詳細
調査を行ったのは、フランスにあるナント・アンジェ・ル・マン大学とロイヤルカナンからなる共同チーム。統一された環境で飼育されているメスのビーグル24頭を対象とし、生まれてから生後24ヶ月齢(2歳)に至るまでの体重の変化を経時的に観察し、標準体型の犬と肥満体型の犬を分け隔てる要素が一体何であるかを検証しました。
犬たちの食事量、体重、体高、骨盤周囲、膝からかかとまでの長さ、BCS(1~9の体型評価)、体成分組成、脂肪量、除脂肪量、血糖値、食欲に関連したホルモン(インスリン・グレリン・レプチン・インスリン様成長因子1)、ストレスのバイオマーカー(コルチゾール・プロラクチン)、炎症に関連したバイオマーカー(C反応性タンパク・アディポネクチン・インターロイキン6、8、10・腫瘍壊死因子α)、消費エネルギーを定期的に測定した所、環境が統一されているにも関わらず、24ヶ月齢になった時点で「標準体型」(BCS5・6=9頭、「やや肥満体型」(BCS6=6頭)、「肥満体型」(BCS7・8=9頭)という3つのグループに自然分岐したといいます。 完全に成長した時点で見られたこれらの体型と、子犬時代の各種計測値を統計的に計算したところ、以下に示す2つの項目のどちらか1つでも満たしている場合、肥満に陥る確率が70%にまで達することが明らかになりました。
Leclerc et al. BMC Veterinary Research (2017) 13:104 DOI 10.1186/s12917-017-0994-7
犬たちの食事量、体重、体高、骨盤周囲、膝からかかとまでの長さ、BCS(1~9の体型評価)、体成分組成、脂肪量、除脂肪量、血糖値、食欲に関連したホルモン(インスリン・グレリン・レプチン・インスリン様成長因子1)、ストレスのバイオマーカー(コルチゾール・プロラクチン)、炎症に関連したバイオマーカー(C反応性タンパク・アディポネクチン・インターロイキン6、8、10・腫瘍壊死因子α)、消費エネルギーを定期的に測定した所、環境が統一されているにも関わらず、24ヶ月齢になった時点で「標準体型」(BCS5・6=9頭、「やや肥満体型」(BCS6=6頭)、「肥満体型」(BCS7・8=9頭)という3つのグループに自然分岐したといいます。 完全に成長した時点で見られたこれらの体型と、子犬時代の各種計測値を統計的に計算したところ、以下に示す2つの項目のどちらか1つでも満たしている場合、肥満に陥る確率が70%にまで達することが明らかになりました。
メス犬の肥満予見因子
- 生まれてから最初の2週間における成長率が125%超
- 生後7ヶ月齢におけるBCSが7以上
Leclerc et al. BMC Veterinary Research (2017) 13:104 DOI 10.1186/s12917-017-0994-7
解説
避妊手術が犬の体重増加に関与している事は間違いないようです。手術を挟んだ7~10ヶ月齢の時期において、すべてのグループにおいて摂取エネルギー量(除脂肪体重補正)で18%、安静時代謝量(除脂肪体重補正)で25%の減少が観察されました。また生後8ヶ月齢のタイミングで避妊手術を受けた後、体型にかかわらずすべての犬において体重の増加が観察されたといいます。
摂取エネルギー量(入ってくるエネルギー)も安静時代謝量(出ていくエネルギー)も共に減っていますが、恐らく減少幅が均一でないため、「摂取エネルギー>消費エネルギー」というアンバランスが生まれ、体重増加につながっているものと推測されます。しかし理想体重グループにおける体重増加が8%だったのに対し、肥満グループにおける体重増加は15%と倍近い開きを見せたことから、元々太りやすい体質を持った犬においては、避妊手術が肥満の増悪因子になりうるという関係性が見えてきます。 上記「元々太りやすい体質」にはいくつかの可能性が考えられます。例えば避妊手術を行った後、肥満グループにおいては血清レプチンレベルの顕著な高まりが観察されたといいます。過去に行われた調査でもレプチンレベルとBCSおよび脂肪量に関連性があることが示唆されていますので、体型変化と何らかの関連があるのかもしれません。また生後7ヶ月齢のとき、試験的な摂食60分後のグレリンレベルを計測したところ、理想体重グループにおいてだけ急速な低下が確認されたと言います。ひとつの仮説としては「グレリンレベルの低下が遅れると満腹感が生じるまでに時間がかかり、それが食べ過ぎにつながっている」などが考えられます。
