詳細
調査を行ったのは、ベルギーの製薬会社ヤンセンファーマの研究チーム。1.5~7歳のビーグル73頭を対象とし、およそ2年間にわたって側脳室から定期的に脳脊髄液を採取すると同時に、3つの認知力テストを行って、「アミロイドカスケード仮説」の証拠が見つかるかどうかを検証しました。
Borghys H, Van Broeck B, Dhuyvetter D, et al. Head E, ed. Journal of Alzheimer’s Disease. 2016;56(2):763-774. doi:10.3233/JAD-160434.
- アミロイドカスケード仮説
- 脳内のアミロイド沈着がアルツハイマー病を引き起こしているとする仮説。具体的な流れは以下。細胞から40個のアミノ酸からなるアミロイドβ40と、42個のアミノ酸からなるアミロイドβ42が分泌される→極めて凝集しやすいアミロイドβ42がアミロイドβを形成する→アミロイドβは脳内で線維状の構造物を形成して老人斑となる→老人斑が神経の機能を阻害する→認知力の低下を始めとするアルツハイマー病が発症する
犬の基本認知力テスト
- 報酬と対象接近学習3つの容器のうち1つにだけおやつが置かれており、その上にカバーが掛けられている。犬が特定のカバーを覚えたらクリア。
【テスト結果】
年齢やアミロイドβ42のレベルは成績と関係なかった。 - 対象区別学習と逆転学習好みのカバーを事前に調べておき、その下におやつを置く。犬が的確にそのカバーを選べるようになったら、今度は好みではない方のカバーの下におやつを置く。最初は当然間違えて好みのカバーを選ぼうとするが、徐々に好みではない方を選ぶようになってくる。犬が頭を切り替えて好みではない方を選ぶようになったらクリア。
【テスト結果】
どちらのグループも、累積エラーの平均値は対象区別学習よりも逆転学習で高かった。高濃度グループの方がより多くのエラーを出した。年齢による影響は見られなかった。 - 遅延逆位置合わせ(DNMP)3つのトレイのうち1つにだけおやつが隠されており、その上にカバーが乗っている。犬がカバーをどけておやつをゲットした後、3つのトレイが犬の視界から取り除かれ、5秒間のタイムアウト(遅延時間)を設ける。さっきまで犬の目の前に合ったカバーを再び元の位置に置くと同時に、別のトレイ上にも見た目が同じカバーを置く。ただしおやつは、先ほど犬が選んだカバーではない方のカバー下に置かれている。犬が頭を切り替え、先ほど選ばなかった方のカバーを選ぶようになったらクリア。
【テスト結果】
高濃度グループは5秒遅延DNMPを学習するまでの累積エラーが多かった。年齢が高い犬は若い犬よりも成績が悪かった。年齢が高くてアミロイド濃度が高い犬の成績が最も悪かった。
Borghys H, Van Broeck B, Dhuyvetter D, et al. Head E, ed. Journal of Alzheimer’s Disease. 2016;56(2):763-774. doi:10.3233/JAD-160434.
解説
ビーグルにおいて脳内のアミロイド沈着は8歳以降に始まると考えられています。今回の調査対象となったのは全て7歳以下の犬たちですので、アミロイドβ42が高濃度のグループと低濃度のグループとの間で見られた認知力の相違は、脳内におけるアミロイド沈着以外の原因で引き起こされたものと推測されています。具体的にはアミロイドの代謝がアミロイドオリゴマー(少数のモノマーが結合した重合体)を増加させ、脳の機能を低下させたなどです。人間の家族性アルツハイマー患者では、アミロイドの過剰生成による脳脊髄液アミロイドレベル上昇が、症状発現の25年も前から見られると言います。発症する前に認知力テストを行った場合、犬と同様、やはり何らかの格差が見られるかもしれません。
今回の調査で採用された3つの認知力テストは、犬の各種記憶力を調べるときに用いられるものです。やや複雑な部分もありますが、日常的にやっておくと認知力の低下にいち早く気付ける可能性があります。例えば、それぞれのテストに任意の合格ラインを決めておき、それをクリアするまでに要したトレーニングセッションの反復回数を記録しておくなどです。
今回の調査で採用された3つの認知力テストは、犬の各種記憶力を調べるときに用いられるものです。やや複雑な部分もありますが、日常的にやっておくと認知力の低下にいち早く気付ける可能性があります。例えば、それぞれのテストに任意の合格ラインを決めておき、それをクリアするまでに要したトレーニングセッションの反復回数を記録しておくなどです。