詳細
調査を行ったのはイギリス「University Centre Hartpury」のチーム。チェルトナムにある保護施設に収容された15頭の犬(すべて不妊手術済み | オス13頭 | 平均4歳4ヶ月 | 2頭の小型犬を除いてすべて中型犬以上)を対象とし、「匂い」という嗅覚的な刺激が犬の行動にどのような変化を及ぼすかを検証しました。実験に用いられたのは以下のような匂いで、すべて布(35cm×30cm)にエッセンシャルオイルを5滴垂らすという形で用いられました。
Johnathan Binks, Sienna Taylor et al., Applied Animal Behaviour Science(2018), doi.org/10.1016/j.applanim.2018.01.009
実験用アロマ
- 布も匂いもなし
- 布だけで匂いなし
- バニラ
- ココナッツ
- ジンジャー
- バレリアン
アロマと犬の行動変化
- 匂いがある状況では発声が減った
- 匂いがある状況では動き回りが減った
- 匂いがある状況では休息が増えた
- 特にココナツとジンジャーでは睡眠が増えた
- 発声は匂いも布もない状況で最も多かった
- 動き回りは匂いも布もない状況で最も多かった
Johnathan Binks, Sienna Taylor et al., Applied Animal Behaviour Science(2018), doi.org/10.1016/j.applanim.2018.01.009
解説
環境に働きかけて動物の生得的な行動パターン発現を促し、福祉を向上させることを「環境エンリッチメント」と言います。犬は嗅覚の動物ですので何らかの匂いを嗅がせてストレス緩和に役立たせたいところですが、驚くべきことにこの分野に関する研究は今までほとんど行われてきませんでした。
チーズやレバーの匂いを嗅がせれば犬が喜んでくれる事は間違いありません。しかし匂いはするけれどもゲットできないという状況は、犬にとってストレスの原因になってしまうでしょう。また自分では解決できない問題に直面したときの常として、「ワンワン!」と要求吠えをして人間を呼ぼうとするかもしれません。これでは環境エンリッチメントではなく、逆に環境の貧困化です。
今回の調査で用いられた匂いのサンプルは過去に他の動物を対象として行われた調査で安全性と効果が確認されているものです。こうした匂いは食物とは関係がありませんので、犬の食欲をむやみに刺激することないと考えられます。ストレス緩和効果があったらなお良しです。
しかし調査チームも指摘していますが、この種の解釈は慎重に行わなければなりません。例えば発声が減ったという現象は退屈した時や嫌悪感を抱いたときにも起こりえます。ちょうど電車の中でひどい柔軟剤の臭いに出くわしたときの人間と同じです。また睡眠行動が増えたという行動は、学習性無力(何をやっても無駄だという諦め)を獲得したときにも起こりえます。つまり行動の裏側にある犬の心的な状態をどのように解釈するかによって意味が全く変わってしまうのです。 今回の調査結果から「犬にアロマを嗅がせよう!」という結論に飛びついてしまうのはまだ早計と考えられます。「ある特定の匂いによって犬のストレスが緩和される可能性がある」くらいの表現にとどめておくのが妥当でしょう。家庭内でアロマを試す場合は、実験で用いられたバニラ、ココナツ、ジンジャー、バレリアンなど安全性の高いものから始めると良いかもしれません。なお保護施設ではなく一般家庭において、犬の無駄吠えを減らして睡眠時間を増やすためのゴールドスタンダードは、サボらずにしっかりと散歩を行い、外の匂いをいろいろと嗅がせてあげることなのは言うまでもありません。
匂いのエンリッチメント効果
- バニラとココナツウォンバットの探索行動を増やした | バニラはアシカの常同行動を減らした
- ジンジャーライオンの行動を増やした | ワウワウテナガザルの渉猟行動を増やした
- バレリアン猫の多幸感を引き起こした | ラットの不安を軽減した
しかし調査チームも指摘していますが、この種の解釈は慎重に行わなければなりません。例えば発声が減ったという現象は退屈した時や嫌悪感を抱いたときにも起こりえます。ちょうど電車の中でひどい柔軟剤の臭いに出くわしたときの人間と同じです。また睡眠行動が増えたという行動は、学習性無力(何をやっても無駄だという諦め)を獲得したときにも起こりえます。つまり行動の裏側にある犬の心的な状態をどのように解釈するかによって意味が全く変わってしまうのです。 今回の調査結果から「犬にアロマを嗅がせよう!」という結論に飛びついてしまうのはまだ早計と考えられます。「ある特定の匂いによって犬のストレスが緩和される可能性がある」くらいの表現にとどめておくのが妥当でしょう。家庭内でアロマを試す場合は、実験で用いられたバニラ、ココナツ、ジンジャー、バレリアンなど安全性の高いものから始めると良いかもしれません。なお保護施設ではなく一般家庭において、犬の無駄吠えを減らして睡眠時間を増やすためのゴールドスタンダードは、サボらずにしっかりと散歩を行い、外の匂いをいろいろと嗅がせてあげることなのは言うまでもありません。
エッセンシャルオイルの中で「ティーツリー」は犬に中毒症状を引き起こすことが確認されています。シャンプーやイヤークリーナーに含まれているからと言って原液を皮膚に直接塗りつけるのはお控え下さい。