犬の訓練時期と問題行動リスク
子犬時代における訓練歴が問題行動の出現リスクにどのような影響を及ぼすかを統計的に検証するため、アメリカにあるタフツ大学カミングス校のチームは2019年9月から6週間に渡り、「Center for Canine Behavior Studies」の会員およびSNS(Twitter, Instagram, Facebook)の利用者にアンケートを配布してデータを収集しました。
最終的な調査対象となったのは641人の飼い主に飼育されている合計1,023頭分のデータ。基本的な属性値は以下です。
Ian R. Dinwoodie, Vivian Zottola, Nicholas H. Dodman, Animals 2021, DOI:10.3390/ani11051298
最終的な調査対象となったのは641人の飼い主に飼育されている合計1,023頭分のデータ。基本的な属性値は以下です。
犬の基本属性
- 年齢中央値=7歳(1~19歳)
- 不妊手術率=87%
- オス=49%(うち89%が去勢)
- メス=51%(うち86%が避妊)
子犬時の訓練時期
- 3ヶ月齢以下=47%(234頭)
- 4ヶ月齢=26%(130頭)
- 5~6ヶ月齢=24%(118頭)
訓練への参加回数
- 3回以下=10%(49頭)
- 4~6回=24%(120頭)
- 7~9回=15%(72頭)
- 10回以上=49%(242頭)
- 不明=2%(11頭)
生後6ヶ月齢までの訓練歴
- 攻撃行動=0.71
- 強迫行動=0.64
- 破壊行動=0.60
- 無駄吠え=0.68
- 粗相=1.56
正の強化で訓練
- 攻撃行動=0.52
1歳加齢
- 飛びつき=0.84
Ian R. Dinwoodie, Vivian Zottola, Nicholas H. Dodman, Animals 2021, DOI:10.3390/ani11051298
大事なのは訓練時期より方法
研究チームの言によると、調査の目的は「子犬の頃の訓練歴が1歳を過ぎてからの問題行動にどのような影響を及ぼすかを明らかにすること」でした。しかしアンケートの内容をよく見ると調査手順に重大な不備があるようです。
たとえば訓練内容がただ単に「puppy training」とだけ記載されており、子犬同士を自由に遊ばせる「パピークラス」なのか、それとも系統立てて特定の行動をマスターさせる「訓練プログラム」なのかがわかりません。また問題行動に関するアンケートでは「少なくとも1回何らかの問題行動をすることはありましたか?」とだけ記載されており、「1歳を過ぎてから」の明記がありません。これでは「生まれてから今に至るまで」と解釈する人が現れて、回答を「1歳を過ぎてからの問題行動」に絞れなくなります。
論理の飛躍がないよう、データの解析結果を慎重に言い換えると「生後6ヶ月齢前のタイミングでパピークラスもしくは訓練プログラムを受けている場合、飼い主が少なくとも1回特定の問題行動を目撃する確率が低減する」となるでしょう。
問題行動として最も多く報告されたのが「粗相」(78%, 798頭)だった事実からわかりやすいシナリオを1つ例示すると、「粗相が見られたので子犬を何らかの訓練につれていく→飼い主がごほうびを用いた正の強化を学習する→家に帰ってから繰り返し犬に用いる→問題行動予防になる→少なくとも1回特定の問題行動を目撃する確率が低減する」となるでしょうか。このシナリオが真実に近いのだとすると、訓練歴がある犬たちにおいて「粗相」でだけオッズ比の増加(OR1.56)が見られ、その他の問題行動では逆に低下が見られたことの説明になりますね。
たとえば訓練内容がただ単に「puppy training」とだけ記載されており、子犬同士を自由に遊ばせる「パピークラス」なのか、それとも系統立てて特定の行動をマスターさせる「訓練プログラム」なのかがわかりません。また問題行動に関するアンケートでは「少なくとも1回何らかの問題行動をすることはありましたか?」とだけ記載されており、「1歳を過ぎてから」の明記がありません。これでは「生まれてから今に至るまで」と解釈する人が現れて、回答を「1歳を過ぎてからの問題行動」に絞れなくなります。
論理の飛躍がないよう、データの解析結果を慎重に言い換えると「生後6ヶ月齢前のタイミングでパピークラスもしくは訓練プログラムを受けている場合、飼い主が少なくとも1回特定の問題行動を目撃する確率が低減する」となるでしょう。
