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犬の心肺蘇生術(CPR)~気道の確保・人工呼吸・心臓マッサージの方法

 何らかの事故や病気で犬の呼吸や心拍が止まってしまった場合、心肺蘇生術(しんぱいそせいじゅつ=CardioPulmonary Resuscitation, CPR)を施すことによって延命を図れることがあります。写真や動画であらかじめ予習し、いざとなったときスムーズに動けるようにしておきましょう!(🔄最終更新日:2024年7月)

心肺蘇生術とは?

 心肺蘇生術とは、呼吸や心臓が完全に止まってしまったか、もしくはそれに近い状態にある患者に対し、意識の確認・気道確保・人工呼吸・心臓マッサージなどの救急救命処置を施すことです。犬がおぼれた、交通事故にあった、熱中症にかかった、原因は分からないが突然昏倒した、など事故や病気で突然犬の心肺が停止してしまった場合、以下で説明する心肺蘇生術をマスターしておけば、延命できる可能性が高まります。
 まずは実演動画をご覧ください。その後で細かい手順を解説します。
犬の心肺蘇生術・実演動画
 以下でご紹介するのは犬に心肺蘇生術を施している様子をとらえた動画です。いざとなったときこのような行動を冷静に実行できるようになるのが最終目標です。ちなみに犬は演技で死んだふりをしているだけですのでご安心を。 元動画は→こちら

心肺機能の確認

 犬が倒れてぐったりしているのを発見したら、まず心肺機能、すなわち呼吸と心拍の有無を確認します。電子機器による感電の可能性がないことを確かめた後、右左どちらか一方を上にして寝かせ、背中側に位置取りしましょう。なお落雷が原因と考えられる場合、犬は帯電していませんのですぐに接触しても構いません。 屋外犬における落雷の危険性と予防法  心肺機能の確認と並行し、周囲の人に頼んで車を手配してもらいます。もし協力者が見つからない場合は自分で呼ぶことになりますが、最寄の動物病院の位置は日ごろから携帯端末などに保存しておくと便利です。

呼吸の確認と気道の確保

 まずは犬が息をしているかどうかを確認します。主な呼吸の確認方法は以下の3つです。
呼吸の確認方法
  • 胸に手を当てて上下動しているか
  • 口元に耳を近づけて呼吸音が聞こえるか
  • 口元に手を当てて呼気を感じることができるか
ぐったりしている犬の呼吸の確認方法  気道を確保する際は口をあけて犬の舌を前方に引っ張り出します。舌の表面がつるつるすべる場合は、服の端やハンカチなどを沿えてつかみましょう。口の中を覗き込んで異物が入っていないかどうかを確認し、もし見つかった場合は指でつまんで取り除きます。首をまっすぐにして気管に空気が通りやすい状態にしょう。 倒れている犬の口を開け気道の確保をする方法

心拍の確認

 呼吸と同時に心拍の有無を確認します。心臓の鼓動を確認するための拍動点はいくつかありますが、犬の大きさや体型により触知が難しいこともあります。自分が飼っているペットの拍動点を事前に触知できるようトレーニングしておくことも重要です。
心拍の確認方法
犬の心拍を確認する拍動点4種
  • 心臓前足を持ち、ひじを胸に向かって引き寄せ、接触した部分がおおまかな心臓の位置です。ここに指先をあて、心拍を確認します。ただし太った犬などでは触知するのが難しいため、念のため他の心拍確認点も把握する必要があります。
  • 前足の動脈前足の親指付近を指先で触ると、前肢動脈の拍動を感じることができます。施術者から遠いのが難点です。
  • 後足の動脈後足の親指付近を指先で触ると、前肢動脈の拍動を感じることができます。施術者から遠いのが難点です。
  • 太ももの動脈3本の指を太ももの内側に滑らせていくと太ももの大腿動脈の拍動を感じることができます。施術者の手が届きやすいという利点はありますが、短時間ですぐに触知するためには事前の練習が不可欠です。

救急心臓マッサージ

 気道の確保を行ったら心臓マッサージに移ります。犬の体型によって位置取りと胸部圧迫点が異なりますので、なるべく家庭内で予行演習しておきましょう。念の為、2024年にアップデートされた犬猫の心肺蘇生ガイドラインのリンクを載せておきます(英語)。 2024 RECOVER Guidelines: Updated treatment recommendations for CPR in dogs and cats

心臓マッサージのポイント

 心臓マッサージを行う際は犬の体の大きさや体型にかかわらず以下のようなポイントに気をつけます。
  • 犬が側臥位(横向き)の場合、圧迫の深さは胸幅の1/3~1/2。背臥位(仰向け)の場合、胸厚の1/4
  • 圧迫のペースは100~120回/分(1秒間に2回程度)
  • 圧迫後は胸壁が完全に復位するまで待つ
  • 圧迫フェーズと非圧迫フェーズが時間的に均等になるようにする
  • 施術者は肘を張って曲がらないようにし、片手を他方の手に添える
中~大型犬に対する心臓マッサージにおける正しい位置手の置き方

