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犬における頚部肺ヘルニアの危険因子

 犬の肺が本来あるべき位置からずれて首元までせり上がってしまう頚部肺ヘルニアの危険因子が明らかになりました(2017.4.10/韓国)。

詳細

 肺ヘルニアとは、本来胸郭内に収まっているはずの肺の一方、もしくは両方がずれ、あってはならない位置に脱出してしまった状態。ずれる方向が頭に近い場合は特に「頚部肺ヘルニア」と呼ばれます。主な症状は呼吸困難、咳、反復性の頚部腫脹などです。 犬の頚部肺ヘルニアでは、肺の上端が胸郭から頚椎方向へ脱出する  韓国・ソウル国際大学の調査チームは2012年1月から2015年12月の期間、大学付属の獣医学教育病院を受診した犬220頭を対象とし、一体何が頚部肺ヘルニアの発症因子になっているのかを検証しました。犬たちの病歴を回顧的にチェックしたところ、199頭(89.6%)で気管虚脱が、124頭(55.9%)で頚部肺ヘルニアが見つかったと言います。その他の特記事項は以下です。
犬の頚部肺ヘルニア
  • 咳の病歴があると発症リスクが2.9倍に高まり、重症度も増す
  • 気管捻転があると発症リスクが3.8倍に高まり、重症度も増す
  • 咳の継続期間によって発症リスクが高まることはない
  • 胸腔内気管虚脱によって発症リスクが高まる
  • 右(35.6%)よりも左(50.9%)の方が多い
  • 好発品種が存在する
  • 年齢が高いほど発症リスクが高まる
 咳の病歴と発症リスクとの間に相関関係が見られた一方、咳の病歴がない犬75頭のうち27頭(36.0%)が頚部肺ヘルニアを抱えていたことから、調査チームは咳がないからといって当症を鑑別診断から除外してしまうのは早計であると警告しています。 Fluoroscopic characteristics of tracheal collapse and cervical lung herniation in dogs

解説

 今回の調査で好発品種とされた犬たちはペキニーズシーズーミニチュアピンシャーイングリッシュコッカースパニエルヨークシャーテリアポメラニアンでした。これらの犬種は、2011年に日本で発表されたレポート内でも言及されています(→出典)。犬種共通の解剖学的な特徴は、「胸郭上口と胸の厚みの差が小さい」、「胸郭上口が広い」という点だったそうです。肋骨で囲まれた空間を「とっくり」に例えると、胸郭上口はとっくりの口に相当する部分ですので、ここが広ければ広いほど内容物が飛び出しやすくなるというのは当然のことでしょう。
 品種、気管捻転の有無、加齢のように避けようのない危険因子もありますが、飼い主の心がけによって軽減できる因子も幾つかあります。

 「咳の継続期間によって発症リスクが高まることはない」という事は、2ヶ月以上継続する慢性的な咳だろうと、一時的な激しい咳き込みだろうと、肺ヘルニアの発症リスクはそれほど変わらないということです。飼い主としては、犬の咳を誘発するようなあらゆる要因を、日常生活の中から根絶したいものです。一例としては気管支炎喘息(アレルゲン)、散歩中の引っ張りなどが挙げられます。

気管虚脱

 気管がつぶれて気道を閉塞してしまう気管虚脱のうち、胸腔内で発生する「胸腔内気管虚脱」が発症リスクを高めるという傾向が確認されました。このタイプの気管虚脱は強引な呼気(息の吐き出し)によって上昇した胸膜内の圧力が、気道内腔の圧力を上回ることで発生するとされています。犬においては「吠える」というありふれた行為が胸腔内圧を上昇させる要因ですので、なるべく無駄な発声をさせない方がよいと思われます。 犬の無駄吠えのしつけ