ニンニクの成分
ニンニク(ガーリック, Allium sativum)はアスパラガス目ネギ科アリウム属の多年草。植物学的にはナガネギ、タマネギ、ニラ、ラッキョウ、アサツキなどと同じ仲間です。地中では小さな球状の塊がいくつか集まって大きな鱗茎(りんけい, bulb)を形成しており、香り付けや食用に利用されています。
ニンニクを切ったり潰したりすると、精油中に含まれるアリインと呼ばれる物質が酵素反応を起こしてアリシンと呼ばれるイオウ化合物に変わり、独特な匂いを発するようになります。またアリシンと空気が接触するとアリルシステインやアリルメルカプトシステインといった抗菌作用を持つ物質に変化します。
日本では「ニンニク抽出物」が厚生労働省によって既存添加物として認可されており、苦味や風味づけに利用されています。使用基準は特に設けられていません。また鱗茎(オオニンニク or ダイサン)は「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に区分されていますので、薬と誤解されるような表記とともに販売することはできません。
日本では「ニンニク抽出物」が厚生労働省によって既存添加物として認可されており、苦味や風味づけに利用されています。使用基準は特に設けられていません。また鱗茎(オオニンニク or ダイサン)は「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に区分されていますので、薬と誤解されるような表記とともに販売することはできません。
ニンニクは安全?危険?
動物において確認されているニンニクの効果には血圧の低下や加齢に伴う血管の弾力性の維持などがあります。一方、科学的な検証で十分な確証を得られていない効果は末梢動脈閉鎖症、脂質異常症、糖尿病、ピロリ菌感染、乳がん、肺がんの予防などです。いずれにしても先述したとおり、医薬品的効能効果を標榜してはいけませんので、通常は食品や香辛料として販売されています。
ではニンニクを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはニンニクに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。
ではニンニクを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはニンニクに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。
犬に与えてもよい派
ニンニクを給餌したり投与することによって健康が改善する可能性があるため、犬に与えてもよいのではないかという意見があります。以下は医学論文で公開されているニンニクの効果に関する情報です。
血圧低下効果?
犬を対象とし、体重1kg当たり31~63mgの乾燥ニンニク抽出物(生ニンニク10gに相当)を静脈から注入したところ、1~5分間だけ平均して25%の血圧低下が見られたといいます。それに合わせ、呼吸数と消化管の動きの増加も確認されました(:Malik, 1981)。
また別の調査で犬の体重1kg当たり2.5~15mgのニンニクを胃内投与したところ、30~40分後のタイミングで投与量に依存する形でナトリウム排泄増加および利尿反応が引き起こされたといいます。同時に動脈血圧の低下が見られ、100~150分後に正常化したとのこと。さらに15~20mgという高用量を投与したところ、投与から10~15分の間だけ呼吸数の低下と陰性T波(※心電図の異常)が確認されたそうです(:Pantoja, 1991)。
また別の調査で犬の体重1kg当たり2.5~15mgのニンニクを胃内投与したところ、30~40分後のタイミングで投与量に依存する形でナトリウム排泄増加および利尿反応が引き起こされたといいます。同時に動脈血圧の低下が見られ、100~150分後に正常化したとのこと。さらに15~20mgという高用量を投与したところ、投与から10~15分の間だけ呼吸数の低下と陰性T波(※心電図の異常)が確認されたそうです(:Pantoja, 1991)。
利尿効果?
不整脈予防効果?
脂質低下効果?
血糖値低下効果?
抗酸化作用?
