トップ犬の食事ドッグフード成分・大辞典サプリメントウコン

ウコン(クルクミン・ターメリック)~安全性と危険性から効果まで

 ドッグフードのラベルに記された「ウコン」(クルクミン・ターメリック)。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

ウコンの成分

 ウコン(Curcuma longa)はショウガ科の多年生草本。熱帯アジアの原産でインド、中国、インドネシアなどで広く栽培されている植物で「ターメリック」とも呼ばれます。 ドッグフードの成分として用いられる「ウコン」  根茎から得られた成分には「ターメリックオイル」や「クルクミン」(curcumin)などがあり、クルクミンの方は日本では厚生労働省によって既存添加物の着色料(黄~暗赤褐色)として認可され、カレーなどに用いられています。定義は「ウコン(Curcuma longa)の根茎から得られた、クルクミンを主成分とするもの」です。使用基準は特に設けられていません。
 ウコンやクルクミンはインドのアーユルヴェーダ医学で長年に渡って使用されてきた成分で、俗に「抗酸化作用がある」「肝臓によい」「発がんを抑制する」などと言われますが、食品衛生法では「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に指定されていますので、健康効果を標榜して製品に用いることはできません。
 海外ではマウスにおけるクルクミンのNOAEL(有害反応が生じない最大量)が体重1kg当たり1日250~320mgというデータを元にし、人間における一日摂取許容量(ADI)をEFSA(欧州食品安全機関)が体重1kg当たり3mgと設定しています。またJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)も同じ基準を採用しています。国際がん研究機関(IARC)によって発がん性は確認されていません。
ウコン(クルクミン・ターメリック)の安全性情報概要
  • 厚生労働省=既存添加物
  • IARC=発がん性なし
  • EFSA=上限3mg/体重1kg/日
  • JECFA=上限3mg/体重1kg/日
  • ペットフード=使用基準なし
 食品衛生法においてクルクミン(ウコン)は着色料に指定されていますが、ペットフードにおいてはもっぱらサプリメントとして用いられていますので、当ページ内では便宜上「サプリメント(その他の添加物)」に分類します。

ウコンは安全?危険?

 ウコン(クルクミン・ターメリック)を犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはウコンに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

抗炎症作用

 人間を対象としてクルクミンを経口投与した調査のメタ分析では、循環血液中の炎症促進物質インターロイキン6の濃度を低下させる効果があると示唆されています出典資料:Derosa, 2016。犬を対象とした調査でも、同様の抗炎症作用がいくつか報告されているようです。
 オランダユトレヒト大学の調査チームは、犬の血液を対象としクルクミンが持つ抗炎症作用を検証しました。白血球や赤血球といった細胞成分をすべて含んだ全血とリポ多糖とを接触させ、免疫反応とそれに続く炎症を引き起こした上で、クルクミンをさまざまな濃度(1nM, 10nM, 100nM, 1μM, 10μM)で添加し、24時間待った上で炎症促進成分であるプロスタグランジン2とインターロイキン6の濃度を測定したところ、クルクミン10μMのときプロスタグランジン2濃度の低下が確認されたといいます。一方インターロイキンに違いは見られなかったとも。またクルクミンの消化管からの吸収を早めるというホスファチジルコリンと混合したテストでも同じ結果が得られたそうです出典資料:Vermeulen, 2013
 南イリノイ大学カーボンデール校の調査班は中等度の骨関節炎を抱えた犬にクルクミン500mgを1日1回、もしくは250mgのクルクミンを含んだリポソーム製剤を1日2回の割合で5ヶ月間与え、症状の度合いを評価しました。その結果、開始から60日目の段階では1日1回の方が良い成績を収めたといいます。次に同じく骨関節炎を抱えた10頭の犬たちをランダムで2つのグループに分け、一方にはクルクミン500mgを1日1回、他方には100mgを1日1回与えて5ヶ月間に渡る観察を行ったところ、開始から60日目の段階では500mgの方が症状の緩和が見られたといいます出典資料:Bland, 2016
 イタリア・ウディネ大学の調査チームは骨関節炎を抱えた犬をランダムで6頭ずつからなる2つのグループに分け、一方には非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)、他方にはクルクミンを投与して末梢血中の白血球における遺伝子の発現形式を比較検証しました。その結果、20日間の投与期間が終わった時点における発現変動トランスクリプトがNSAIDsでは475→173、クルクミンでは498→141に減少したといいます。また双方において「炎症反応」および「結合組織の発達と機能」に関わる遺伝子の発現が有意に減少したとも。さらに腫瘍壊死因子やインターロイキンの調整に関わる遺伝子の発現にも関わっており、抗炎症物質の代替作用を持っていることが明らかになりました出典資料:Colitti, 2012

