犬の急性腎不全の病態と症状
犬の急性腎不全の原因
犬の急性腎不全の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
腎毒性物質の中でも報告例が多いのはエチレングリコールによる急性中毒です。エチレングリコールは緑色の液状物質で、不凍液の原料として広く使用されています。誤って飲み込んでしまうと、消化管から急速に吸収されて肝臓に移り、グリコアルデヒド、グリコール酸、グリオキシル酸、シュウ酸といった物質に分解されます。このようにして体内にできた腎毒性物質は代謝性アシドーシスを引き起こすほか、腎尿細管上皮細胞を破壊して急性腎不全を招きます。中毒の中で最も致死率が高く、犬における致死量は6.6ml/kg程度です。治療しなかった場合、36~72時間で腎不全を起こして尿の量が減り、72~96時間で完全に無尿となります。犬では8時間以内に治療すれば予後良好ですが、それより遅れてしまうと致命的な後遺症が残ってしまうこともあります。
エチレングリコール中毒が多い理由としては、物質の入手のしやすさと、甘みがついていること、そして人間の側の毒性に対する知識不足が挙げられます。アメリカにおいては不凍液に苦みを付けようという動きがあるものの、日本においては依然として甘みがついたままです。間違って口に入れても途中で吐き出されることがないため、特に冬場は安易に道路わきにまき散らさないなどの配慮が必要となります。
犬の急性腎不全の主な原因

- 腎臓そのものの異常 腎臓自体が障害されたために起こる急性腎不全で、「腎性急性腎不全」とも呼ばれます。具体的には急性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、レプトスピラ症のほか、薬物、毒物、閉塞などです。
- 腎臓への血流悪化 腎臓自体は正常であるにもかかわらず、腎臓に流れ込む血流が悪化したために生じた急性腎不全で、「腎前性急性腎不全」とも呼ばれます。具体的には出血、大量の下痢、脱水、ショック、心不全、血管収縮薬や拡張薬の過剰な投与、長時間の麻酔、熱中症などです。
- 排尿の停滞 腎臓でつくられた尿を体外へ排泄するための経路が閉塞したために発症する急性腎不全で、「腎後性急性腎不全」とも呼ばれます。具体的には尿管、膀胱、尿道の炎症や閉塞などです。


犬の急性腎不全の治療
犬の急性腎不全の治療法としては、主に以下のようなものがあります。多くの場合は入院治療が必要です。
犬の急性腎不全の主な治療法
- 対症療法 まずは症状の軽減を目的とした治療が施されます。たとえば高窒素血症の改善を目的に、輸液、ホルモン剤投与、腹膜灌流(ふくまくかんりゅう=腹の中に灌流液を入れて1時間位してから回収する)、血液透析(腎臓を模した機械に血液を流す)、窒素化合物を吸着させる薬剤の投与などの治療が施されます。
- 栄養補給 吐き気が治まったタイミングで炭水化物や脂肪など、タンパク質以外の栄養素を補給します。吐き気が続いている場合は静脈カテーテルを用いて非経口的にエネルギーを送り込みます。
- 基礎疾患の治療 別の疾病によって急性腎不全が引き起こされている場合は、それらの基礎疾患への治療が合わせて施されます。