トップ2024年・犬ニュース一覧6月の犬ニュース6月2日

屋外犬における落雷の危険性と予防法

 屋外にいる犬たちは飼い犬だろうと野良犬だろうと雷に打たれる危険性があります。落雷は7~8月が圧倒的に多いですが、程度の差はあれリスクはどの月にもあります。

落雷による犬の死亡例

 イタリアの調査チームが落雷が原因と考えられる犬の死亡症例を報告しました。以下はその概要です。
 2023年2月27日、雷雨の中、夜通し屋外に出されていたジャーマンシェパード3頭が死亡した状態で発見された。死亡したのは10ヶ月齢のメス(24kg)、3歳のメス(27kg)、5歳のオス(33kg)で、嵐直前の夕方には3頭とも異常がなかったという。犬たちはトラックの下で接近した状態で倒れており、車体にはタイヤやABS制御ユニットの焼けただれなど複数の損傷が認められた。
 3頭の遺体はイタリア南部にあるIstituto Zooprofilattico Sperimentale del Mezzogiornoに移送され、各種検査を通して死因の解析が行われた。
被害犬たちの検査所見
  • 外観検査皮膚と被毛の湿り | 前肢の硬直 | 瞬膜の脱出 | 下顎開口障害 | 漿液・出血性の鼻汁
  • 解剖初見胸腔及び腹腔内での血漿滲出 | 気管と気管支内に吸引された赤い泡 | 胃内腔には食事内容(ドッグフード) | 心内に部分凝固した血液 | リヒテンベルク図形(組織学的には紅斑部にわずかな毛細血管拡張)
  • 組織学検査心外膜下の血栓症 | 急性心不全 | 感電で見られる心筋線維の短縮と過伸長
 遺体発見時の状況や天候情報、遺体の解剖組織学的初見から、3頭の死因が落雷であると判断された。
Lightning deaths in three outdoor dogs: A case study
Federica Pesce a, Emanuela Sannino et al., Research in Veterinary Science May 2024, DOI:10.1016/j.rvsc.2024.105303

犬を落雷事故から守るには?

 落雷を原因とする犬以外の四足動物の死亡例としてはウシ、バッファロー、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ノロジカ、ゾウ、カリブーなど多数が報告されています。

雷による熱傷

 雷が電気抵抗の強い物体に流れるとエネルギーが熱に転換される割合が増え、生体に熱傷をもたらします。雷による通電はごく短時間なため、熱傷の多くは皮膚の外層に限定されます。
雷による熱傷
  • 線状熱傷汗や雨粒で濡れた箇所の水分が蒸発することで生じる1~2度の火傷
  • 穿孔熱傷複数円形のタバコを押し付けたような火傷
  • 温度熱傷着火した物体や加熱した金属による火傷
  • 電紋(リヒテンベルク図形)直撃から1時間位内に出現し、24~36時間で消失する樹木(シダ)状の病変/神経や血管の走行とは無関係で明白な発生メカニズムは不明。地面に現れることもある
落雷を受けた人の皮膚に浮かび上がる電紋(リヒテンベルク図形)  落雷を受けた人間では90%の割合で体表面の病変が認められ、うち30%ではリヒテンベルク図形が出現するとされています。一方、動物の場合は発見が遅れがちなことや被毛が邪魔なことからリヒテンベルク図形の報告は多くありません。
 熱傷を始めとした外面の傷害から内面の傷害を予見することは難しく、体表面の損傷は激しいけれども内部の損傷はそれほどでもないパターンや、逆に体表面の損傷は軽微だけれども内部の損傷が甚大であるパターンがあります。内部の損傷で特に重要となるのが、生命の維持に直結した心臓と神経の傷害です。

雷による致命的傷害

 落雷では40~70マイクロ秒というごく短い電流が、数百ミリ秒の間隔をあけて複数回着地します。雷が物体に当たった後、電流の道筋に沿った電圧差が生じ、近くにいた生物に直接的・間接的な傷害をもたらします。
雷による傷害パターン
  • 直撃雷が動物の体に直接落ちる
  • 側撃(サイドフラッシュ)地下にある物体(木や金属)を直撃した後、電流が生物に飛び移る
  • 歩幅電圧落雷点の近くいる動物の両足間に雷が流れる/接地2点間の距離が長いほど電圧差が大きくなり、電流が体を通過する際に心臓や肝臓を傷害する
  • 接触電圧雷が直撃した物体とその物体に接触していた生物間に雷が流れる
  • 上向き雷放電雲の上部に溜まった正電荷と地表の負電荷との間で上向きの放電が生じる
  • 二次効果ショックウェーブ(雷鳴)による空気の急激な膨張で鼓膜が穿孔するなど
歩幅電圧(step voltage)の発生模式図  特に接触電圧、歩幅電圧、上向き雷放電によって傷害を受けるパターンが多いとされます。電流が心臓に流れてしまうと心停止や不整脈が引き起こされ、心拍が不規則になると呼吸が停止してしまうことがあります。また電流が脳に流れてしまうと意識消失や昏睡状態が引き起こされ、その場に卒倒して頭部を強打し、二次的な脳損傷につながってしまうこともあります。
 人間を含めた動物における死因として多いのは心停止とそれに伴う呼吸停止で、落雷による被害者の約10%が死亡するとされています。

落雷事故の予防

 犬を落雷事故から守るためにはまず天気予報を日頃から確認することです。雷雨が予想されている場合は外出を避け、犬を屋外飼育している場合は安全な屋内に移動させます。
 雷雨のサインは強い風、激しい雨、濃い雲、稲妻(雷光)、遠くで聞こえる雷鳴などです。サインを認めたら早急に屋内に避難し、窓をすべて閉め切ります。また屋内では水道配管や電気配線への接触を避け、有線機器を使用しないようコンセントからプラグを抜いておきます。
 何らかの理由で近くに住居用建物がない場合は完全に閉鎖された金属製の乗り物(乗用車・バン・トラック)に避難します。公園の公衆便所やガゼボ(あずまや)のような開放部がある小さな構造物は決して安全ではありません。その証拠に、今回の症例報告に出てきた犬たちもトラックの下で発見されました。屋外に出るのは雷鳴や稲妻が消えてから30分経過してからです。
落雷被害者の体は電気を帯びていないため、雷による感電が疑われる場合は直ちに心肺蘇生術(胸骨圧迫+人工呼吸)を行って構いません。 犬の心肺蘇生術