小型犬の場合

 小型犬の場合、犬の体型や施術者の手の大きさに合わせ、以下に示す3種類の方法のうちどれか1つを行います。イラスト中の猫は小型犬に置き換えてイメージしてください。
側臥位にし、2本の親指が心臓直上にくるよう当てる
小型犬の心臓マッサージテクニック~両側母指法
片方の手で背中を保持しながら他方の手で胸骨を包み込むように支え、指の腹で胸部圧迫を行う
小型犬の心臓マッサージテクニック~片側母指法
一方の手で背中を支えながら、もう一方の手の掌底で心臓部の1/3~1/2を圧迫する
小型犬の心臓マッサージテクニック~掌底法

中~大型犬の場合

 犬が中~大型犬の場合、胸郭の形に応じて施術する際の体位を適宜換えます。

扁平胴型:背臥位

 ブルドッグなど胸郭が横に広がって扁平になっている犬種の場合、背中を床に付けた背臥位で行います。圧迫ポイントは胸骨の中央付近で圧迫の深さは胸厚の1/4、圧迫のペースは100~120/分(1秒間に2回程度)です。 扁平胴型の犬に対する圧迫ポイント模式図

楕円胴型:側臥位

 グレーハウンドなど胸郭が楕円形になっている犬種の場合、体側を床に付けた側臥位で行います。圧迫ポイントは肩関節を中心として上腕をコンパスのように動かし、胸厚の1/3と交わる点で、心室から肺動脈および大動脈への血液灌流を促します。圧迫の深さは胸厚の1/3~1/2、圧迫のペースは100~120/分(1秒間に2回程度)です。 楕円胴型の犬に対する圧迫ポイント模式図

円形胴型:側臥位

 ラブラドールレトリバーなど胸郭が円形に近い犬種の場合、体側を床に付けた側臥位で行います。圧迫ポイントは肩関節を中心として上腕をコンパスのように動かし、胸厚の1/2と交わる点で、胸郭を「ふいご」のように伸縮することで血液灌流を促します。圧迫の深さは胸厚の1/3~1/2、圧迫のペースは100~120/分(1秒間に2回程度)です。 円形胴型の犬に対する圧迫ポイント模式図

救急人工呼吸

 人獣共通感染症や薬物暴露のおそれがない場合、心臓マッサージと並行して人工呼吸を行います。胸部圧迫と人工呼吸の比率は30:2、言い換えると心マ15秒ごとに人工呼吸を2回挟むイメージです。
 犬の背中側に位置を取って右手(もしくは両手)で犬の下あごをつかみ、口と肺を結ぶ気道を一時的に遮断します。このとき、鼻の上に伸びた鼻筋部分(マズル)を強く押してしまうと、鼻からの空気がうまく肺へ届きませんので要注意です。この状態で犬の鼻先を口にくわえ、マウスツーノーズの人工呼吸を2回行います。ちょうど風船を膨らませるイメージで、犬の肺がしっかり膨らむことを確認しましょう。
 事前の練習で慣れているような場合は、右手で口を塞ぎ、左手を胸にあてた状態で行います。この体勢のメリットは、呼気が確実に肺に届いているかどうかを胸に当てた左手で確認できるという点です。 倒れている犬の鼻に息を吹き込み、人工呼吸をする方法

蘇生術を繰り返す

 最初の心臓マッサージを施したにもかかわらず犬が蘇生しなかった場合、心臓マッサージ30回と人工呼吸2回をワンセットとし、5~20分程度続け、3セットごとに蘇生確認(呼吸と脈拍)をしましょう。うまい具合に犬が蘇生したら急いで動物病院を受診します。一般的に脳への酸素供給が5分断たれると、蘇生しても脳に重大な後遺症が残ってしまいますので、ぐったりした犬を発見してからの飼い主の迅速な行動がキーポイントとなります。
 全体の流れをつかむため、もう一度動画で復習しましょう。当ページ内の解説文とやや異なる部分もありますので、あくまでもイメージトレーニングとしてご利用ください。また関連動画(英語)も参考になりますので、あわせてご参照ください(YouTubeより)。Safe Dog Safety Tip: CPR Pet CPR
犬の心肺蘇生術
 以下では犬の心肺蘇生術の流れを解説付き動画でご紹介します。なお動画内の心臓マッサージは5回しか行っていませんが、本来は肘を張って力強く30回ほど行います。犬が死んだふりをしているだけで、実際に強い力でマッサージを施すと苦痛を与えてしまうために省略されています。 元動画は→こちら