ラブラドールレトリバーにおいては肥満を誘発する特殊な遺伝子の存在が確認されていますが、上記したような仮説がビーグルだけのものなのか、それとも犬という動物種全体に一般化できることなのかはよく分かっていません。 調査対象となった犬24頭のうち、生後24ヶ月齢時点で肥満傾向と判断された総数は15頭でした(やや肥満6頭+肥満9頭)。単純計算すると肥満率は62.3%ですが、この数値は世界中で報告されている犬の肥満率と奇妙な一致を見せています。こうした事実から考えると、飼い主が何の介入を行わなかった場合、避妊手術を受けたメス犬の肥満率は6割程度に及ぶものと推測されます。 人間や猫を対象とした調査では、幼齢期におけるBCSが成長してからも引き継がれることが確認されていますので「子犬は少しくらいころっとしていた方が可愛い!」など悠長なことを言っているのではなく、早い段階から飼い主が介入して体重管理を行う必要がありそうです。調査チームによると、体型の分岐は生後5ヶ月齢ころから始まるそうですので、この時期を目安に犬の体重や体型を定期的にモニタリングする習慣を確立しておくと良いかもしれません。
摂取エネルギー量(入ってくるエネルギー)も安静時代謝量(出ていくエネルギー)も共に減っていますが、恐らく減少幅が均一でないため、「摂取エネルギー>消費エネルギー」というアンバランスが生まれ、体重増加につながっているものと推測されます。しかし理想体重グループにおける体重増加が8%だったのに対し、肥満グループにおける体重増加は15%と倍近い開きを見せたことから、元々太りやすい体質を持った犬においては、避妊手術が肥満の増悪因子になりうるという関係性が見えてきます。 上記「元々太りやすい体質」にはいくつかの可能性が考えられます。例えば避妊手術を行った後、肥満グループにおいては血清レプチンレベルの顕著な高まりが観察されたといいます。過去に行われた調査でもレプチンレベルとBCSおよび脂肪量に関連性があることが示唆されていますので、体型変化と何らかの関連があるのかもしれません。また生後7ヶ月齢のとき、試験的な摂食60分後のグレリンレベルを計測したところ、理想体重グループにおいてだけ急速な低下が確認されたと言います。ひとつの仮説としては「グレリンレベルの低下が遅れると満腹感が生じるまでに時間がかかり、それが食べ過ぎにつながっている」などが考えられます。
ラブラドールレトリバーにおいては肥満を誘発する特殊な遺伝子の存在が確認されていますが、上記したような仮説がビーグルだけのものなのか、それとも犬という動物種全体に一般化できることなのかはよく分かっていません。 調査対象となった犬24頭のうち、生後24ヶ月齢時点で肥満傾向と判断された総数は15頭でした(やや肥満6頭+肥満9頭)。単純計算すると肥満率は62.3%ですが、この数値は世界中で報告されている犬の肥満率と奇妙な一致を見せています。こうした事実から考えると、飼い主が何の介入を行わなかった場合、避妊手術を受けたメス犬の肥満率は6割程度に及ぶものと推測されます。 人間や猫を対象とした調査では、幼齢期におけるBCSが成長してからも引き継がれることが確認されていますので「子犬は少しくらいころっとしていた方が可愛い!」など悠長なことを言っているのではなく、早い段階から飼い主が介入して体重管理を行う必要がありそうです。調査チームによると、体型の分岐は生後5ヶ月齢ころから始まるそうですので、この時期を目安に犬の体重や体型を定期的にモニタリングする習慣を確立しておくと良いかもしれません。