犬を対象として体重1kg当たり1日45mgもしくは90?mgの熟成ニンニク抽出液を12週間に渡って経口投与したところ、臨床検査所見、全血球計算、血清生化学検査値に変化は見られず、スミア検査でも赤血球への酸化ダメージを示すハインツ小体と偏心赤血球は検出されなかったといいます。Nrf2(傷害や炎症によって引き起こされる酸化ストレスに対する生体防御タンパク質の一種)を生成するNFE2L2遺伝子、およびNrf2の調整を受ける抗酸化酵素に関連した複数の遺伝子を給餌の前後で比較したところ、両グループにおいて8週間後からNFE2L2発現量の増加が確認され、Nrf2依存型調整酵素のうちNQO1とGCLM遺伝子も上方制御を受けたといいます(:Yamato, 2018)。
犬に与えてはいけない派
仮に何らかの健康増進効果があったとしても、犬にニンニクを与えると中毒に陥る危険性があるため与えてはいけないという意見があります。以下は医学論文で公開されているニンニクの毒性・危険性に関する情報です。
赤血球へのダメージ
北海道大学の調査チームは臨床上健康な8頭の犬たちを2つのグループに分け、一方には体重1kg当たり1.25mLのガーリック抽出物(体重1kg当たりニンニク片5gに相当)を1日1回7日間に渡って胃内投与、他方には水を投与し、投与前および初回投与から30日後のタイミングで血液組成を調べました。その結果、9~11日目において溶血性貧血は見られなかったものの、赤血球数、ヘマトクリット、ヘモグロビン濃度が最低値を示し、ハインツ小体と偏心赤血球が検出されたといいます。こうした結果から調査チームは、ニンニクが赤血球の細胞膜を酸化して偏心赤血球を形成し、溶血を引き起こす危険性があるため犬に給餌すべきではないと結論づけています(:Lee, 2000)。
犬のニンニク中毒
焼きニンニク60gを誤食した シュナウザー種(6歳)では、貧血(ヘマトクリット22%)、メトヘモグロビン濃度の上昇(8.7%)、高血圧(収縮期血圧が182mmHg)、嘔吐、焦げ茶色の尿といった急性中毒症状が確認されたといいます。血液検査では偏心赤血球、ハインツ小体、膜の破れた赤血球が検出されたことから、ニンニクによる酸化ダメージを受けた可能性が高いとのこと。4日間の入院中、患犬は酸素吸入、抗酸化薬、降圧セラピーを受けて一命はとりとめたものの、退院から24時間は降圧セラピーに反応しない高血圧が続いたそうです。血圧が正常値に戻ったのは4ヶ月後でした(:Kang, 2010)。
またニラとニンニクを含んだ餃子を食べてしまい、ハインツ小体形成、溶血性貧血、偏心赤血球の増加といった症状を示したミニチュアシュナウザーの症例も報告されています(:Yamato, 2005)。
またニラとニンニクを含んだ餃子を食べてしまい、ハインツ小体形成、溶血性貧血、偏心赤血球の増加といった症状を示したミニチュアシュナウザーの症例も報告されています(:Yamato, 2005)。
中毒の原因物質
胃粘膜へのダメージ
聖マリアンナ医科大の調査チームは乾燥ガーリックパウダー(生・ゆで)および熟成ニンニク抽出物を内視鏡を使って犬の胃粘膜と接触させ、どのような変化が起こるかを検証しました。40mgを使用した結果、生ニンニクの乾燥パウダーでは潰瘍を含めた重大なダメージが見られたといいます。またゆでニンニクの乾燥パウダーでは炎症反応を示す赤みが見られたとも。一方、熟成ニンニク抽出物では変化が見られなかったそうです(:Hoshino, 2001)。
ちなみに実験で用いられた各ニンニク素材に含まれる物質の比率は以下です。「S-A」はS-アリルシステインで数値は素材1g中の含有量を示しています。生ニンニクの乾燥パウダーが最も重篤なダメージを胃粘膜に与えたことから、「アリイン」や「アリシン」の関与が疑われます。
ちなみに実験で用いられた各ニンニク素材に含まれる物質の比率は以下です。「S-A」はS-アリルシステインで数値は素材1g中の含有量を示しています。生ニンニクの乾燥パウダーが最も重篤なダメージを胃粘膜に与えたことから、「アリイン」や「アリシン」の関与が疑われます。
素材 | アリイン | アリシン | S-A |
生・乾燥粉 | 23.3mg | 11.3mg | 162μg |
ゆで・乾燥粉 | 6.6mg | 0.2mg未満 | 67μg |
熟成抽出 | 1.6mg | 0.2mg未満 | 671μg |
犬におけるニンニクの安全性に関しては「与えてよい」と「与えてはいけない」という両極端な意見が混在したカオス状態になっています。必要栄養素は含まれておらず、中毒症例がありますので与えないに越したことはないでしょう。