細胞増殖抑制作用

 いくつかの調査では、クルクミンが細胞の増殖を抑制する効果を有している可能性が示されています。
 ブラジル・リベイラン・プレート大学の調査チームは犬から取り出した組織球肉腫の細胞を培養し、クルクミンの抑制作用を検証しました。その結果、50%阻害濃度(IC50)が24時間後が21.88μg/mL 、48時間後が14.26μg/mL、72時間後が12.17μg/mLで、時間の経過とともに増殖抑制作用の高まりが確認されたといいます出典資料:Noronha, 2014
 カリフォルニアルーセラン大学の調査チームは犬の骨肉腫細胞に対するクルクミンの抑制作用を検証しました。その結果、時間経過および濃度と連動する形で増殖抑制効果および細胞死促進効果が確認されたといいます出典資料:Cisneros, 2019
 さらにトルコ・イスタンブール大学の調査チームはクルクミンとシクロホスファミドが相乗的に働くかどうかを検証しました。犬の乳がん細胞を対象とし、両成分がもつ抑制作用を検証したところ、クルクミンの50%阻害濃度(IC50)にシクロホスファミドのIC50のちょうど半分の量を加えると最も相乗効果が高くなることが判明したといいます。これらの成分はがん細胞の自死を促進すると同時にBcl-2/Baxタンパクの発現様式を変化させ、結果としてがん細胞の増殖サイクルを阻害しているものと推定されています出典資料:Alkan, 2014

神経変性抑制作用?

 クルクミンが神経変性疾患の進行を遅らせるかもしれないという予備的な報告があります。
 日本の岐阜大学を中心とした共同チームは変性性脊髄症(DM)を発症したウェルシュコーギーペンブローク40頭を対象とした調査を行いました。そのうち8頭がクルクミンを成分として含む市販の栄養補助食品をたまたま使用していたため、残りの32頭と統計的に比較したところ、前足の荷重不全が現れるまでの期間に関しても(34.5ヶ月 vs 26ヶ月)、患犬たちが自然死するまでの生存期間に関しても(43ヶ月 vs 34ヶ月)、クルクミンを服用していた群の方が有意なレベルで長かったといいます。
 ただしこの補助食品にはクルクミンのほかメチルスルホニルメタン、ビタミンB群(1・2・6・12)、ヘスペリジン、酵母エキスなどが含まれていたため、クルクミンそのものが神経変性を遅らせたとは断言できません出典資料:Kobatake, 2021

副作用・有害反応

 人間もしくは犬以外の動物を対象とした調査により、クルクミンの過剰摂取によっていくつかの副作用や有害反応が引き起こされる可能性が示されています。以下は一例です出典資料:Veerle, 2016
  • 薬物の代謝阻害体内に入ってきた薬物の代謝をする際に重要な役割を果たしているシトクロムP450、UGT、GSTなどの酵素の活性度を下げる可能性が示されています。その結果、摂取した薬が正常に分解されず体内に蓄積してしまうかもしれません。
  • 貧血げっ歯類を対象としたクルクミンの給餌試験では、鉄分が少ない食事を与えられているときにクルクミンを摂取すると、キレート化(金属イオンと結合して活性を低下させる現象)が起こって重度の貧血に陥ったといいます。
  • DNAダメージクルクミンの摂取量が多いインドでは消化管のがんが少ないという報告がある一方、クルクミンを体重1kg当たり1日0.2mgを3ヶ月から2年に渡って摂取したラットやマウスでは、小腸における発がん性が高まったといいます。
  • 消化管の炎症人間においてはクルクミンの過剰摂取と吐き気、下痢、ALPやLDH(乳酸脱水素酵素)の上昇との関連性が指摘されています。
  • 胆嚢の収縮クルクミンが胆嚢の収縮を引き起こす可能性があることから、胆石症を抱えている場合の危険性を否定できません。
  • シュウ酸カルシウム結石ターメリックのサプリメントを日常的に摂取している人においてはシュウ酸カルシウム結石の発症リスクが高まる危険性が示されています。
  • 体臭の変化?必ずしも犬の健康に関係はありませんが、犬の体から「猫のおしっこ」と形容される妙な臭いが発散するという逸話的な報告があります。
ラベルに「ウコン」とか「クルクミン」とあっても、ほとんどの商品は含有量まで記載していません。入れている目的、安全性、口に入れた後どのくらいの割合で生物学的利用能を発揮するのかは不明です。ただあまりにもたくさん入っている場合は便がやや黄色くなる可能性があります。