トップ犬の繁殖血統書について

そもそも血統書って何?

犬の血統書サンプル  血統書(けっとうしょ)とは犬が犬種標準を満たしているという証明書のことです。犬種標準(スタンダード)とは人間が恣意的(しいてき=自分勝手)に決定した、犬があるべき姿であり、詳細は社団法人ジャパンケネルクラブ刊行の犬種標準書に記載されています。
 犬種標準を満たしていることの意味は、姿かたちがある一定の基準に沿っているということです。JKCでは「臆病及び獰猛な性格を有する犬の子犬は性格が親犬に似るので注意が必要です。性格は非常に遺伝力が強く出現します」とブリーダーに呼びかけていますが、こうした注意に完全な拘束力はなく、「穏やかで人懐こく、優しい」といった犬の性格を保証するものでもありません。
 血統書がないことの意味は、犬種標準を満たしていないことのほか、ドッグショー、訓練競技会、アジリティーに参加できない、生まれた子犬に血統書を発行できない、などがあります。しかしそういった外見やショーに興味のない人にとっては、血統書とは全く意味の無いものになります。
 またJKCは「JKCをはじめとする世界のケネルクラブでは、純粋犬種の血統を管理し、より犬質の高い犬を繁殖するために必要な祖先犬の情報を「血統証明書」という形で提供しています」と明言しています。しかしブルドッグはアンダーショット(下顎が出すぎているというよくない噛み合わせ)が標準として規定されているなど、犬種標準自体が犬の健康や福祉にを無視しているという矛盾した側面を有しており、上記犬質の高い犬が何を意味しているのかは熟考を要します。詳しくは以下の「犬種標準について」をご覧ください。 犬種標準について
「チャンピオン」の理解度
血統書付きの犬や猫を購入する人の内、チャンピオンという言葉の意味しているものをしっかりと理解していない人が、1/4程度もいる。  なお平成20年6月に公正取引委員会事務総局が公表した「ペット(犬・猫)の取引における表示に関する実態調査報告書」では、「チャンピオン直子」という表示について、購入者に対してどのようなものと認識するか尋ねたところ、購入者の23.9%が「分からない」と回答しています。
 こうしたデータから、1/4近くの犬猫購入者が、スタンダードや血統書の正確な意味を、よく理解していないものと思われます。

血統書の見方

 以下では一般的な血統書の記載内容と見方をご紹介します。なおこの項目は、日本最大の血統書発行団体ジャパンケンネルクラブ(JKC)の3代祖血統証明書を基準にしました 血統書の見方(JKC) 新デザインの血統証明書サンプル
JKC発行の血統証明書サンプル画像

犬名

 犬名は大別して犬舎名と名前とからなり、犬名(英字)は犬舎名と合わせて35文字までと規定されています。犬舎名とは母犬を所有しているブリーダーの屋号を指し、名前とは犬そのものにつけた名称で、犬名リストという形で公開されています。なお、CH(チャンピオン)などの称号、特殊記号(!*など)、ローマ数字(IやIV)等は、犬名の中に使用できませんが、犬名の上の行にチャンピオンタイトルを入れることは可能です(チャンピオンタイトルの種類は血統証明書の裏面に解説あり)。
犬舎名 JP 名前という形が一般的で、真ん中のJPとは、血統書の登録申請をした母犬の所有者が、国際畜犬連盟(FCI)に犬舎登録していることを示します。

本犬データ

 本犬データは犬の犬種を示すパートで、犬種名は全て犬種記号と呼ばれるアルファベットで示されます。たとえばポメラニアンではPO、ビーグルではBEといった具合です。また、ダックスフンドやプードルのように、サイズによってクラスが分かれるような犬種の場合は、犬種記号にサイズ記号を合体させた形で示されます。たとえばダックスフンドの場合は以下のようになります。
  • スタンダード・ダックスフンド⇒DH
  • ミニチュア・ダックスフンド⇒DHM
  • カニーンヘン・ダックスフンド⇒DHK

