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犬が草地を散歩した後は涙嚢内異物に注意!

 草地を散歩した後、犬の片目からやたらと涙が出たり目やにが止まらないという場合、涙嚢(るいのう)の中に異物が挟まっているかもしれません。

犬の涙嚢炎とは?

 涙嚢(るいのう, lacrimal sac)とは涙を排出する時に液体を溜め置く袋状の構造物。犬の目頭付近に位置しています。 犬の涙の排水システムにおける涙嚢の位置  涙嚢炎と言った場合は、何らかの理由により涙嚢に炎症が生じてしまった状態のことを指します。通常は片側性で、年齢にかかわらず発症します。原因の多くは異物による目詰まりです。
 犬が涙嚢炎を発症すると、眼瞼内眼角(=目頭)から粘性~粘液膿性の目やにが大量に出たり、涙嚢を押したときに目やにが涙点を通じて逆流するといった症状を示すようになります。 涙嚢炎を発症した犬の眼球からの排出液

涙嚢炎の最新検査と治療

 今回の症例報告を行ったのは、イタリア・ピサ大学獣医科学部のチーム。通常行われる鼻涙嚢造影術やCTスキャンの代わりに、超音波検査機器を用いて4頭の犬を診察しました。以下は涙嚢炎と診断された患犬たちの概要です。

涙嚢炎の症状

  • 症例1【患犬】雑種犬 | 1歳 | メス
    【症状】受診の14日前、牧草地を散歩した後に突然発症し、結膜充血のほか左目だけから血液混じりで粘液膿性の目やにが出るようになった。
  • 症例2【患犬】イングリッシュセッター | 8歳 | オス
    【症状】12ヶ月前、ハンティングシーズンが終わったころから発症。左目は重度の結膜炎による粘液膿性の目やに、右目は結膜充血による粘性の目やに。別の病院で抗生物質を含んだ局所点眼薬を処方してもらったが改善は見られなかった。
  • 症例3【患犬】シーズー | 11歳 | 去勢オス
    【症状】左目は眼圧の上昇(35mmHg)が確認され、緑内障による牛眼(眼球が飛び出すこと)。また接触性の角膜炎による血管新生と色素沈着が見られる。4年前から発症していたものの投薬治療は行われていなかった。右目は18ヶ月前から結膜の充血、表層性の角膜炎、粘液膿性の目やに、瘻(ろう=外傷や潰瘍でできた穴)が見られる。下眼瞼や皮膚上の2つの瘻は4~6ヶ月前からでき始めたという。
  • 症例4【患犬】ラブラドールレトリバー | 4歳 | メス
    【症状】7ヶ月前、公園を散歩した後から左目に血液混じりで粘液膿性の目やにが突然出始めた。結膜充血と軽度の結膜浮腫もあわせて見られた。

涙嚢炎の検査と治療

 検査に際しては超音波検査機器(Aplio 400, Toshiba, Japan)が用いられました。その結果、5つの患目のうち4つにおいて涙嚢内の異物を発見することができたといいます。超音波モニター上の特徴は、槍のような形状をした高エコー構造物で、大きさは概ね0.6cm~1.8cm。全ケースで炎症によるものと思われる高エコーハロウサインが確認されました。 超音波検査機器で確認できた犬の涙嚢内異物  治療に際しては犬たちに全身麻酔をかけ、超音波ガイダンスによって上涙点にアリゲーター鉗子を挿入して異物を除去しました。その後、0.9%生理食塩水で鼻涙管の逆流洗浄を行いました。 犬の涙嚢から取り出された植物性の異物  21日後のタイミングで追跡調査を行ったところ、症例1、3、4においては涙嚢炎の症状が消えたといいます。症例2の犬は連絡が取れなくなったため、治療の成否は分からずじまいでした。

症例のポイント

 涙嚢炎の検査においては通常鼻涙嚢造影術やCTスキャンが行われます。しかしこれらの検査法は侵襲性が高く、値段も高額というデメリットがあります。
 調査チームは、従来の方法に比べて超音波検査機器を用いた方法は、侵襲性が低く安価な方法であると推奨しています。ただし鼻涙管は超音波では検査しにくい骨の中を走行しているため、超音波検査法は涙嚢と涙小管にしか使えないとも。涙嚢炎は多くの場合、涙嚢内に混入した異物が原因であるため第一選択肢としては超音波検査の方が良いのではないかと提案しています。
Ultrasonography-guided removal of plant-based foreign bodies from the lacrimal sac in four dogs
Barsotti et al. BMC Veterinary Research (2019) 15:76, https://doi.org/10.1186/s12917-019-1817-9

飼い主として気をつけることは?

 今回紹介された症例では「散歩をした後に突然発症した」というパターンが多く見られました。おそらく植物が生い茂っているところをかき分けながら歩いたのでしょう。涙嚢の中に侵入した植物の種類まではわかりませんでしたが、形状から見てイネ科植物のノギ(芒)ではないかと推測されます。ノギは眼球のみならず、耳の中に入って中耳炎の原因にもなりますので厄介です。 犬や猫の耳の異物混入として多い、植物のノギ(芒)  飼い主として注意すべきは、散歩する時は草の生い茂った場所を避けることと、散歩から帰った後は犬の耳や目をチェックしてあげるとことです。
 目に異常があると異常に涙が出たり目やにが出たりします。耳に異常があると頭を振ったり後ろ足でカキカキし始めます。散歩から帰った後、急におかしな症状や行動が見られるようになったら、植物が異物として目や耳に入ったのかもしれません。
 症例報告にあったように、ひどいときは気づかれないまま数ヶ月~1年以上経過してしまうこともありますので、体のチェックをする習慣をつけておいたほうが良いでしょう。 犬の流涙症 耳への異物混入