食塩含有量と犬の尿の変化
ペットフードメーカー「ロイヤルカナン」の調査チームは、ドッグフードに含まれるナトリウム含有量が尿中における結石原因物質の相対過飽和度にどのような影響を及ぼすかを検証しました。相対過飽和度(RSS)とは溶媒の中に溶質分子がどのくらい溶けているかを示す指標の1つで、数値が高いほど分子が多く溶けており結晶化しやすい(=結石を形成しやすい)ことを意味します。
給餌試験に参加したのは8頭の犬たち。平均年齢は1.5歳、平均体重は5.58kgで、すべてミニチュアシュナウザーのメスです。ナトリウム含量が異なるA~Dという4種類のフードを10日間にわたって給餌した上で最後の3日間で尿を採取し、様々なパラメーターを分析しました。
Increasing dietary sodium chloride promotes urine dilution and decreases struvite and calcium oxalate relative supersaturation in healthy dogs and cats
Yann Queau, Esther S. Bijsmans, Alexandre Feugier et al., Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition, doi.org/10.1111/jpn.13329
1,000kcal中の食塩濃度
- A:(Na)0.67+(Cl)2.22=(塩)2.89g
- B:(Na)1.68+(Cl)3.58=(塩)5.26g
- C:(Na)2.41+(Cl)4.39=(塩)6.80g
- D:(Na)3.27+(Cl)6.05=(塩)9.32g
フード | A | B | C | D |
飲水量 | 42.0 | 45.9 | 61.5 | 63.7 |
尿量 | 19.9 | 27.6 | 30.8 | 39.0 |
尿比重 | 1.056 | 1.048 | 1.046 | 1.038 |
尿pH | 6.26 | 6.19 | 6.10 | 5.98 |
CaOx RSS | 11.60 | 9.19 | 5.83 | 6.40 |
MAP RSS | 0.81 | 0.32 | 0.16 | 0.06 |
Yann Queau, Esther S. Bijsmans, Alexandre Feugier et al., Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition, doi.org/10.1111/jpn.13329
食塩で犬の尿結石は予防できる?
フード中の食塩(ナトリウム)量が増えるのにほぼ連動する形で、飲水量、尿量、尿中ナトリウムイオン濃度が増加しました。また逆に、尿比重、尿pH(酸性の度合い)、ナトリウム以外の尿中イオン濃度、ストラバイトの相対過飽和度(MAP RSS)、シュウ酸カルシウムの相対過飽和度(CaOx RSS)は低下しました。
シュウ酸カルシウム結石予防
人医学においては、結石患者が塩分の高い食事を摂ると尿中へのカルシウム排出量が増えて結石ができやすくなるため控えるのが基本とされています。犬においても排出量の増加(47.3→66.9μmol/kg/24hr)が確認されましたが、尿量の増加によって希釈され、尿中濃度が逆に減る傾向(2.4→1.73mmol/L)を示しました。また尿中シュウ酸カルシウムの相対過飽和度(CaOx RSS)の低下も確認されましたので、食塩の摂取がシュウ酸カルシウム結石の予防にはなっても、形成リスクにはならないと考えられます。なお食塩の摂取とCaOx RSS低下の関連性は過去に行われた2つの給餌試験においても示されており(Lulich, 2005 | Stevenson, 2003)、効果が現れるカットラインは食塩濃度2.0g/1,000 kcalくらいではないかと推測されています。
ストラバイト結石予防
ストラバイトを構成しているのはリン、マグネシウム、アンモニウムです。尿中濃度に関しては食塩の摂取(フードD)によりリンが220→115mmol/L、マグネシウムが5.44→3.16mmol/L、アンモニウムが185→96mmol/Lに減少し、またストラバイトの相対過飽和度(MAP RSS)の低下も同時に確認されました。この事実から、食塩の摂取がストラバイト結石の形成に対し予防的に作用することはあっても、リスクになることはないのではないかと考えられます。
給餌する際の注意
今回の調査は8頭という少数の犬を対象として行われた短期の給餌試験です。また犬種はなぜかミニチュアシュナウザーに限定されており、性別は全てメスという極端な偏(かたよ)りもありますので、結果をすべての犬種や年齢層に拡大することはできないでしょう。さらに人間においてちらほら報告されている食塩摂取と高血圧の関係性に関しても十分に検証されているとは言えません。
犬の体全体を総合的に考えた時の安全性や危険性ははっきりしませんが、少なくとも結石症の既往歴がある犬においては、フード中の食塩によって飲水量と尿量が増え、尿中の結石成分量や相対過飽和度が減ることにより、結果として結石予防になる可能性はあるでしょう。
研究主体が大手ペットフードメーカーですので、おそらく試験結果は犬向けの療法食という形で反映されるものと推測されます。なお飼い主の自己責任で市販のドッグフードに食塩を混ぜることもできますが、当調査における含有量の単位は「フード1,000kcal中」ですのでご注意ください。「フード1,000g中」や「体重1kg当たり1日」と混同すると、全く違う量になってしまいます。
犬の体全体を総合的に考えた時の安全性や危険性ははっきりしませんが、少なくとも結石症の既往歴がある犬においては、フード中の食塩によって飲水量と尿量が増え、尿中の結石成分量や相対過飽和度が減ることにより、結果として結石予防になる可能性はあるでしょう。
研究主体が大手ペットフードメーカーですので、おそらく試験結果は犬向けの療法食という形で反映されるものと推測されます。なお飼い主の自己責任で市販のドッグフードに食塩を混ぜることもできますが、当調査における含有量の単位は「フード1,000kcal中」ですのでご注意ください。「フード1,000g中」や「体重1kg当たり1日」と混同すると、全く違う量になってしまいます。
慢性腎不全などを抱え、腎臓のろ過能力が低下している犬においては逆に負担になる可能性があります。