DNA登録番号

 DNA登録番号とは、犬から採取したDNAデータを記載したものです。登録者が一胎子登録(同じ母犬から産まれた子犬を全部一緒に登録すること)を希望する場合、血統証明書の信頼性向上と正確な血統登録を実現するため、メス犬のDNA登録が義務付けられています。登録にあたってのDNA検体採取は、専用のブラシを使用して頬の内側の粘膜を採取します。登録されたDNAデータは、繁殖者の申請書に基づいた登録犬の個体識別に用いられます。

lD番号

 lD番号とは、マイクロチップまたはタトゥーによる個体識別番号です。マイクロチップとは、固有の識別番号が記録されているチップを頸部皮下に埋め込み、読取機器(リーダー)で番号を確認する方法で、タトゥーとは、識別番号を耳または腹部に入れ墨する方法です。識別番号を記載することにより、血統証明書と登録犬の不正な入れ替え等が不可能となり、血統書が本物であることを容易に確認することができるようになります。

股関節評価、肘関節評価

 股関節評価、肘関節評価は任意で記載される項目で、股関節と肘関節の遺伝的疾患にかかりやすいかどうかを専門機関が評価した結果が記載されます。犬の代表的な遺伝性疾患である股関節形成不全症(HD)と肘関節異形成症(ED)を減少させることを目的に取り入れられた項目で、交配犬として用いるかどうかを決定するときに参照します。 股関節形成不全

繁殖者・所有者・譲渡年月日

 繁殖者は犬の繁殖者であるメス犬の所有犬舎、所有者は登録上の所有者名が記されており、通常はメス犬の所有者であるブリーダーの名前が記載されます。所有者欄を自分の名前に変更したい場合は、所属の愛犬クラブ経由で名義変更をすることも可能です。

父親の血統図

 父親の血統図には、3代祖血統証明書の場合父方の祖先が3代に遡って記載されます。1番は本犬の父犬、3番は父方の祖父、4番は父方の祖母を記載しています。7~10番はさらにその曽祖父母へと遡って記載しています。

母親の血統図

 母親の血統図には、3代祖血統証明書の場合母方の祖先が3代に遡って記載されます。2番は本犬の母犬、5番は母方の祖父、6番は母方の祖母を記載しています。11~14番はさらにその曽祖父母へと遡って記載しています。

登緑日・出産頭数・登録頭数・一胎子登録番号

 登緑日とは本犬がJICに登録された日で、登録頭数は一緒に生まれた兄弟(一胎子)数をオスとメスとに分けて記載したものです(死亡犬は除く)。一胎子登録番号欄とは、同時に生まれた兄弟姉妹犬の番号が記載される場所です。

チャンピオン賞歴

 チャンピオン賞歴には取得したチャンピオンの種別と登録日が記載されます。

DATE ISSUED

 DATE ISSUEDとは血統証明書の発行日です。

4代祖血統証明書発行申込書

 JKCでは通常3代祖血統証明書、すなわち3代前の祖先までを記載した血統証明書を発行していますが、さらに詳細な血統管理のために、4代祖血統証明書も発行しています。希望者は申込書に必要事項を記入の上、JKC本部ではなく、所属愛犬クラブへ提出します。

血統書の発行手続き

 血統書はいつ、どこで、どのように発行されるのかについて解説していきます。

血統書はいつ発行される?

 血統書は申請する時期によって、料金に若干の違いがあります。
血統書の発行時期と料金
  • 一胎子登録 生後90日以内⇒1頭・2,100円
    生後91日以上経過後2年以内⇒1頭・5,300円
    ※一胎子登録(いったいしとうろく)=同じ母犬から産まれた子犬を全部一緒に登録すること
  • 単犬登録 国内団体から⇒1頭・3,200円
    外国団体から⇒1頭・5,300~10,500円
    ※外国団体からのものはタイトルの有無により変動

血統書はどこで発行される?

 血統書を発行する団体はいくつかありますが、最も有名なのはジャパンケンネルクラブ(JKC)と呼ばれる団体です。JKCはFCI(国際畜犬連盟)という犬種の国際的な統括団体に加盟しているクラブで、日本国内における犬の品種の認定および犬種標準(スタンダード)の指定、ドッグショーの開催、犬の飼育の指導、血統書の発行、公認トリマー、公認ハンドラー、公認訓練士等の公認資格試験の実施と公認資格発行などを行っています。
 申請書の審査と血統書の発行自体はJKCが行いますが、DNA登録、および股関節(HD)・肘関節(ED)の評価登録・血統証明書への記載以外の全ての手続きは、本部ではなく所属している愛犬クラブ事務所(全国1,070カ所にある公認クラブ)を経由する必要があります。
国際畜犬連盟(FCI)
 国際畜犬連盟(こくさいちくけんれんめい, 略称FCI)は、純粋犬種の推進、及びそのための情報交換などを目的として設立された団体で、各国のケネルクラブなどを国際的に統括しています。現在80の国や地域が加盟しており、全部で300種を越える犬種はそれぞれの国が担当しています。FCIの役割は各国で決定された犬種の定義と標準を翻訳し、国際的に公表することなどです。

血統書の発行に必要なものは?

