詳細
調査を行ったのは、フランスにある国立獣医大学とヴィルバックからなる共同チーム。まず調査1では肥満状態にある8頭のビーグルを対象とし、「高タンパク/中炭水化物食」と「高炭水化物/中タンパク食」を摂取した時の血糖値、および血中インスリン値をモニタリングしました。その結果、食餌内容によって以下のような違いが見られたと言います。
Andre, A., Leriche, I., Chaix, G., Thorin, C., Burger, M. and Nguyen, P. (2017), J Anim Physiol Anim Nutr, 101: 21-30. doi:10.1111/jpn.12744
食餌内容とグルコース反応
- グルコースのピークは高タンパク食の方が早く現れる
- グルコース増加の最大値は大体同じ
- グルコース反応カーブ下エリアは高炭水化物食で約2倍(44 vs 21g.min/L )
食餌内容とインスリン反応
- インスリン反応の最大値は高タンパク食の方が低い(32 vs 68μU/ml)
- インスリン反応カーブ下エリアは高炭水化物で約3倍(12,400 vs 3,600μU.min/ml)
- 食後の血中インスリン値は高炭水化物食の方が高い(47.1 vs 30.3μU/ml)
Andre, A., Leriche, I., Chaix, G., Thorin, C., Burger, M. and Nguyen, P. (2017), J Anim Physiol Anim Nutr, 101: 21-30. doi:10.1111/jpn.12744
解説
調査1の結果、血糖値にしても血中インスリン値にしても、高タンパク食の方が素早く低下することが明らかになりました。犬は進化の過程でデンプンを消化する能力を身につけましたが、やはり祖先である狼の完全肉食という食性が残っており、タンパク質を摂取した方が速やかに吸収されるのかもしれません。犬の自由摂食を観察したところ、エネルギーのおよそ3分の1をタンパク質から摂取し、炭水化物は全体の7%に過ぎなかったという調査結果からもこの食性がうかがえます(→出典)。
調査2の結果、体重が正常に戻るとインスリン感受性が改善することが明らかになりました。逆の言い方をすれば、肥満状態にある犬ではインスリン感受性が悪化しているということになります。犬の糖尿病は1型と2型の割合が4:1程度とされ、食生活に起因する2型糖尿病は猫に比べて少ないとされています。しかし、肥満状態が長く続いているとインスリン感受性が悪化の一途をたどり、最終的には糖尿病を発症してしまう可能性を否定できません。肥満状態の犬では高炭水化物食のときに持続的な高血糖が確認されましたので、「肥満+高炭水化物」という組み合わせは避けたほうが無難だと考えられます。
当調査では、高タンパク食によるダイエットにより、除脂肪体重を減らすことなく効果的に体重を落とせることが明らかになりました。人間の女性がよくやる断食ダイエットでは、無理なカロリー制限によって筋肉量が目減りし、逆に太りやすい体質になってリバウンドを起こしてしまうことがよくあります。しかし犬の場合、タンパク質量さえ不足しなければ、筋肉を極端に分解することなく脂肪だけが上手いこと減ってくれるようです。この事実は過去に行われた以下のような調査によっても部分的に確認されています。
高タンパク食と除脂肪体重
しつこいようですが、飼い主として注意すべきは犬がダイエットしなくてもよいようにそもそも太らせないことです。明治大学農学部が行った大規模調査では、太り気味(BCS4)と完全なる肥満(BCS5)の割合が合計で54.9%という極めて高い割合であることが判明していますので、「普通体型だと思っていたら実は肥満だった!」という事態が起こらないよう気をつけましょう。