詳細
避妊手術後のメス犬で見られる尿失禁は「尿道括約筋機能性尿失禁」(Urethral sphincter mechanism incompetence, USMI)とも呼ばれ、おしっこの通り道を調整している尿道括約筋が機能不全に陥り、排尿を自律制御できなくなった状態のこと。基礎疾患がないにもかかわらず、歩いているだけでおしっこがちょろちょろ漏れてしまうといった症状として現れます。発症メカニズムに関しては不明な部分が多く、避妊手術に伴う何らかの変化が引き金になっているものと推測されています。具体的にはコラーゲンの密度、泌尿器周辺の脈管構造、エストロゲン受容器、卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモンの血中濃度などです。
今回の調査を行ったのは、アイダホ州にある獣医学大学が中心となったチーム。2009年1月から2012年12月の期間、アメリカ動物病院協会(AAHA)に認可されている病院に依頼をかけ、症状として尿失禁を示している避妊手術済のメス犬と、臨床上健康な避妊手術済のメス犬の医療データを集めました。その結果、アメリカ国内にある16の病院から尿失禁グループ163頭、健常グループ193頭のデータが得られたと言います。両グループの細かな情報を元に、尿失禁発症のリスクになっている要因を精査したところ、これまで疑われてきた「体重」や「避妊手術のタイミング」といった因子は、単独ではリスクになっていないことが明らかになったといいます。そのかわり「避妊手術のタイミング」と「成長時の体重」という2つの因子がある一定の条件になると、危険因子として顕在してきたとも。
以下のグラフは、避妊手術のタイミングを1ヶ月遅らせた場合、ハザード(調査期間中のどこかで尿失禁が発生する瞬間率)がどの程度低下するのかを示したものです。数字が大きければ大きいほど、尿失禁の発症率が大幅に下がることを意味しています。犬の体重が重ければ重いほど、手術延期によって得られる恩恵が大きいことがお分かりいただけるでしょう。 また以下は、避妊手術のタイミングと体重、およびハザードの関係性を視覚化したものです。犬の成長時の体重が15kgまでは手術のタイミングによってハザードが変化しません(色が変わらない)。一方、体重が15kgを超えると、手術のタイミングが早ければ早いほど(下に行けば行くほど)、また体重が重ければ重いほど(右に行けば行くほど)、ハザードが高くなる(色が濃くなる)という関係性を見て取ることができます。 こうしたデータから調査チームは、これまでは慣習的に不適切な排泄を予防する目的で最初の発情期を迎える前の避妊手術が推奨されてきたが、この推奨項目はすべてのメス犬に当てはまるわけではないようだとの結論に至りました。特に成長した時の体重が25kg超になることが予想される中~大型犬に関しては、避妊手術を施すタイミングが尿失禁のリスクになりうるため、注意が必要だとアドバイスしています。 Urethral Sphincter Mechanism Incompetence in 163 Neutered Female Dogs: Diagnosis, Treatment, and Relationship of Weight and Age at Neuter to Development of Disease
Byron, J.K., Taylor, K.H., Phillips, G.S. and Stahl, M.S. (2017), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14678
以下のグラフは、避妊手術のタイミングを1ヶ月遅らせた場合、ハザード(調査期間中のどこかで尿失禁が発生する瞬間率)がどの程度低下するのかを示したものです。数字が大きければ大きいほど、尿失禁の発症率が大幅に下がることを意味しています。犬の体重が重ければ重いほど、手術延期によって得られる恩恵が大きいことがお分かりいただけるでしょう。 また以下は、避妊手術のタイミングと体重、およびハザードの関係性を視覚化したものです。犬の成長時の体重が15kgまでは手術のタイミングによってハザードが変化しません(色が変わらない)。一方、体重が15kgを超えると、手術のタイミングが早ければ早いほど(下に行けば行くほど)、また体重が重ければ重いほど(右に行けば行くほど)、ハザードが高くなる(色が濃くなる)という関係性を見て取ることができます。 こうしたデータから調査チームは、これまでは慣習的に不適切な排泄を予防する目的で最初の発情期を迎える前の避妊手術が推奨されてきたが、この推奨項目はすべてのメス犬に当てはまるわけではないようだとの結論に至りました。特に成長した時の体重が25kg超になることが予想される中~大型犬に関しては、避妊手術を施すタイミングが尿失禁のリスクになりうるため、注意が必要だとアドバイスしています。 Urethral Sphincter Mechanism Incompetence in 163 Neutered Female Dogs: Diagnosis, Treatment, and Relationship of Weight and Age at Neuter to Development of Disease
Byron, J.K., Taylor, K.H., Phillips, G.S. and Stahl, M.S. (2017), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14678
解説
過去に行われた調査では、様々な項目がメス犬の尿失禁の危険因子として挙げられています。具体的には以下です。
尿失禁の危険因子
- 断尾
- 骨盤の中における泌尿生殖器の位置
- 体重が20kg超
- 犬種
- 3ヶ月齢未満の避妊手術
- 最初の発情期を迎えた後での避妊手術