犬のバベシア症・不顕性感染率
調査を行ったのは 山口県内の開業医と複数の大学からなる共同チ-ム。犬バベシア症の流行地域として有名な山口県周南市における犬の不顕性感染率を調べるため、臨床上健康な犬を対象とした血液検査が行われました。各用語の基本的な意味は以下です。
さらに犬たちを「過去に感染歴がなく現在もバベシア陰性→【- | -】」、「過去に感染歴があるが現在はバベシア陰性→【+ | -】」、「過去の感染歴はわからないが現在はバベシア陽性→【+】」という3つのグル-プに分け、マダニ予防の実施状況、外出の有無、赤血球数、血球容積、ヘモグロビン濃度などを比較したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
日獣会誌72, 291~295(2019)
- Babesia gibsoni犬バベシア症を引き起こす原虫のうち日本で最も多いタイプ。詳しくは「犬のバベシア症」を参照
- 臨床上健康な犬過去1年以内に重大な全身性疾患による治療歴がなく、かつ受診時に一般状態低下や身体検査異常を示さない犬
- 不顕性感染犬バベシアに感染しているけれども症状は示していない犬
- 外出なしの犬室内及び自宅敷地内のみを散歩する犬
- 外出ありの犬自宅敷地内を出て屋外を散歩する犬
- マダニ予防が完全な犬前年度4~11月の期間、毎月マダニ予防を行った犬
- マダニ予防が不完全な犬投与歴がまったくない~予防していない時期がある犬
さらに犬たちを「過去に感染歴がなく現在もバベシア陰性→【- | -】」、「過去に感染歴があるが現在はバベシア陰性→【+ | -】」、「過去の感染歴はわからないが現在はバベシア陽性→【+】」という3つのグル-プに分け、マダニ予防の実施状況、外出の有無、赤血球数、血球容積、ヘモグロビン濃度などを比較したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
バベシアの感染ステータスとそれぞれの特徴
- 【+】の平均年齢9.2歳は【- | -】の7.4歳に比べて高かった
- 【+】の平均年齢9.2歳は【- | -】の7.4歳に比べて高かった
- 【+】でマダニ予防が完全な犬の割合6.3%は【- | -】の44.8%に比べて有意に低かった
- 外出の有無に関し【+】が97.4%、【+ | -】が81.3%で、これら二者は【- | -】の60.2%と比べて有意に高かった
- 【+】の赤血球数、血球容積、ヘモグロビン濃度、血小板数はすべて【- | -】よりも有意に低い値を示した
- 【+ | -】と比較した時、【+】ではヘモグロビン濃度と血小板数が有意に低い値を示した
- 【- | -】と比較した時、【+ | -】では赤血球数、血球容積、ヘモグロビン濃度が有意に低い値を示した
日獣会誌72, 291~295(2019)
バベシア感染症の危険因子
今回の調査により、バベシア感染症のリスクファクターとして以下のような項目が浮かび上がってきました。
犬の年齢とバベシア症
バベシア陽性犬の平均年齢9.2歳は陰性犬の7.4歳に比べて高かったという事実から、流行地においては犬が長生きすればするほどマダニと接触するリスクが高まり、それと連動する形でバベシア感染率が高まるものと推測されます。
たとえば今回の調査対象となった山口県では、1つの動物病院におけるバベシア患犬数が平均25.4頭なのに対し、全国平均が0.54頭となっています。単純計算でリスクは47倍です。
たとえば今回の調査対象となった山口県では、1つの動物病院におけるバベシア患犬数が平均25.4頭なのに対し、全国平均が0.54頭となっています。単純計算でリスクは47倍です。
マダニ予防とバベシア症
バベシア陽性と診断された犬のうち、マダニ予防が完全だった割合はわずか6.3%でした。それに対し過去も現在もバベシア症に感染していない犬の予防率は44.8%と高いものでした。マダニ予防薬のコンプライアンスがバベシア症を予防する上で極めて重要であることが伺えます。
外出の有無とバベシア症
過去に一度でもバベシア症に感染した事がある犬の外出率は、まったく感染したことがない犬の外出率に比べて高いことが判明しました。マダニは屋外に生息していますので外出率が高いほど感染率が高まることは自明の理です。また自宅の敷地内だけを散歩エリアにしている犬においても感染が確認されていますので、庭先といった近場であってもマダニが生息している可能性は否定できません。
バベシア症と血液組成
赤血球数、血球容積、ヘモグロビン濃度、血小板数といった血液組成に関し、【- | -】>【+ | -】>【+】という関係性が見られました。B.gibsoniは赤血球で分裂・増殖しますので、バベシア陽性犬において溶血が引き起こされ、貧血気味になるのは当然です。
犬のバベシア症・飼い主の注意点は?
今回得られた知見からポイントや教訓を引き出すと以下のようになるでしょう。
なおマダニが媒介する病気に関しては以下のページでも詳しく解説してありますのでご参照ください。
- 外出にはマダニに噛まれるリスクが伴う
- マダニ予防によって刺咬症のリスクは低下する
- 刺されるリスクが減ればマダニが媒介する寄生虫やウイルス感染リスクも低下する
- 脾臓摘出、免疫抑制剤投与、ストレスなどを引き金として顕性化することがある
- 不顕性キャリアの血液を輸血することによっても感染が成立する
なおマダニが媒介する病気に関しては以下のページでも詳しく解説してありますのでご参照ください。