詳細
報告を行ったのはアメリカ・ミズーリ大学コロンビア校のチーム。大型犬やウェルシュコーギーペンブロークで好発する「変性性脊髄症」(DM, degenerative myelopathy)と、人間の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者が、共に「スーパーオキシドジスムターゼ1」(SOD1)と呼ばれる遺伝子の変異によって引き起こされることに注目したチームは、人医学の分野でALSの診断に用いられている「リン酸化ニューロフィラメントH」(pNF-H)と呼ばれるバイオマーカーが犬のDM診断にも役立つのではないかという仮説を立て、検証を行いました。
調査対象となったのは、DMを発症した53頭と神経学上健康な同じ年齢層の27頭、変異遺伝子をヘテロ型で保有したキャリア7頭、そして臨床症状だけがDMに似ている別疾患を抱えた12頭。すべての犬から脳脊髄液を採取して「pNF-H」の濃度を調べてみたところ、DM患犬とその他のグループ間で明白な違いが見られたと言います。
Toedebusch, C.M., Bachrach, M.D., Garcia, V.B., Johnson, G.C., Katz, M.L., Shaw, G., Coates, J.R. and Garcia, M.L. (2017), J Vet Intern Med, 31: 513-520. doi:10.1111/jvim.14659
調査対象となったのは、DMを発症した53頭と神経学上健康な同じ年齢層の27頭、変異遺伝子をヘテロ型で保有したキャリア7頭、そして臨床症状だけがDMに似ている別疾患を抱えた12頭。すべての犬から脳脊髄液を採取して「pNF-H」の濃度を調べてみたところ、DM患犬とその他のグループ間で明白な違いが見られたと言います。
脳脊髄液pNF-H濃度(ng/mL)
- DMステージ1=23.9
- DMステージ2=36.8
- DMステージ3=25.2
- DMステージ4=38.0
- 健常犬=5.1
- キャリア=3.4
- 症状類似犬=6.6
pNF-HとDMの感度・特異度
- 感度=80.4%
- 特異度=93.6%
Toedebusch, C.M., Bachrach, M.D., Garcia, V.B., Johnson, G.C., Katz, M.L., Shaw, G., Coates, J.R. and Garcia, M.L. (2017), J Vet Intern Med, 31: 513-520. doi:10.1111/jvim.14659
解説
変性性脊髄性(DM)は、ジャーマンシェパードの好発疾患として1973年に初めて報告された進行性の神経疾患。基本情報は以下です。
犬と猫の神経病学(緑書房, P389-395)
犬の変性性脊髄性(DM)
- 病態よくわかっていない。神経細胞から伸びる軸索の異常、免疫系による神経系への過剰攻撃、ビタミンやミネラルの欠乏といった仮説が検証されている。
- 原因2009年、ミズーリ大学の遺伝子調査により、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)と呼ばれる遺伝子の変異が発症に深く関わっているとことが明らかになった。通常は変異遺伝子をホモ型で保有しているときに発症するが、ごく稀にヘテロ型での発症も報告されている。なお人間におけるSOD1遺伝子の変異は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症に関わっている。
- 好発犬種ほとんどが中~大型犬。具体的にはジャーマンシェパード、ボクサー、ラブラドールレトリバー、ローデシアンリッジバック、チェサピークベイレトリバー、シベリアンハスキー。近年は小型犬の飼育頭数が多い日本においてウェルシュコーギーペンブロークでの発症が多発している。
- 好発年齢大型犬での発症年齢は5歳以上で平均8歳。ウェルシュコーギーにおける好発年齢は10歳前後。性差による発症率格差は確認されていない。日本におけるコーギーの統計は以下。通常は呼吸障害が現れてから1ヵ月以内に死亡する。
✓発症年齢=10歳4ヶ月
✓後ろ足の起立不能=発症後11ヶ月
✓前足の運動不全=発症後2年4ヶ月
✓前足の起立不能=発症後2年9ヶ月
✓呼吸障害=発症後2年11ヶ月 - 臨床症状最初に現れる症状はほぼ例外なく後ろ足の運動失調。通常はどちらか一方の足に現れ、「正常時よりも大股で歩く」といった印象を与える。症状は非常にゆっくりと現れ進行が遅く、また犬が痛みの兆候を示さないため、初期においては軽視される傾向がある。
運動失調は、その後反対の足にも現れ始め、歩いているときのふらつきや立ち上がる時の開脚が顕著になってくる。やがて後ろ足を引きずって移動するようになり、運動失調が前足にも出現して立ち上がることができなくなる。その後呼吸筋の異常が現れて最終的には死亡する。 発症初期の歩行異常(動画) - 診断特異的な生前診断法は無い。神経学的検査、エックス線検査、CTスキャン、MRI、脳脊髄液検査、異常遺伝子の検査などによって総合的に判断する。なお遺伝子変異が認められても必ずしも発症するとは限らないため、遺伝子検査だけから診断することは不可能。しかし変異がない場合は発症することがないため、「この犬はDMではない」という除外診断は可能。
- 治療法根本的な治療法は存在しない。筋肉の衰えをなるべく予防し、症状の進行を遅らせることがメインとなる。その他、肥満を避ける、排尿排便の世話をこまめにする、寝たきりになった後の床ずれに注意するなど。
もろにメディアの影響を受けた結果、人気が出て数が増えた。それによって起きる負の側面というか、たくさんの犬を繁殖に使った背景は、間違いなくこの病気が、今こんなに多い理由の1つであると思う。クローズアップ現代+(No.3915)あなたのペットは大丈夫!?~追跡 ペットビジネス・遺伝病の闇~ 岐阜大学動物病院・神経科(SOD1の遺伝子検査あり)