犬と猫の前腕骨比較解剖
調査を行ったのはドイツにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン。前腕骨(橈骨と尺骨)骨折が骨折全体のうちに占める割合に関し、 猫が2~8%なのに対し
犬が18%と極めて高い値を示す理由を探るため、調査とは別の目的で検体に回された犬と猫の骨格を用いた比較解析を行いました。
調査対象となったのは猫8頭(1.7~6.2 kg)と犬8頭(5.8~10.0 kg)。性別や不妊手術の有無に偏りが出ないよう調整されました。CTスキャンを用いて橈骨、尺骨、手根骨領域を3次元的に解析したところ、犬と猫との間で統計的に有意なレベルの差が確認されたといいます。具体的には以下のような項目です。
Franziska Planner, Franziska Feichtner, Andrea Meyer-Lindenberg, Veterinary Medicine and Science(2021), DOI:10.1002/vms3.619
犬と猫の前腕骨の違い
- 骨梁体積率(BV/TV):猫>犬
- 骨梁の数と間隔:猫>犬
- 骨梁の厚さ:猫>犬
- 骨梁連結性:犬>猫
- 異方性:猫>犬
- 骨幹部の皮質骨密度:猫>犬
Franziska Planner, Franziska Feichtner, Andrea Meyer-Lindenberg, Veterinary Medicine and Science(2021), DOI:10.1002/vms3.619
犬の前腕は生まれつき脆い
得られたデータから調査チームは、犬における前腕骨折率の高さは、猫に比べてそもそも構造が脆弱であることが原因ではないかと推測しています。
解剖学的なもろさ
「骨梁体積率(BV/TV)」は骨の全体積に占める骨梁の体積で、値が高いほど骨密度が高くて丈夫であると解釈されます。猫と比べると犬では明白な低値を示しましたので、少なくとも猫よりは骨がもろいということになります。また骨の中の空洞を支える支柱とも言える海綿骨に関し、一本一本が猫よりも細いという点も同様の結論を支持しているでしょう。
さらに「異方性」とは物質や空間の物理的性質が方向によって異なる性質のことで、海綿骨の脆弱性とは負の相関関係にあるとされています。つまり異方性が大きいと海綿骨が丈夫となり、小さいと逆に弱くなるということです。猫と比べて犬のほうが明白に小さい値を示しましたので、やはり骨がもろいということになりそうです。
骨の表面を覆う厚い部位である皮質骨の密度に関しても猫>犬という明白な格差が見られましたので、まとめると犬は骨の中も外も猫に比べて脆いということになります。
骨の表面を覆う厚い部位である皮質骨の密度に関しても猫>犬という明白な格差が見られましたので、まとめると犬は骨の中も外も猫に比べて脆いということになります。
小型犬は落下事故に注意
瞬発系のハンターである猫は高い所に登ったり獲物めがけて高所から飛び降りたりするという習性上、動物種として生まれつき前腕が丈夫にできています。一方、持久系のハンターである犬は、走行中の反復的な衝撃くらいは耐えられるものの、高い場所から落下したときの加速度までは吸収しきれないものと考えられます。
加えて、選択繁殖によって極端に体が小さく固定された犬種では、体重を基準としたときの骨密度が低下している可能性も否定できません。チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなど、超小型犬と呼ばれる犬たちで骨折が多く報告されている理由は、そもそも猫に比べてそれほど丈夫でない前腕骨が、品種固定によってさらに弱まったからだと考えられます。
小型犬でなくても車のラゲッジスペース、ソファの上、トリミングテーブル、診察台からの落下にはご注意ください。