トップ犬の食事ドッグフード成分・大辞典魚介類魚粉

魚粉(フィッシュミール)~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「魚粉」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

魚粉(フィッシュミール)の成分

 魚粉とは魚であることまではわかっているものの、具体的にどのような種類の魚なのかがよくわからない粉状の成分のことです。例えばドッグフードのラベルでは以下のような表記をよく見かけることがあります。
魚の種類がわからないラベル表記
  • フィッシュエキス
  • フィッシュパウダー
  • フィッシュミール
  • フレッシュオイリーフィッシュ
  • オーシャンフィッシュミール
  • 魚肉
  • 魚粉
  • 白身魚エキス
  • 白身魚ミール
  • 煮干し
  • 煮干パウダー
  • 小魚
  • いりこ
  • かにかまチップ
  • かまぼこ
ERS Fishmeal Process ドッグフードの成分として用いられる「魚粉」(フィッシュミール)  「ミール」や「パウダー」は素材となる魚をまるごと砕いて粉状にしたもののこと、「エキス」とは素材となる魚を茹でたときに出た煮出し汁のことです。しかし成分の形状まではわかりますが、どんな魚が使われているのかに関してはよくわかりません。

魚粉・魚油のレンダリング

 ペットフードのラベルに記載されている「魚粉」(フィッシュミール)や「魚油」(フィッシュオイル)とは、基本的に不要部位を加工したものです。ここで言う「不要部位」とは、魚を加工する過程で発生する膨大な量のいらない部分のことで、頭部、骨、エラ、ヒレなどを含むこうした部位は「魚のあら」とも呼ばれます。また割合としては少ないものの、市場価値などの問題から十分な値がつかず結果的に廃棄される「雑魚」(ざこ)も原料になります。
 不要部位や雑魚は、「FAMIC」(独立行政法人農林水産消費安全技術センター)による審査に適合した製造基準適合確認事業場 に送られ、さまざまな形に加工されます。これが「レンダリング」(rendering)と呼ばれる工程で、レンダリングを行う業者は「レンダラー」(renderer)とも呼ばれます。
 魚を原料として製造される具体的な製品は「魚粉」(フィッシュミール)、「魚油」(フィッシュオイル)、「ソリュブル」(タンパク濃縮液)、高濃度DHA油などです。以下では魚がさまざまな製品に加工されてペットフードに使用されるまでの一般的な流れをご紹介します。

水産業者

 水産業者とは、水産物産地市場や水産加工業者の総称です。一般に魚介類の可食部分は重量比で50~70%とされており、残りの30~50%は「魚あら」という形で排出されます。こうした水産系の不要部位は魚の水揚げから消費にいたる各段階で発生し、家庭から排出されるものを除いた総量は年間400万トン近いと推計されています。そのうち家畜の肥料やペットフードの原料として再資源化されるのは約3割です。

魚のレンダリング業者

 レンダリング業者とは、魚のあらや雑魚を原料とし、さまざまな製品に加工する業者のことです。中でも大部分を占めるのが魚粉業者で、重量ベースで見た原料のうち26~27%が魚粉(フィッシュミール)に加工されます。
 水産物の産地にある魚粉業者の特徴は、原料となる魚の種類が少なく大量で、鮮度が高いというもの。一方、水産物の消費地にある魚粉業者の特徴は、原料となる魚の種類が多くて鮮度も不均一というものです。水揚げ場所からの距離で原料の種類やクオリティに差が出てしまうのは当然でしょう。なお魚油に関しては「魚油(フィッシュオイル)」の方で詳しく解説してありますのでそちらをご参照ください。

ペットフード製造業者

 ペットフード製造業者とは、成分調整された魚粉(フィッシュミール)を原料として仕入れ、ペットフードを製造する業者のことです。事前にFAMICに申請を出し、現地見分による審査に合格しなければ営業はできません。ここを経てようやく一般の飼い主の手元にペットフードが届きます。
 なおペットフードのラベルにただ単に「魚粉」や「フィッシュミール」と記載されている場合、それが魚のあらを原料としたものなのか、それとも「ラウンド」と呼ばれる魚全体を原料としたものなのかがわかりません。同様に、国内のレンダリング業者が製造したものなのか、それとも海外から輸入されたものなのかも分かりません。
 魚粉が何を原料としてどこで製造されたものなのかを知りたい場合は、ペットフードメーカーに直接問い合わせるしかないでしょう。

輸入された魚粉等のリスク

 国外から魚粉を輸入しようとする場合、どんな国からでも輸入できるわけではありません。輸入が許されているのは、農林水産省との間で「家畜衛生条件」が締結されている国だけです。「家畜衛生条件が締結されている」とは、日本国内で実行されているリスク管理と同等以上の管理が相手国側でも行われていることを意味します。具体的には「製造工程において魚粉以外の動物性加工たん白質が含まれていないことがしっかり確認されている」などが該当するでしょう。
 国家間で家畜衛生条件が締結され、海外の輸出国から製造施設が具体的に指定されると、日本国内の輸入業者はFAMICが定める手続を行い、指定された製造施設だけからペットフード用原料として魚粉を輸入することが可能となります。要するに「適当な国にあるよくわからない会社から、日本国内に好き勝手に輸入できるわけではない」ということです。
フィッシュミール工場
 以下でご紹介するのは、魚を乾燥させた後、細かく砕いて粉にする「フィッシュミール」の製造工程を収めた動画です。なお農林水産省の農林水産物輸出入統計によると、日本における魚粉(フィッシュミール)の輸入は2018年のデータでペルー、チリ、タイが輸入国トップ3になっています。動画内に登場するのはタイの加工場で、原料にはサンマが使用されています。 元動画は→こちら
 ちなみに「家畜伝染病予防法」において「動物の骨粉、肉粉、肉骨粉、血粉、皮粉、羽粉、蹄角粉及び臓器粉」は指定検疫物、すなわち輸出国と輸入国双方の検査と許可が必要なものに指定されていますが、魚粉に関してはリストに入っていません。
メンハーデン
 メンハーデン(menhaden)はニシン科に属する体長30~40cmほどの小型の魚。メキシコ湾を生息地とする「ガルフメンハーデン」と大西洋を生息地とする「アトランティックメンハーデン」とに細分されます。 ドッグフードの原料としてよく用いられるメンハーデン  刺し身のような形で人間に食されることはほぼなく、大部分は魚粉や魚油の原料として使用されます。日本では獲れませんので、パッケージに「メンハーデン」とある場合は、必然的に輸入されたものだと考えられます。

輸入されたペットフードのリスク

 海外で製造されたペットフードはどうなのでしょう?実は最もリスクが高いのはこのパターンだと考えられます。
 日本の法律では、すでに製造されたペットフードは家畜伝染病予防法が定める指定検疫物にはなっていませんので、検査の対象にはなりません。また日本のペットフード安全法が定める有害物質の基準項目や上限値も、国が変われば変動してしまうことがあります。要するに海外製のペットフードには何が入っているのかわからないということです。
 2017年、人間や動物の食品の安全性を客観的に評価する「Clean Label Project」は、アメリカ国内で流通している85のペットフードブランドを対象とし130種近くの化学物質(重金属など)の含有率調査を行いました。その結果、鉛、水銀、ビスフェノールA、カドミウムを無視できないレベルで含有しているフードが数多く発見されたといいます。
輸入業者が受入規格を設けており、フードメーカーの生産工程や海外から輸入したフードをしっかりとチェックしているかどうかは直接問い合わせて確認する必要があります。