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飼い主の思わせぶりな態度は犬を悲観的にする?~間欠強化が犬のマインドに及ぼす影響

 望ましい行動に対してご褒美を与えるのはしつけの基本ですが、毎回おやつを与えていたのでは肥満のリスクが高まります。では与えたり与えなかったりする「間欠強化」の方が良いのでしょうか?検証実験が行われました。

連続強化と間欠強化

 犬の行動を強化する(=頻度を高める)ためには、行動の直後に何らかのご褒美を与えてモチベーションを高めることが必要です。行動に対して常にご褒美を与えるデザインは「連続強化」、与えたり与えなかったりバラツキを設けるデザインは「間欠強化」と呼ばれます。
 後者に関しては、「今度はもらえるのかな?もらえないのかな?」というスロット的な要素を含ませることによって犬の探索システムが発動し、集中力が高まって学習が促されるという見方がある一方、「前回はもらえたのに今回はもらえない…」という一貫性の欠如がフラストレーションの原因になるという見方があり、賛否両論です。
 そこでオーストリア・ウィーン大学を中心とした調査チームは、「連続強化」と「間欠強化」が犬の学習速度やマインドに対してどのような影響を及ぼすのかを検証しました。

強化デザインと犬の学習速度

 調査に参加したのは一般家庭で飼育されている30頭のペット犬。参加条件は「クリッカートレーニングや目標としている行動の習熟経験がない」という点です。犬たちをランダムで2つのグループに分け、15頭(オス犬9頭+メス犬6頭平均年齢42.33ヶ月)を100%の割合でご褒美をもらえる「連続強化グループ」、残りの15頭(オス犬8頭+メス犬7頭平均年齢44.07ヶ月)を60%の割合でご褒美をもらえる「間欠強化グループ」とし、「木のボードに少なくとも2秒間両足を乗せる」という目標動作をマスターさせました。
 具体的な強化プロセスは「犬がボードを見る→ボードに一歩近づく→ボードの匂いをかぐ→ボードに片足を乗せる→ボードに両足を乗せる」という具合に、少しずつ目標動作に近づけ、動作とご褒美との間にはクリッカーと呼ばれる器具で「カチッ!」という短いクリック音を聞かせるというものです。
 すべての犬に対し1~3日かけて上記クリッカートレーニングを行ったところ、動作をマスターするまでに要したトライアル回数(中央値)に関し、連続強化グループは39.5回、間欠強化グループは32.5回で、若干の格差は見られたものの統計的に有意とまでは判断されなかったといいます。言い換えると、連続強化でも間欠強化でも学習速度に違いはなかったということです。

強化デザインと犬のマインド

 げっ歯類を対象としたオペラント条件付けの実験では、間欠強化デザインによってネガティブな感情を示す行動が増えるとされています。犬でも同じ現象が確認されるかどうかを検証するため、調査チームは「認知バイアステスト」を行いました。
認知バイアステスト
 部屋を2つの区画に分け、一方を「おやつエリア」、他方を「おやつなしエリア」と固定して犬に記憶させる。犬がエリアと報酬との関連性をしっかりと学習した後、実験者は両方のエリアのちょうど中間(あいまいエリエ)に容器を置く。自由行動を許された犬たちは、果たしてどのような行動をとるか? 報酬が不確実なときの行動パターンで楽観的か悲観的かがわかる  犬がすぐに近づくようなら「楽観的」、逆に近づくまでに時間がかかるとか、そもそも近づかないという場合は「悲観的」と判断される。一般的に悲観的な心的状態では「怖い」とか「不安だ」などネガティブな情緒を抱くことが多いため、ヒト以外の動物においては福祉が損なわていると判断される。
 上記認知バイアステストの結果、間欠強化グループの犬ではボウルに近づくまでに長い時間を要し、悲観的な傾向が見られたといいます。また飼い主に対する21項目のアンケート調査で犬の感受性を評価したところ、ポジティブなものであれネガティブなものであれ、「感受性が強い」と評された犬ではあいまいな刺激を提示されたときにポジティブなバイアスを示す傾向が見られたとも。

強化デザインの一長一短

 今回の調査により、強化デザインが犬の楽観-悲観マインドに影響を及ぼす可能性が示されました。
 日常的に連続強化を受けている犬は自然と楽観主義に傾き、何かに付けて「ご褒美をもらえるかもしれない!」というワクワク感を抱くことで楽しい日々を過ごせるかもしれません。一方、日常的に間欠強化を受けている犬はいつの間にか悲観主義に傾き、「どうせご褒美は出ないんでしょ?」というガッカリ感を抱くことで陰鬱な日々を過ごしてしまうかもしれません。
 学習速度に違いがないのなら誰しも「連続強化」を選ぶところですが、家の中でも外でも常にチーズのかけらやビーフジャーキーを持ち歩き、すべての望ましい行動に対してコンスタントにおやつを与えることはあまり現実的とは言えません。また仮にそれができたとしても、犬が肥満に陥るリスクが高まり、精神衛生は保てても身体的な健康を損なうという本末転倒になってしまいます。
 幸い犬は社会的な報酬に対しても反応してくれる動物ですので、おやつの代わりになでてあげたり明るい声で心の底から「いいこ!」と褒めてあげると、それがご褒美になってくれます。犬の肥満を予防すると同時に、思わせぶりな間欠強化による悲観主義を予防するためには、やはり「褒めて育てる」がベストということでしょう。 犬のしつけの基本