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パピークラス(パピーパーティ)への参加は子犬の社会性を高める

 20週齢未満の子犬の飼い主を対象とした調査により、パピークラスへの参加は子犬の社会性を向上させることが明らかになりました(2017.12.21/カナダ)。

詳細

 調査を行ったのはカナダにある複数の大学からなる共同チーム。2014年6月から11月の期間、カナダとアメリカに暮らす生後20週齢未満の子犬の飼い主(18歳以上)を対象としてアンケート調査を行い、パピークラスへの参加が後の子犬の社会性にどのような影響を及ぼしているのかを検証しました。
パピークラス
 パピークラスとは子犬をさまざまな刺激と触れ合わせることを目的としたセッションのこと。パピーパーティとも。複数の子犬たちが一箇所に集まり、たわむれたりじゃれ合ったりする他、音への順化、簡単なコマンド(おすわり・こい・ふせ etc)といったしつけが含まれることもある。 元動画は→こちら
 調査の結果、296人の飼い主から回答が寄せられ、そのうち145人(49.0%)が何らかの形でパピークラスに参加したことがあることが判明しました。そしてパピークラスに参加したことのある飼い主(および子犬)と、参加したことがない飼い主(および子犬)を様々な切り口で比較したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
パピークラスと犬および飼い主の特徴
  • 参加した子犬では騒音(雷、掃除機)に対する恐怖反応が弱い
  • 参加した子犬ではクレートに対する抵抗が少ない
  • 参加しなかった飼い主は罰をベースとしたしつけを採用する傾向が強い
  • 収入が多い飼い主ほどクラスに参加する傾向が強い
  • 家庭に子供がいない人の方がクラスに参加する傾向が強い
  • 郊外に暮らしている人の方がクラスに参加する傾向が強い
 こうした結果から調査チームは、社会化期におけるパピークラスへの参加は子犬の社会性を向上させるのに役立っているとの結論に至りました。また、この時期の子犬と最も接する機会が多い獣医師が、パピークラスの重要性を飼い主に対してインフォームするソースになるべきだと提案しています。
Puppy socialization practices of a sample of dog owners from across Canada and the United States
Janet H. Cutler PhD; Jason B. Coe DVM, PhD; Lee Niel PhD, doi.org/10.2460/javma.251.12.1415, Journal of the American Veterinary Medical Association December 15, 2017, Vol. 251, No. 12, Pages 1415-1423

解説

 子犬の社会化期は生後3~13週齢で、この時期にどのような刺激を受けるが後の行動様式に大きな影響を及ぼすとされています。しかし具体的にどのような刺激をどの程度与えるのがベストなのかに関しては明確な基準がなく、今回の調査でもパピークラスの内容はバラバラでした。例えばセッション回数は1~10回、インストラクターの数は1~4人といった感じです。しかし総じて言うと、この時期におけるパピークラスが他の犬や飼い主以外の人間との接触機会を増やし、犬の社会性にプラスに作用していると言えそうです。 子犬の社会化期
 クラスに参加した飼い主と参加しなかった飼い主を比較した場合、子犬に対する接し方に違いが見られました。統計的に有意と判断されたのは以下の5項目です(割合は参加者:非参加者の順)。
パピークラスと飼い主のしつけ方
  • ご褒美ベースのしつけ方→93.1 vs 86.1%
  • 言葉による修正→82.1 vs 96.0%
  • 気をそらす→95.2 vs 82.8%
  • 無視する→36.6 vs 19.9%
  • 背中押さえつける→20.7 vs 76.2%
 クラスに参加しなかった人では「コラッ!」など言葉による修正や背中押さえつけるといった罰を用いたしつけ方をする割合が高く、逆にご褒美ベースのしつけ方を用いる人が少ないようです。おそらく、クラスの中でしつけの基礎を学ばなかったため、我流になったりインターネット上にある不確かな情報を鵜呑みにしてしまった結果だと推測されます。こういった意味においては、パピークラスは子犬の社会化を促すのみならず、飼い主のしつけ基礎クラスとしての側面も持っているようです。なお犬に対するしつけの基礎、および罰がもたらす悪影響に関しては犬のしつけの基本で詳しく解説してありますのでご参照ください。 犬のしつけの基本
 パピークラスのネックとなるのがワクチンプログラムとのバッティングです。AAHA(全米動物病院協会)やWSAVA(世界小動物獣医協会)のガイドラインでは、初年度のワクチンは生後6~8週頃に1回目、それから2~4週の間隔をあけて2回目、生後16週以降で3回目が標準とされています。子犬の社会化期は3~13週齢ですので、ちょうどワクチンを1~2回打っただけの状態でクラスに参加しなければなりません。全く打っていない状態よりはましですが、完全に免疫が確立している状態とも言えませんので、感染症にかかる危険性を否定できません。 犬のワクチン接種  しかし社会化期は一生涯のうちこの時期にしかないこと、社会化期の過ごし方が後の社会性や行動様式に大きな影響を及ぼすということ、そして健全な社会性や行動様式が飼い主と犬の「ヒューマン・アニマル・ボンド」を強め、飼育放棄の確率を減らすということなどから考えると、リスクを取る価値はあると思います。アメリカ動物行動獣医学協会(American Veterinary Society of Animal Behavior)が公式声明で「たとえワクチンプログラムが終了していなくてもパピークラスに参加すべき」としているのはこのためです。子犬のパピークラスを選ぶときは感染症としつけ方針に気をつけて  日本国内でもパピークラスがありますが、選ぶときはワクチン接種を義務づけており感染症の危険性がなるべく少ないこと、正の強化を主軸とした簡単なトレーニングセッションがあることなどを基準にするとよいでしょう。罰をベースとしたしつけ方を教えているクラスがないことを祈るばかりですが…。 犬のしつけ方