 血統書を発行してもらう際は、主に以下のものが必要となります。一つ一つ見ていきましょう。
血統書の発行に必要なもの
  • 母犬の所有者がJKCの会員であること  血統書の申請権はJKCに会員登録した母犬の所有者のみが有しています。JKCへの登録料は初年度は6,000円(入会金2,000円+年会費4,000円)で、2年目以降は継続料4,000円のみです。
  • 母犬の所有者がJKC公認の愛犬クラブに所属していること  JKCを窓口とする手続きはDNA登録、および股関節(HD)・肘関節(ED)の評価登録・血統証明書への記載のみです。血統書の申請は、JKC本部ではなく所属している愛犬クラブ事務所(全国1,070カ所にある公認クラブ)を経由する必要がありますので、必然的に何らかの愛犬クラブに所属している必要があります。
  • 母犬の所有者が犬舎名登録をしていること  犬舎名とは血統書の「犬名」に記載される屋号に相当し、1件につき6,300円必要です。なお、会費切れから6ヶ月間経過すると、自動的に廃舎扱いとなり、改めて登録する必要が生じます。
  • 母犬の血統書  JKCに血統書発行申請をする場合は、JKCに血統登録された母犬の血統書が必要となります。他団体の血統書では不可です。
  • 交配証明書・オス犬の血統書コピー  交配証明書とはオス犬の所有者が交配時点で作成し、メス犬所有者へ渡すものです。なおオス犬所有者はJKC会員であること、および一胎子登録を希望する場合は、オス犬のDNA登録を完了していることが必須です。交配証明書にはオス犬の血統書コピーも添付します。
  • 母犬の写真  出産頭数が多い場合、出産直後に、母親と一胎子全頭が収まった写真が必要となります。
  • 血統証明書発行申請書  注意事項を熟読し、必要事項を記入の上、印鑑を押して提出します(⇒申請書PDF)。
  • マイクロチップ登録(任意)  申請する子犬の血統証明書にマイクロチップ番号を記載したい場合は、同時にマイクロチップ登録を行います(⇒申請書PDF)。
  • DNA登録(場合による)  JKCでは以下の場合にDNA登録を義務付けており、血統書申請に際して必要となることがあります。DNA登録は1頭につき7,500円です。
    ・一胎子登録を希望する場合の種牡(たねおす)
    ・一胎子登録を希望する場合のチャンピオン台牝(だいめす)
    ・チャンピオン登録
    ・外産犬(輸入犬)登録
    ・血統証明書再発行(本会の原簿上に交配記録がある種牡のみ)

血統書が発行されないときは?

 以下は血統書の発行が保留される条件です。
血統書の発行が保留される場合
  • 親犬の月齢  JKCでは交配できる月齢を、オス・メスともに交配時に生後9ヶ月1日以上と規定しています。これ以下であった場合には、生まれた子犬の血統証明書発行は見送られます。
  • 近親交配  JKCでは、親子の交配、または同じ父母から生まれた兄妹・姉弟による「極近親繁殖」は通常認めていません。近親繁殖を重ねると、骨格や身体が小さくなったり、遺伝性疾患、欠歯、内臓疾患、陰睾丸等の発生確率が高まるからです。極近親繁殖は「許可制」となっており、事前の許可を得ていない場合は、血統書の発行が見送られます。
血統書の偽造に関して  カラーコピー等を用いて改ざんされた血統証明書が流通するという事例が多発していることから、JKCではFCI(左上)、AKU(右上)、 JKC(左下)の丸い各マークが金箔になっているかどうかを真贋(しんがん)判定の基準として推奨しています(⇒見分け方のサンプル)。
 また「登録内容に関し、誤りや不正またはその恐れがあった場合、調査に伴う費用負担(登録抹消等による回収補償等もこれに含まれます)や責任の所在は繁殖者となります。また、この場合、本会の判断により必要に応じて個人情報の公開をすることがあります。牡犬所有者による誤りや不正またはその恐れがあった場合は、牡犬所有者も前項の対象となります」として、不正を試みるブリーダーに対し抑止力をかける努力をしています。

