有胞子性乳酸菌の成分
有胞子性乳酸菌(ゆうほうしせいにゅうさんきん)とは、胞子と呼ばれる殻を形成して酸、熱、乾燥などに対し強い抵抗力を示し、なおかつ乳酸を生成する能力を持った菌のことです。殻に閉じこもった状態は「芽胞」(endospore)とも呼ばれます。
乳酸菌の定義の一つに「内生胞子をつくらない」というものがありますので(:東京医療保健大学)、有胞子性乳酸菌とはそもそもおかしな表現ですが、「胞子を形成する例外的な乳酸菌」という広い意味合いで便宜上用いられます。この種の菌はバチルス科とラクトバチルス(乳酸桿菌)科両方の特徴を有していることから、最新の技術でDNA解析してもはっきり分類することは難しいとのこと(:Khatri, 2016)。 一般的に有胞子性乳酸菌と言った場合は「Bacillus coagulans」(バチルス・コアグランス)という特定の菌種を指します。時として「Lactobacillus sporogenes」と同義語的に扱われることがあるのは、単離に成功した1932年以降、一時的にラクトバチルス(乳酸桿菌)科に分類されていた名残です(:FOOD-INFO)。
乳酸菌の定義の一つに「内生胞子をつくらない」というものがありますので(:東京医療保健大学)、有胞子性乳酸菌とはそもそもおかしな表現ですが、「胞子を形成する例外的な乳酸菌」という広い意味合いで便宜上用いられます。この種の菌はバチルス科とラクトバチルス(乳酸桿菌)科両方の特徴を有していることから、最新の技術でDNA解析してもはっきり分類することは難しいとのこと(:Khatri, 2016)。 一般的に有胞子性乳酸菌と言った場合は「Bacillus coagulans」(バチルス・コアグランス)という特定の菌種を指します。時として「Lactobacillus sporogenes」と同義語的に扱われることがあるのは、単離に成功した1932年以降、一時的にラクトバチルス(乳酸桿菌)科に分類されていた名残です(:FOOD-INFO)。
有胞子性乳酸菌は安全?危険?
有胞子性乳酸菌(B. coagulans)は1915年、エバミルクの凝固(coagulation)に関わっている微生物としてアメリカのアイオワ州で発見されました。日本では戦後間もない1940年代から国内の学術論文で報告されるようになり、通常の乳酸菌と比べて加工処理への安定性が高いことから、1960年代の後半にはすでに菌入りジュースが市販されていたようです。
この菌は果たしてを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのは有胞子性乳酸菌に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。
この菌は果たしてを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのは有胞子性乳酸菌に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。
日本での安全性・副作用情報
有胞子性乳酸菌にはたくさんの菌株がありますが、現在日本で発見されているのは1949年に玉川大学農学部の中山大樹氏が緑麦芽から単離した「ラクボン株」(SANK70258)、および2010年にアテリオ・バイオ株式会社がライラックの花から単離した「lilac-01株」(NITE P-01102)の2種類だけです。ラクボン株は医薬部外品(パンクラミン®)、食品(ラクリス™)、動物用飼料添加物(ラクリス™-10)などとして、lilac-01株は人間の機能性食品および犬猫向けのサプリメント(ライラック乳酸菌®)として販売されています。なおペットフード安全法では特に使用基準は定められていません。
安全性(副作用)に関する明確な報告があるのはラクボン株(SANK70258)の方だけです。三菱ケミカルフーズはオスメス10匹ずつのラットを対象とし、B. coagulansのラクボン株(SANK70258)を90日間に渡って給餌する毒性試験を行いました。1日摂取量に500、1,000、2,000mgという違いを設け、何も摂取しない対照グループと比較したところ、活動量、体重、摂食量、尿・血液検査値、解剖組織学的な所見に一切異常は見られなかったといいます。この結果からNOAEL(無毒性量)は体重1kg当たり1日2g超(1000億CFU)と推計されました(:Akagawa, 2016)。
海外での安全性・副作用情報
ヨーロッパにおいてはEFSA(欧州食品安全機関)が豚や家禽向けの飼料添加物として「TechnoSpore®」(B. coagulans DSM 32016)や「Probion Forte®」(B. coagulans KCCM 11093P)の安全性評価を行っているものの、人間向けの添加物としては認めていないようです。またJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)やIARC(国際がん研究機関)でも菌そのものの安全性評価は行っていません。
