詳細
調査を行ったのは、イギリス・リバプール大学を中心とする共同研究チーム。2014年6月から8月の期間、イギリス国内に暮らしている犬の飼い主を対象としたオンラインアンケート調査を行い、犬たちの散歩量を犬種ごとに平均化しました。71犬種12,314頭のデータから導き出された主な数値は以下です。
Emily Pickup et al., Journal of Nutritional Science(2017), vol. 6, doi.org/10.1017/jns.2017.7
1日1回以上散歩を行うかどうかに関し、「犬の年齢」、「不妊手術の有無」、「体のサイズ」が変動因子になることが明らかになりました。具体的には以下です。数値は「条件を満たしている割合」を表しています。
運動量の変動要因
- 犬の年齢●1~3歳未満→87.7%
●3~10歳未満→84.3%
●10歳以上→81.9% - 不妊手術の有無●未手術→81.8%
●手術済み→86.0% - 体のサイズ●小型→78.7%
●中型→85.0%
●大型→87.5%
運動量基準・超過率
- 小型犬運動量目安は1日1時間が70%、30分が30%で、満たしている割合は71%
- 中型犬運動量目安は1日2時間が36.6%、1日1時間が63.4%で、満たしている割合は52%
- 大型犬運動量目安は1日2時間が87.2%、1日1時間が12.8%で、満たしている割合は18%
Emily Pickup et al., Journal of Nutritional Science(2017), vol. 6, doi.org/10.1017/jns.2017.7
解説
世界各国の犬種協会はほとんどの場合、それぞれの犬種の歴史的背景などとともに、飼育者へのアドバイスとして「運動量の目安」を提示しています。しかしこの数字には科学的な根拠がなく、飼育経験者からの逸話や感想をもとにして「なんとなく」設定されているものばかりです。例えば今回の調査でも、イギリスのケネルクラブが設定している運動量が基準値として用いられましたが、そもそもこの基準値自体が正しいのかどうかがわかりません。ですから「基準値を満たしていなかった=運動量が足りない」とは必ずしも即断できないということになります。
事実としては、犬の年齢が上がれば上がるほど日々の運動回数が減っていくという現象が確認されました。関節炎を抱えているなど、犬の老化現象や健康状態が影響を及ぼしているものと推測されます。また不妊手術を施していない犬よりも不妊手術を施した犬の方が日々の運動が多くなることが明らかになりました。手術に伴う体重増加がモチベーションとなり運動量の増加につながっているのでしょうか。さらに体のサイズが大きくなればなるほど、日々の運動回数が増えていくという関係性が見いだされました。小型犬は少数回の散歩でも満足してくれるのに対し、大型犬は頻繁に散歩に連れ出してある程度疲れさせないと、家の中で暴れて収拾がつかなくなるといった事情があるのかもしれません。
イギリスの獣医師からなるチャリティ団体「PDSA」が英国内に暮らす31,500人の犬の飼い主にアンケート調査して作成した「動物福祉レポート2015」では、およそ230万頭の犬たちが日常的に5時間以上の留守番を強いられ、465,000頭の犬達が散歩にすら連れていってもらえていないという推定値が報告されています。犬の運動不足は欲求不満つながり家庭内での問題行動を引き起こす危険性をはらんでいます。問題行動は時として犬の飼育放棄に繋がりますので、適度な運動によっていい意味で犬を疲れさせる事は、飼い主と犬の関係を長期的に維持するために重要だと考えられます。犬の無駄吠えや家庭内での破壊行動がひどい場合は、ドッグトレーナーに預ける前にまず散歩の量を増やすというところから始めてみてはいかがでしょうか?