血統書の名義変更

 最初に発行される血統書の所有者欄には繁殖者の名前が記載されています。この所有者欄に自分の名前を記載したい場合は名義変更という手続きを有料で行う必要があります。名義変更を済ませると、所有者欄に自分の名前が記載された新しい血統証明書が送付されます。名義変更するメリットとしては、ドッグショー、訓練競技会、アジリティーへの参加が可能となる、紛失した場合の再発行が可能となる、などです。本部に書類が届いてから新しく血統証明書が発行されるまでの所要日数は、およそ3週間程度です。必要な手続きは以下。
血統書の名義変更手続き
  • JKCへの入会  血統証明書の入っていた封筒裏面が名義変更申請用紙になっていますので、これを切り取って利用します。封筒を紛失したり破棄した場合は、各クラブ事務所に問い合わせて新しいものをもらいます。入会金2,000円+年会費4,000円の合計6,000円が必要です。
  • 血統証明書裏面にある「新所有者記入欄」に必要事項を記入し、捺印します。
  • 名義変更料1,100円で血統証明書発効日より6ヶ月経過後は3,200円となります

血統書詐欺について

 犬や猫を購入した際、生体とともに血統書をもらえないことが判明し、「詐欺ではないか」と戸惑いを見せる購入者がいますが、こうした悶着が生じる理由は以下です。

血統書詐欺ではない場合

 販売者側に詐欺をする意図が無いにもかかわらず、あたかも詐欺を行っているかのような誤解を招く状況があります。こうした状況が発生する背景には、購入者と販売者、双方における思い込みや不備があるようです。

血統書の申請には時間がかかる

 平成20年6月に公正取引委員会事務総局が公表した「ペット(犬・猫)の取引における表示に関する実態調査報告書」によると、血統書が発行されるまでの大まかな流れは以下です。 血統書と生体の流通模式図  血統書の発行までにかかる時間は一様ではなく、成長・毛色・性別など生後ただちには判明しない要素があるため、ブリーダーが一定期間申請を保留すること、および血統書団体の事務手続きに2~3週間を要すること、などにより左右されます。
 その結果、購入者の元へ子犬や子猫が届けられるまでに、血統書が用意されないという事態が生じるわけです。

購入者と小売業者の認識の違い

 「ペット(犬・猫)の取引における表示に関する実態調査報告書」における消費者モニターアンケートで「血統書付」という表示があった場合、血統書をいつ受け取ることができると思うかと尋ねたところ、約85%の消費者が犬・猫の購入と同時に受け取ることができると認識していることが判明しました。
 これに対し小売側は、犬・猫の販売と同時に血統書を引き渡すことができないにもかかわらず、「血統書申請中」や、「血統書は後日送付」などの説明をしっかりと行っていない場合があるようです。
 こうした購入者と販売者、双方における認識の違いが、血統書にまつわるトラブルの一因になっています。

血統書詐欺の場合

 購入者と販売者の誤解によるものではなく、「血統書付き」と偽って犬や猫を販売する悪質な血統書詐欺は、実際に発生しています。
 国民生活センターの「ペットのインターネット取引にみるトラブル」 ではPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に寄せられたペット購入に関する相談件数を公開しています。それによると、「1年前購入した子犬の血統書を再三請求しているが送付されない」といった約束不履行に関する相談件数が6年間(2001~2006)で1,270件にも上っています。
 もちろん上記「約束不履行」の全てが血統書に関わるものではないでしょうが、一般購入者にとって「血統書詐欺」が全く無関係な話ではないことはお分かりいただけるでしょう。ちなみに以下ではペットのネット販売に関する苦情・クレームの内訳です。ここでも約束の不履行が24%近くを占めています。
ネット取引に関するクレームの内訳
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に寄せられた、インターネット取引に関わる相談件数の内訳  「血統書付き」を謳(うた)ってペットを販売しているにもかかわらず血統書をいつまでたってもくれなかったり、あるいは血統書自体が偽物だった場合、錯誤(さくご=ありもしないことをあると思い込むこと/この場合は血統書の内容を信用すること)に基づくものとして、売買契約の無効を主張することができます(民法95条)。購入者は店に対して代金の返還を要求し、逆に子犬を店に返還するという形になります。
 また、店の側が血統書の内容が偽りであると認識していたにもかかわらず犬を購入させていた場合は詐欺罪(刑法246条)にあたり、購入者は店を告訴することもできます。なお詐欺行為によって成立した契約は、民法第6条によって取り消すことも可能です。

人はなぜ血統書をほしがるか?

