束)を収容するためにある脊柱の空洞(脊柱管)のうち、腰椎と仙椎部分の内径が何らかの理由によって狭くなってしまう病気。原因は変形性脊椎症(内側への骨の隆起)、腫瘍、脊椎の不整列など。狭窄部において神経(馬尾)の圧迫が起こり、何らかの症状を示した場合は「馬尾症候群」などとも呼ばれる。
GSとBMの違い
- 体重:GS(36.0kg)>BM(31.2kg)
- L7の高さ(1):GS(21.3mm)>BM(18.5mm)
- S1の高さ(2):GS(19.6mm)>BM(16.6mm)
- L7/S1の段差(3):GS(0.9mm)>BM(0.1mm)
- CrS1/SL距離(4):GS(8.6mm)<BM(10.5mm)
Slov Vet Res 2016; 53 (4): 219-27, Estera Pogorevc et al.
解説
過去に行われた調査では、腰仙椎狭窄症の危険因子として「オス犬」、「中大型犬」が挙げられています。これらに共通しているのは体重が重いという点です。おそらく重力による機械的なストレスが下部腰椎に負担をかけ、腰仙椎狭窄症につながっているものと推測されます。今回の調査でも、ベルジアンマリノア(31.2kg)よりジャーマンシェパード(36.0kg)の方が、全体的に体重が重いことが判明しました。体重や運動による慢性的な機械的ストレスがジャーマンシェパードにおける高い発症率の背景にあるのかもしれません。小型犬や猫において腰仙椎狭窄症が極めて稀であるという事実もこの仮説を裏付けています。
ジャーマンシェパードだけに限ってみると、発症率が42%(10/24頭)という極めて高い値になりました。この事実から、ただ単に体重が重いというだけでなく遺伝的な要因も発症に関わっているものと推測されます。今回の調査では具体的な遺伝的背景まで特定することはできませんでしたが、ジャーマンシェパードの標準体型とされる「低い腰の位置」が発症に関わっているような気がしてなりません。2016年のクラフツドッグショーで、腰が異様な位置にあるジャーマンシェパードが最優秀犬として選出されたのは記憶に新しいところです(→出典)。この選出に対して視聴者から怒りの声が上がり、ショーを主催した「Kennel Club」が優勝した犬の動画をYouTubeから削除するという事態に発展しました。もしこの「低い腰の位置」という身体的な特徴が腰仙椎狭窄症の遺伝的な背景としてあるならば、ジャーマンシェパードにおける腰仙椎狭窄症は人為起源の病気と言っても過言ではないでしょう。
作業犬の引退理由として最も多いのは腰仙椎狭窄症に起因する馬尾症候群だといいます。主な症状は腰痛、脱力、運動失調などです。見た目だけを重視した意味のない選択繁殖を止め、少なくともベルジアンマリノア並の腰高に戻せば、ジャーマンシェパードの腰背部痛が軽減されると同時に、現役期間が多少は伸びてくれるかもしれません。