問題行動として最も多く報告されたのが「粗相」(78%, 798頭)だった事実からわかりやすいシナリオを1つ例示すると、「粗相が見られたので子犬を何らかの訓練につれていく→飼い主がごほうびを用いた正の強化を学習する→家に帰ってから繰り返し犬に用いる→問題行動予防になる→少なくとも1回特定の問題行動を目撃する確率が低減する」となるでしょうか。このシナリオが真実に近いのだとすると、訓練歴がある犬たちにおいて「粗相」でだけオッズ比の増加(OR1.56)が見られ、その他の問題行動では逆に低下が見られたことの説明になりますね。
訓練は社会化期の後でもOK
子犬を他の犬や動物に慣れさせる社会化訓練は7~8週齢からスタートし、テクニックを用いた系統的な訓練は3ヶ月齢になるまでに行うのが望ましいと米国動物行動獣医協会(AVSAB)が推奨しているように、一般的に子犬に何らかの訓練を行う場合は社会化期(生後4~13週齢)の期限内に行うのが最適と考えられています。
この推奨項目を証明するかのように、「3~4ヶ月齢未満のタイミングで訓練を受けた子犬では見知らぬ人への恐怖が低減する(:Kutsusumi, 2013)」とか、「7~16週齢の期間、何の訓練も受けていなかった都会ぐらしの犬では成犬になってから恐怖症を示すリスクが高い(:Puurunen, 2020)」といった調査報告があります。
その一方、「生後6ヶ月齢になるまでにごほうびベースの訓練を受けた子犬は、成犬になってから同居犬への攻撃性、訓練性、非社会的恐怖、接触感受性のスコアが良かった (:Martinez, 2019)」とか、「6ヶ月齢になるまでにパピークラスや訓練に参加した場合、問題行動スコアが有意に減り、高い学習能力を発揮する時期は6~9ヶ月齢まで持続する(:Thompson, 2009)」など、社会化期を過ぎても訓練に十分な効果があることを示す報告もあります。 当調査では後者が再確認されましたので、社会化期が終わったからと言って「もう遅いから何をしても無駄だ」と諦めず、積極的に訓練には参加したほうが良いでしょう。このアドバイスは、たとえ社会化期が過ぎていてもパピークラスへ参加することで容易に社会性を取り戻すことができるという、イアン・ダンバー博士(正の強化を広めた先駆者の一人)の逸話的報告とも矛盾しません。
この推奨項目を証明するかのように、「3~4ヶ月齢未満のタイミングで訓練を受けた子犬では見知らぬ人への恐怖が低減する(:Kutsusumi, 2013)」とか、「7~16週齢の期間、何の訓練も受けていなかった都会ぐらしの犬では成犬になってから恐怖症を示すリスクが高い(:Puurunen, 2020)」といった調査報告があります。
その一方、「生後6ヶ月齢になるまでにごほうびベースの訓練を受けた子犬は、成犬になってから同居犬への攻撃性、訓練性、非社会的恐怖、接触感受性のスコアが良かった (:Martinez, 2019)」とか、「6ヶ月齢になるまでにパピークラスや訓練に参加した場合、問題行動スコアが有意に減り、高い学習能力を発揮する時期は6~9ヶ月齢まで持続する(:Thompson, 2009)」など、社会化期を過ぎても訓練に十分な効果があることを示す報告もあります。 当調査では後者が再確認されましたので、社会化期が終わったからと言って「もう遅いから何をしても無駄だ」と諦めず、積極的に訓練には参加したほうが良いでしょう。このアドバイスは、たとえ社会化期が過ぎていてもパピークラスへ参加することで容易に社会性を取り戻すことができるという、イアン・ダンバー博士(正の強化を広めた先駆者の一人)の逸話的報告とも矛盾しません。
訓練はごほうびベースで
何らかの訓練歴がある犬のうち、心地よさを与える強化刺激ベースの訓練を受けた割合が89%(440頭)、痛みや不快感を与える嫌悪刺激ベースの訓練を受けた割合が11%(54頭)となりました。両群を比較した結果、強化刺激ベースの訓練を受けたでは特に「攻撃行動」のリスクが半減(OR0.52)することが明らかになりました。
強化刺激(=ごほうび)の重要性は21世紀に入ってから繰り返し述べられていることであり、当調査でも追認された形になります。
訓練への参加時期や参加回数に関わらず問題行動のリスク低下が認められましたので、重要なのは飼い主の知識レベルだと考えられます。なるべく早い段階でごほうびベースのしつけ方をマスターしてしまいましょう。