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フレンチブルドッグに多い神経系の病気リスト

 300頭を超えるフレンチブルドッグを対象とした調査により、この犬種において発症しやすい神経系疾患の種類が明らかになりました(2017.7.17/フランス)。

詳細

 調査を行ったのは、パリ東大学とアルフォール国立獣医学校を中心としたチーム。2002年1月から2016年1月の期間、フランス国内にある動物診療施設(ユニテ・ドゥ・ヌーロロジィ)を受診したフレンチブルドッグ合計2,846頭の中から、医療記録がしっかり揃っているケースだけを選別し、この犬種で多い神経系疾患の種類を統計的に精査しました。その結果、最終的に343頭が選抜基準をクリアし、以下のような内訳になったといいます。 神経系疾患と診断されたフレンチブルドッグのカテゴリ別シェア  また以下は、全症例(343頭)のうちに占める個々の疾患の割合です。「ヘルニア」だけは1頭が複数箇所発症していたため5ケースが加算されています。また「C→頚椎」、「T→胸椎」、「L→腰椎」の意です。
脊髄障害
神経系疾患と診断されたフレンチブルドッグにおける脊髄障害の比率
  • C2~3=11頭(3.2%)
  • C3~4=37頭(10.8%)
  • C4~5=12頭(3.5%)
  • C5~6=4頭(1.2%)
  • T12~13=10頭(2.9%)
  • T13~L1=20頭(5.8%)
  • L1~2=14頭(4.1%)
  • L2~3=17頭(5.0%)
  • L3~4=16頭(4.7%)
  • L4~5=10頭(2.9%)
  • 上記以外=10頭(2.9%)
  • 脊髄くも膜憩室=25頭(7.3%)
  • 圧迫性脊椎奇形=19頭(5.5%)
  • 脊椎悪性腫瘍=7頭(2.0%)
  • 脊髄水空洞症=6頭(1.7%)
  • その他=9頭(2.6%)
脳障害
神経系疾患と診断されたフレンチブルドッグにおける脳障害の比率
  • 脳腫瘍=25頭(7.3%)
  • 特発性髄膜脳炎=17頭(5.0%)
  • 特発性てんかん=9頭(2.6%)
  • 感染性脳炎=8頭(2.3%)
  • 代謝性=3頭(0.9%)
  • その他の脳症=6頭(1.7%)
未分類
神経系疾患と診断されたフレンチブルドッグにおける未分類神経疾患の比率
  • 先天性聴覚障害=29頭(8.5%)
  • その他=3頭(0.9%)
末梢神経・筋障害
神経系疾患と診断されたフレンチブルドッグにおける末梢神経・筋障害の比率
  • 内耳炎・前庭神経障害=14頭(4.1%)
  • ミオパチー=3頭(0.9%)
  • 特発性前庭障害=2頭(0.6%)
  • その他=2頭(0.6%)
Prevalence of neurological disorders in French bulldog: a retrospective study of 343 cases (2002-2016)
Vincent Mayousse et al., BMC Veterinary Research 2017, DOI: 10.1186/s12917-017-1132-2

解説

 フレンチブルドッグ以外の犬種における神経系症状の割合が11.4%(10,150/88,863)だったのに対し、フレンチブルにおける割合は18.7%(533/2,846)という高い値を示しました。しかし今回の調査はあくまでも予備的なものであり、この犬種における好発神経疾患の決定版というわけではありません。とは言え、いくつか気になる点があります。

頚椎ヘルニア

 神経系症状を示した343頭のうち45.5%に相当する156頭が椎間板疾患と診断され、そのうち41%もが頸椎ヘルニアで構成されています。中でも多いのが上部頸椎ヘルニアで、第一頸椎から第四頸椎までの間で発生するケースが頸椎ヘルニアの75%、ヘルニア全体の30.8%、神経系疾患全体の14%を占めるという異常な値です。
 この異常な発症率の高さの背景にあるのは、体に比べて頭が大きいという身体的な特徴、および軟骨形成不全という遺伝的な特質だと考えられます。フレンチブルドッグを散歩させる際は、首への負担を可能な限り減らすため、首輪ではなくハーネスを用いることが強く推奨されます。 犬の椎間板ヘルニア 上部頸椎にヘルニアを発症しやすいフレンチブルに首輪の使用は控えたい

脊髄くも膜憩室

 「脊髄くも膜憩室」とは聞き慣れない疾患名ですが、脊髄を覆っている脊髄膜(外から硬膜・くも膜・軟膜)のうち、くも膜の下に嚢胞様の病変が発生した状態のことを指す広い言葉です。この疾患に関しては日本でも症例報告があり、2009年4月から2014年4月までの期間、後肢の歩様異常で「脊髄くも膜憩室」と診断された犬14頭のうち、フレンチブルドッグが5例、パグが3例、ミニチュア・ダックスフントと柴犬が各2例、パピヨンとブルドッグが各1例だったとされています。また、診断時の年齢中央値は4歳2ヶ月齢、憩室の発生部位は全例で第8胸椎から第13胸椎の尾側胸椎であり、7例では近接する椎体に奇形が観察されたとも(→出典)。
 今回のフランスの調査でも、神経系疾患全体の7%に相当する25症例が脊髄くも膜憩室と診断され、そのうち22症例までもが胸椎で発生しています。ですから発生機序に関しては万国共通なのかもしれません。例えば日本とフランスで共通して報告されている「脊椎の奇形」などです。2017年に行われた最新の報告では、たとえ神経症状を示していなくても、フレンチブルドッグの93.5%で脊椎奇形が見られたといいますので(→出典)、飼い主は散歩中、歩き方のリズムがおかしいとか、後ろ足を引きずるといった症状を注意深く観察したほうがよいでしょう。 犬の脊椎奇形

聴覚障害

 全体の8.5%に相当する29症例では先天性の聴覚障害が確認され、そのうち75%(22症例)までもが両側性でした。過去に行われた調査では、被毛の中に白い部分を含んでいることや青い目の色が危険因子で、障害は片側性が多いとされています。今回の調査でも、聴覚障害を抱えるフレンチブルドッグのうち80%が白い被毛を部分的に含んでいたと言いますので、1つの目安になるかもしれません。ただし、なぜフレンチブルドッグにおいて両側性の聴覚障害が発生しやすいのかに関しては不明のままです。 犬の耳・聴覚

フレンチブル人気と懸念

 フレンチブルドッグの人気は国際的なもので、フランス国内では過去15年間で飼育頭数が4倍に急増、イギリスのケネルクラブでは2006年(526頭)から2015年(14,607頭)の間に27倍に急増、アメリカの2014年度人気ランキングでは6位、カナダの2015年度人気ランキングでは9位という人気ぶりです。日本においても、アニコム損保の「人気犬種ランキング2016」では11位(→出典)、ジャパンケネルクラブ(JKC)の2016年ランキングでは10位(→出典)とされています。
 JKCのデータによると、年間8,189頭ものフレンチブルドッグが新たに登録されていると言いますので、人気にあやかった乱繁殖と、その結果として犬たちに強いる遺伝性疾患の苦しみは非常に気になるところです。 ペットショップで犬を買う前の注意