イヌ可移植性性器肉腫の病態
イヌ可移植性性器肉腫(CTVT, canine transmissible venereal tumor)とは、交尾によって伝染するガンの一種で、1906年にスティッカー氏が癌細胞の移植に成功したことから「スティッカー肉腫」とも呼ばれています。世界で2つしかない自然発生した伝染性のガンのうちの一つであり、もう一つはタスマニアデビル顔面腫(DFTD, Tasmanian devil facial tumor disease)です。
通常のガンとの大きな違いは、個体の体内で突然変異した細胞が増殖したものではなく、感染個体とは全く異なる染色体を持っているという点です。イヌの染色体が78本であるのに対し、肉腫のそれは57~59本程度と言われています。
起源に関しては、7,800~78,000年前、オオカミの体内でマクロファージが変異して誕生したと考えられていますが、定かなことは分かっていません。最初の報告があったのは1876年で、現在では少なくとも6つの大陸において存在が確認されています。症例は熱帯地方に集中しており、日本においてはまず見られない病気ですが、知っていて損はないでしょう。 How a contagious dog tumour went global Overview of Canine Transmissible Venereal Tumor
通常のガンとの大きな違いは、個体の体内で突然変異した細胞が増殖したものではなく、感染個体とは全く異なる染色体を持っているという点です。イヌの染色体が78本であるのに対し、肉腫のそれは57~59本程度と言われています。
起源に関しては、7,800~78,000年前、オオカミの体内でマクロファージが変異して誕生したと考えられていますが、定かなことは分かっていません。最初の報告があったのは1876年で、現在では少なくとも6つの大陸において存在が確認されています。症例は熱帯地方に集中しており、日本においてはまず見られない病気ですが、知っていて損はないでしょう。 How a contagious dog tumour went global Overview of Canine Transmissible Venereal Tumor
イヌ可移植性性器肉腫の症状
イヌ可移植性性器肉腫の症状は、体内における細胞の振る舞い方から、以下に述べる3つのフェーズに分割されます。
CTVTの3フェーズ
- 増殖期(progressive) 体内に入った細胞が4~7日間隔で急激に増殖する時期で、数週間続きます。感染から10~20日で性器外部の小さなできものを触知できるようになり、次第にカリフラワーのような外観を呈してきます。表面には潰瘍ができ、出血が見られることもしばしばです。患部はほとんどが包皮、亀頭、膣といった外性器に集中していますが、患部を舐めたり引っ掻いたりすることで口腔、鼻腔、結膜にまで広がることもあります。外性器からの出血は血尿、そして鼻腔からの出血は鼻血との鑑別診断が必要です。
- 安定期(stable) 細胞がおよそ20日間隔でゆっくりと増殖する時期です。ときには10センチ以上にまで巨大化することもあります。
- 退縮期(regressive) 細胞が免疫系によって処理され、徐々に小さくなる時期で、2~12週間続きます。細胞のおよそ80%は自然退縮し、100立方センチメートルほどの巨大なできものでも、しまいには消えてしまいます。しかし、全細胞うち1~20%は退縮期に入らず、体の他の部分へ転移を開始し、悪性化します。この現象は特に免疫力が衰えた犬において顕著です。
イヌ可移植性性器肉腫の感染経路
イヌ可移植性性器肉腫は、交尾による性器の接触によって感染します。特に危険なのは、「コイタルロック」と呼ばれる陰部結合時と、犬同士が結合状態から離れようとする時です。感染経路は双方向性で、オス犬からメス犬、メス犬からオス犬へと伝わります。また交尾のほか、患部を舐めたり嗅いだり引っ掻いたりすることでも伝播します。
症例は熱帯から亜熱帯の大都市部で多いとされますが、これは去勢や避妊手術を受けていない野良犬が多いためです。1年中交尾が可能なオス犬の方が感染確率が高いとされているものの、1匹のオス犬が10匹以上のメス犬に感染させたという報告もあり、罹患率においてはメス犬の方が高い地域も見られます。
症例は熱帯から亜熱帯の大都市部で多いとされますが、これは去勢や避妊手術を受けていない野良犬が多いためです。1年中交尾が可能なオス犬の方が感染確率が高いとされているものの、1匹のオス犬が10匹以上のメス犬に感染させたという報告もあり、罹患率においてはメス犬の方が高い地域も見られます。
イヌ可移植性性器肉腫の治療
イヌ可移植性性器肉腫の治療には、主に以下のようなものがあります。一般的に、腎臓、脾臓、目、脳、脳下垂体、皮膚、皮下組織、腸間膜リンパ節など、他の臓器への転移が少ない場合、予後は良好です。
IVIS:The Canine Transmissible Venereal Tumor
CTVTの治療
- 外科手術
- 投薬(硫酸ビンクリスチン)
- 化学療法
- 放射線療法
タスマニアデビル顔面腫
タスマニアデビル顔面腫(DFTD, Tasmanian devil facial tumor disease)は、イヌ可移植性性器肉腫(CTVT)以外では唯一の、自然発生した伝染性のガンです。オーストラリアの南方海上に浮かぶタスマニア州の固有種「タスマニアデビル」にだけ感染することで知られています。発症から死亡まで12~18ヶ月、致死率は100%という恐ろしい病気です。
最初に報告されたのは1996年で、1997年には1だった感染数が、2004年には68に激増し、1996年から2010年の間で個体数が70%も減少したといわれています。発見当初はタスマニア東部に集中していましたが、感染は徐々に西部にも拡大し、今では種を絶滅の危機に追いやっています。
イヌ可移植性性器肉腫はほとんどが自然治癒するのに対し、このタスマニアデビル顔面腫は、ほぼ確実に個体を死に追いやることから、治療薬の開発が急務となっています。現在は、ガンに対して抵抗力を持った数頭の個体を元に、効果的な薬の研究を進めている最中です。 Devil facial tumour disease
感染は個体同士の噛み傷を通じて広がるというのが通説。交尾の際、オスがメスに噛み付くという習性があることが、病気の蔓延に拍車を掛けていると推測されている。写真の出典はこちら。病気はまず口元の腫瘍から始まり、これが徐々に大きくなっていきます。そして最終的には多臓器不全、二次感染、口の中を覆い尽くすことによる物理的な摂食妨害により、個体を死に追いやります。
イヌ可移植性性器肉腫はほとんどが自然治癒するのに対し、このタスマニアデビル顔面腫は、ほぼ確実に個体を死に追いやることから、治療薬の開発が急務となっています。現在は、ガンに対して抵抗力を持った数頭の個体を元に、効果的な薬の研究を進めている最中です。 Devil facial tumour disease
DFTDとCTVTの違い