アメリカでは食品医薬品局(FDA)によって特定の菌株がGRAS(一般的に安全な成分)として認められています。具体的には「SNZ1969」「SANK70258」「MTCC5856」「GBI-30, 6086」などです。
詳細な毒性試験としては アメリカにある「AIBMR Life Sciences Inc.」の調査チームがラットを対象として体重1kg当たり1日136億CFU/gの「B. coagulans GBI-30, 6086」(GanedenBC30/8億CFU)を90日に渡って給餌し、NOAEL(無毒性量)が体重1kg当たり1日1g超であると推計しています(:Endres, 2009)。
またラットを対象とした1年間に渡る長期的な給餌試験では、NOEL(無影響量)が体重1kg当たり1日1,948mgと推計されており、安全係数を100、人間の体重を70kgとした場合、1日938億CFUまでは安全であると見積もっています(:Endres, 2011)。
詳細な毒性試験としては アメリカにある「AIBMR Life Sciences Inc.」の調査チームがラットを対象として体重1kg当たり1日136億CFU/gの「B. coagulans GBI-30, 6086」(GanedenBC30/8億CFU)を90日に渡って給餌し、NOAEL(無毒性量)が体重1kg当たり1日1g超であると推計しています(:Endres, 2009)。
またラットを対象とした1年間に渡る長期的な給餌試験では、NOEL(無影響量)が体重1kg当たり1日1,948mgと推計されており、安全係数を100、人間の体重を70kgとした場合、1日938億CFUまでは安全であると見積もっています(:Endres, 2011)。
有胞子性乳酸菌の効果・効能
有胞子性乳酸菌はビフィズス菌や乳酸桿菌(ラクトバチルス)と違って熱や酸に強いことから、古くより加工食品への添加物として期待されてきました。例えば半世紀近く前に行われた初期の研究では早くも、人間の胃の中よりも強い酸性環境であるpH3.0に4時間置いても、かなりの数が生存すると報告されています(:Misawa, 1971)。またアメリカにある「Increnovo LLC」の調査チームが近年行った調査では、「Bacillus coagulans」(GBI-30, 6086株)が胃酸と胆汁酸によって分解されず腸内に届き、そこで芽胞が発芽すること、炭水化物とタンパク質の消化を助けること、そしてタンパク質とともに摂取した場合は吸収も促進されることを報告しています(:Jager, 2017)。
効果に関しては現在も熱心に研究が続けられており、以下のような報告が上がっています。
効果に関しては現在も熱心に研究が続けられており、以下のような報告が上がっています。
人間に対する効果・効能
有胞子性乳酸菌にはいくつかの菌株があり、種類によってどのような違いがあるのかはよくわかっていません。商品ラベルにただ単に「有胞子性乳酸菌」とだけ記載されているような場合は、菌株や含有量(単位はCFU)まで含めて調べる必要があります。
GBI-30, 6086株
ニューヨークにある「Research Testing Laboratories」は炎症性腸疾患(IBD)患者44人(23~70歳)をランダムで2つのグループに分け、一方には「Bacillus coagulans GBI-30, 6086」(GanedenBC30/8億CFU)、他方には偽薬(プラセボ)を1日1回8週間に渡って投与し、試験開始前後における腹痛と腹部膨満感を自己評価してもらいました(※症状の程度に開きがあったためグループ間比較なし)。
その結果、有胞子性乳酸菌グループでは7週間すべてにおいて開始前よりも統計的に有意なレベルで両症状のスコアが改善したといいます。それに対しプラセボグループでは6週目と8週目の腹痛スコアでだけ改善が見られました。試験期間中に重大な副作用は確認されなかったとも(:Hun, 2009)。 アメリカにある「Rapid Medical Research」は臨床上健康な男女10名(平均44歳)を対象とし、カプセル入りのプロバイオティクス製剤(B. coagulans GBI-30, 6086/Sustenex®)を1日1回30日間に渡って投与し、試験の前後において免疫応答にどのような変化が起こるのかを検証しました。
給餌試験終了後に被験者から血液を採取し、T細胞をアデノウイルスとインフルエンザウイルスに曝露してサイトカインレベルを給餌試験開始前のデータと比較したところ、アデノウイルスおよびA型インフルエンザウイルス(H3N2テキサス系)との接触でT細胞による腫瘍壊死因子αの産生増加が確認されたといいます(:Baron, 2015)。