 多くの人は、血統書の内容を詳しく知っているわけではないのに、なんとなく血統書付きの犬に価値を見出し、高いお金を払って購入する傾向があります。単純に特定犬種の見た目が好きであるという点以外に何か理由があるとすると、それは一体どのようなものなのでしょうか?以下で幾つかの可能性を挙げていきたいと思います。

ラベリング効果

 ラベリング効果とは外に貼られたラベルによって対象の価値が左右されてしまうという心理現象です。たとえばガラス製の指輪でも、値札に50万円と付いていたら何となく価値があるように勘違いしてしまうことがあります。また、何の変哲もないつぼでも、著名な鑑定家が「いい仕事してますねぇ!」と絶賛した途端、なんだか急に高価に見えてしまうというのも同じ現象です。
 「血統書付き」というラベルがあると、その意味はよく知らなくても、何となくすごい犬のように思えてしまうのは、上記したラベリング効果のよい一例ともいえます。

単純接触効果

 単純接触効果(たんじゅんせっしょくこうか)とは目に多く触れれば触れるほど、人はその対象に好感を抱くようになるという心理現象のことを言います。たとえば、最初は意識していなくても、教室や職場で繰り返し会うたびに、だんだんと特定の異性が好きになるだとか、毎日繰り返し見ているCMの商品をコンビニで見かけると、何となく親近感を抱いてしまう、などの例が挙げられます。
 いわゆる純血種といわれる犬種標準に沿った犬は、テレビの動物関連番組や犬の図鑑に繰り返し登場し、繰り返し私たちの目に飛び込んできます。こうした経験を重ねていくと、いつの間にか意識せずとも血統書付きの純血種に対し好感を抱いてしまうということがあるかもしれません。これが単純接触効果によって血統書に付加価値がつくというパターンです。

飼い主の見栄

 一部の人にとって血統書付きで高価な犬を連れ歩くと言う行為は、ブランド物のバッグを持ち歩いたり、有名ブランドのスーツを着たり、高級外車に乗るのと同様の意味があります。つまり、不特定多数の人間に対し、自分の経済力や生活水準の高さをアピールするという「見栄」としての意味があるのです。他人に対する体裁を重視する人にとって「血統書」付きの犬というものは、必要以上に魅力的に思えてしまうことがあり、これが「見栄」によって血統書に付加価値が付くというパターンです。
 上記したように、見た目がかわいいという表層的な理由のほかに、幾つかの深層心理的なメカニズムが血統書に付加価値をつけてしまっているという現象は、大なり小なりあると思います。知らないうちに植え付けられている「血統書」というものに対する先入観を度外視し、冷静にメリットとデメリットをまとめてみましょう。
血統書のメリット
  • 犬種協会が決めた犬種標準にその犬の容姿が近いこと
  • 親犬の素性がはっきりわかること
  • ブリーダー(犬舎)が誰だかはっきりわかること
  • 親犬の姿からその犬が成犬になったときの姿を想像しやすいこと
血統書のデメリット
  • 犬種標準は時として犬の健康を損ねていること
  • ブリーダーが近親交配で生ませた可能性があること
  • 近親交配の結果、遺伝病の発生確率が高まっている危険性があること
 犬の健康を損ねている犬種標準の例としては、鼻ペチャのパグは体温調整が苦手で熱中症にかかりやすいだとか、骨の形成異常(いわゆる胴長短足)をもったダックスフントにヘルニアが発症しやすいだとか、数えだすと枚挙に暇(いとま)がりません。こうしたメリットとデメリットを冷静に考慮したうえで、果たして高いお金を払ってペットショップで血統書付きの犬を飼う必要があるのかを、もう一度判断したいものです。
 なお、血統書に対して価値を見出せなかった方は、犬や子犬の里親募集などを参照し、殺処分という憂き目に会う犬を一匹でも減らすという選択肢もあります。 純血種は雑種犬よりも優秀?