トップ2023年・犬ニュース一覧10月の犬ニュース10月13日

犬の突然死・オーストラリア編~原因として多いのは心疾患・消化器疾患・がん

 明白な持病もなく、これまで元気だった犬が突如として死んでしまう「突然死」。死因不明として死後解剖に回された犬たちを対象とし、最も多い原因や特徴に関する調査がオーストラリアで行われました。

犬の突然死・死因と特徴

 「突然死」(sudden unexpected death, SUD)とは急性症状の出現から24時間以内に起こる、急転直下の偶発的な死亡のこと。死亡者本人に明白な持病がないことや、周囲の人間が全く予期できないことが特徴とされます。このたびオーストラリアの複数の大学が、犬や猫における上記「突然死」の疫学調査を行いました。

調査対象

 調査対象となったのは、オーストラリア国内にある4つの獣医学校で死後解剖が行われた犬猫たち。突然死の定義を「急性症状の発現からすぐ~12時間以内の予期せぬ死」とし、6ヶ月齢以上の個体で絞り込んだところ、猫の突然死が134件、犬の突然死が424件見つかったといいます。具体的な内訳は以下で、「%」は全解剖件数の中に占める突然死の割合を示しています(犬猫合計)。
犬猫の突然死(計575件)
  • クイーンズランド州1994年12月~2021年6月
    5.48%(339/6,184)
  • ヴィクトリア州1996年12月~2021年6月
    4.54%(202/4,454)
  • ニューサウスウェールズ州2012年8月~2021年6月
    2.14%(13/607)
  • サウスオーストラリア州2012年12月~2021年6月
    6.46%(21/325)

年齢と突然死

 突然死としてカウントされた犬の平均年齢は5.17歳(6ヶ月齢~16歳)、猫のそれは5.5歳(6ヶ月齢~17歳)でした。年齢層別の割合は以下です。
年齢層(犬のみ)
年齢層別に見た犬の突然死の分布(オーストラリア)
  • 0.5~4歳=45.7%
  • 5~9歳=30.7%
  • 9歳超=15.6%
  • 不明=8.0%

季節と突然死

 季節別の突然死件数をカウントしたところ、猫と比較して夏の件数が多く、逆に冬の件数が少ないという特徴が浮かび上がってきました。具体的な内訳は以下です。 季節別に見た犬猫の突然死の分布(オーストラリア)
季節性(犬のみ)
  • 春=22.6%
  • 夏=29.0%
  • 秋=24.1%
  • 冬=24.3%

突然死の原因

 突然死の原因を精査したところ、疾患の大分類では以下のような内訳になりました。オレンジが猫、青が犬を表しています。 原因別に見た犬と犬の突然死
死因(犬のみ)
  • 不明=39.15%
  • 心血管=16.75%
  • 消化器=12.97%
  • がん=12.03%
  • 感染症=4.72%
  • 外傷=4.48%
  • 呼吸器不全=3.54%
  • 医原性=2.12%
  • 中毒=1.65%
  • 内分泌=1.18%
  • 毒=0.94%
  • 泌尿器=0.47%
A Multicentre Epidemiologic Study of Sudden and Unexpected Death in Adult Cats and Dogs in Australia
Mirrim Kelly-Bosma, Joerg Henning, et al., Vet. Sci. 2023, 10(9), 582; https://doi.org/10.3390/vetsci10090582

犬の突然死を防ぐ方法

 犬における突然死の原因を探った結果、割合が10%を超える上位項目が不明、心血管、消化器、がん(悪性新生物)となりました。防ぐ方法はあるのでしょうか。

原因不明の突然死

 死後解剖したにも関わらず、死因を特定できなかったケースが全体の39%を占めていました。カナダで行われた調査では12.6%、イタリアで行われた調査では14.5%と報告されていますので、倍以上の開きがあることになります。
 この格差について調査チームは、オーストラリア固有の毒性動物(ヘビ・カエル・ダニ etc)が多いにもかかわらず、死後解剖では詳細な毒物検査が行われないため「原因不明」と解釈されるケースが多くなってしまうのではないかと推測しています。また1年を通して外気温が比較的高いため、死体の自己溶解が速まって死因を特定するのが困難な状態になることも一因として挙げています。

心血管による突然死

 心血管の障害に起因するケースが全体の16.8%(71例)を占めていました。さらに細かく見てみると、拘束型心筋症が22.5%、心内膜症が12.7%、拡張型心筋症が9.9%という内訳でした。
 犬で多い心筋症は肥大型と拡張型ですので、マイナーとも言える「拘束型」が最多というのは以外な印象を受けます。症状として多いのは息切れ、運動不耐性(すぐばてる・散歩を嫌がる)、咳、失神、肺浮腫などで、たとえ医学的知識がなくてもそれほどわかりにくいものではありません。何らかの理由で飼い主もしくは獣医師が見落としたのでしょうか。

消化器系による突然死

 消化器系障害に起因するケースが全体の13%(55例)を占めていました。さらに細かく見てみると、胃拡張・捻転が65.5%と圧倒的多数を占めていました。
 2011年、旅番組で活躍していたラブラドールレトリバーの「だいすけ」くんが、旅先の宿で胃捻転を発症した後急逝するという出来事がありました。大型犬が食事の後に激しい運動をするとこの疾患を発症する危険性がありますので、飼い主は常に要注意です。

がんによる突然死

 がん(悪性新生物)に起因するケースが全体の12%(51例)を占めていました。さらに細かく見てみると、血管肉腫が66.7%と圧倒的多数を占めていました。
 大型犬の飼育割合が多い国では必然的に骨肉腫の発症率が高いと想定されますが、当調査内ではただの1件も報告がありませんでした。理由としては四肢という目に付きやすい場所に発症するため飼い主もしくは獣医師のどちらかが気づき、予期不能な「突然死」にはなりにくいからだと考えられます。
季節性の要因はよく分かっていませんが、猫に比べて夏の症例が多いことから推測し、屋外における熱中症が関わっているような気がします。これは完全に予防可能ですので気をつけましょう。 犬の熱中症はこう防ぐ!