その結果、有胞子性乳酸菌グループでは7週間すべてにおいて開始前よりも統計的に有意なレベルで両症状のスコアが改善したといいます。それに対しプラセボグループでは6週目と8週目の腹痛スコアでだけ改善が見られました。試験期間中に重大な副作用は確認されなかったとも(:Hun, 2009)。 アメリカにある「Rapid Medical Research」は臨床上健康な男女10名(平均44歳)を対象とし、カプセル入りのプロバイオティクス製剤(B. coagulans GBI-30, 6086/Sustenex®)を1日1回30日間に渡って投与し、試験の前後において免疫応答にどのような変化が起こるのかを検証しました。
給餌試験終了後に被験者から血液を採取し、T細胞をアデノウイルスとインフルエンザウイルスに曝露してサイトカインレベルを給餌試験開始前のデータと比較したところ、アデノウイルスおよびA型インフルエンザウイルス(H3N2テキサス系)との接触でT細胞による腫瘍壊死因子αの産生増加が確認されたといいます(:Baron, 2015)。
SANK70258株
lilac-01株
アテリオ・バイオ株式会社は便秘気味を自覚している成人297名(20~80歳)をランダムで2つのグループに分け、149名には1日2gのおから粉末を、残りの148名にはおから粉末と1,000万CFUのlilac-01株を1日1回×2週間に渡って給与し、便のクオリティが自己評価でどのように変化するかを検証しました。
その結果、有胞子性乳酸菌グループにおいては便のボリューム、宿便感、便の頻度が改善し、統計的に有意とまでは行かなかったものの、便の色や臭いも改善傾向を示したといいます。こうした結果から、菌が腸の蠕動運動を促進し、便秘気味の人の便クオリティを改善する可能性があると結論づけています(:Minamida, 2015)。
その結果、有胞子性乳酸菌グループにおいては便のボリューム、宿便感、便の頻度が改善し、統計的に有意とまでは行かなかったものの、便の色や臭いも改善傾向を示したといいます。こうした結果から、菌が腸の蠕動運動を促進し、便秘気味の人の便クオリティを改善する可能性があると結論づけています(:Minamida, 2015)。
LBSC株
犬に対する効果・効能
ドッグフードやペット向けサプリメントのラベルでは頻繁に「有胞子性乳酸菌」という言葉を見かけます。しかし人間の場合と同様、菌株や含有量まで含めて記載しないとどのような効果を期待できるのかがわかりません。アメリカの株が含まれているのか、インドの株が含まれているのか、それとも日本国内の特許株が含まれているのかによって、微妙に内容が異なります。また以下で示すように、有胞子性乳酸菌を単独で投与した試験はほとんどなく、効果がはっきり実証されているとは言い難いのが現状です。
Unique IS2株
菌株不明
コーネル大学の調査チームは臨床上健康なソリ犬(22~26kg/2~6歳)をランダムで2つのグループに分け、9頭にはシンバイオティクス(※菌とその栄養素の混合)を、8頭には微小結晶セルロースを1日5gずつ合計6週間に渡って給餌し、便のクオリティを比較しました。その結果、シンバイオティクスグループでは2週目からラクトバチルス(乳酸桿菌)の増加が見られ、それに連動する形で酪酸塩の増加も確認されたといいます。また5週目から便スコアの改善が見られ、参加犬の間で蔓延した下痢の程度も軽くて済んだといいます。なおシンバイオティクスの具体的な含有成分は以下です(:Gagne, 2013)。
- エンテロコッカス・フェシウムSF68
- バチルス・コアグランス(※菌株不明)
- ラクトバチルス・アシドフィルス
- フラクトオリゴ糖
- マンナンオリゴ糖
- ビタミンB1
- ビタミンB2
- ビタミンB3
- ビタミンB6
- 醸造酵母
- 大豆レシチン
- ステアリン酸マグネシウム
- 微小結晶セルロース
- グリセルアルデヒド
- 二酸化ケイ素
GBI-30, 6086株
カンザス州立大学の調査チームは10頭のビーグル犬を対象とし、GBI-30, 6086株を1頭当たり1日100万~10億CFUの割合で給餌し、給餌していなかったときと比べてどのような違いが見られるのかを検証しました。その結果、有機物、粗たんぱく質、粗脂肪のほか、総エネルギーの見かけの消化率は10億CFUのときにもっとも高い値を示したといいます。一方、摂食量や便のクオリティ、pH、アンモニア濃度、短鎖脂肪酸濃度に違いは見られなかったとも(:Acuff, 2020)。
「ビオイムバスター®錠」など動物用医薬品として有胞子性乳酸菌を含んでいるものがありますが、菌株も含有量も公開されていません。サプリメントもありますが、犬への安全性や有効性に関する実証データは見当たりません。「たぶん安全、たぶん有効」といった所でしょうか。