トップ犬の老化犬の死とペットロスペットロス

ペットロスがつらいとき~後悔と悲しみの原因から罪悪感の対処・予防法まで

 大好きな犬が死んでしまいました。心にぽっかりと穴が空き、後悔や悲しみで気力がわきません。普通の飼い主なら当然の感情ですが、生活に支障(ししょう)をきたすほどふさぎこんでしまうと、いわゆるペットロス症候群と呼ばれることがあります。

ペットロスとは?

 「ペットロス」とは、飼っていたペットを失った後に感じる悲しみのことです。引き金になるのは、ペットの喪失、およびペットがいたからこそ享受できていた様々な特典の喪失です。犬の場合は散歩、アジリティ、犬仲間との会話、猫の場合はSNSへの写真投稿などが含まれるでしょう。 ペットロスとはペットを失った後に感じる悲しみのことで、決して病的なものではありません  ペットロスのきっかけとして最も多いのは死別です。これには自然死(老衰など)、事故死(車に轢かれるなど)、安楽死(がんの末期など)などが含まれます。また生き別れというパターンもあります。これには迷子、盗難、譲渡、災害による別離などが含まれるでしょう。
 ペットロスはほとんどの犬の飼い主が遅かれ早かれ経験することです。しかしどのように現れていつまで続くかには個人差があり、正常なペットロスと異常なペットロスとに分かれます。具体的な目安は以下です。

正常なペットロス

 飼っていたペットを失ったときに感じる深い悲しみには、いくつかの典型的なモデルがあります。エリザベス・キュブラー・ロスやジョン・ボウルビーなど、非常に多くの研究者が、非常に多くの理論を発表していますが、その全てに共通する要素は以下です。 ペットロスと獣医療(チクサン出版社)
悲嘆のプロセス3段階
  • 初期段階=ショックや拒否
  • 中期段階=情緒的な苦痛や苦悩
  • 最終段階=克服・回復
 上記した悲しみの過程を事前に理解しておく事は、犬や猫を飼っている人間にとってとても重要です。著名なグリーフ・カウンセラーの一人マーレー・コリン・パークスは「死別に悲しむ人を救うために大切なのは、何が正常かを知ることである」と指摘しています。つまりペットを失った後に生じる一般的な変化をあらかじめ知っているだけで、ペットロスからの立ち直りが通常よりも早くなるということです。

異常なペットロス

 ほとんどの犬や猫の飼い主は上記した「正常なペットロス」の過程を経て立ち直り、少しずつ回復へと向かっていきます。しかし一部の人では何らかの理由で悲しみの進行に邪魔が入って乗り切ることができず、「ペットロス症候群」と呼ばれる病的な状態に陥ってしまうことがあります。例えば以下に示すような症状が別離から2ヶ月以上続いている場合は、正常な悲嘆のプロセスがどこかでブロックされていると考えられます。
心理的な症状
  • 罪悪感・申し訳ない気持ち
  • 後悔・自責の念
  • 償いたいという良心の呵責
  • 分離に伴う不安感
  • 抑うつ気分
  • 混乱と絶望
  • はかなさ・虚しさ
  • 無力感・挫折感
  • ペットを見捨てたという罪の意識
  • ペットから見捨てられたという悲しみ
  • 最後の姿が頭から離れない
  • 喜怒哀楽の感情が乏しい
  • ペットの姿が見える(幻覚)
  • ペットの声が聞こえる(幻聴)
  • ペットの臭いがする(幻臭)
  • ペットが触ってきた(幻触)
身体的な症状
  • 疲労感・脱力感
  • 胸が苦しい
  • 動悸や息切れ
  • 喉が異常に渇く
  • 音や光に鋭敏になる
  • 何を食べても味がしない
  • 自分で考えて行動しているという実感がない(異人感)
  • 周囲の世界に現実感がない
  • 寝付きが悪い・早く起きてしまう
  • 食欲がない・食欲が止まらない
  • ケアレスミスの連発
社会的な症状
  • 外出したくない
  • 人に会いたくない
  • 他人のペットを見たくない
  • テレビや新聞を見たくない
  • 世の中への無関心
  • 勤労意欲の低下
  • 学習意欲の低下

ペットロス症候群

 「ペットロス症候群」という病名は存在していませんので、必然的に「どのくらい続けばペットロス」とか「チェックリストで○項目当てはまったらペットロス」といった明確な診断基準も存在していません。また「症候群」という言葉には「病気」というニュアンスがあるため、スティグマ(よくない印象)が付くのを避けて使用を控えている人もいます。しかし日本国内では1990年代の半ばから使われており、一般にも浸透しているため、当サイト内では便宜上、ペットロスの正常なプロセスがブロックされて病的な状態に陥ることを「ペットロス症候群」と呼ぶことにします。

悲しみの5段階

 正常なペットロスでは「悲嘆のプロセス」というものを経験し、辛いペットとの別れを克服していきます。これは大事なものや人を喪失した人が経験する悲しみをいくつかのステージに区分したものです。たくさんある悲嘆プロセスの中で最も有名なのは、エリザベス・キュブラー・ロスが1969年の本「On Death and Dying」の中で紹介した「キュブラー・ロス・モデル」でしょう。Kubler-Ross model悲しみの5段階~拒否・怒り・交渉・抑うつ・受容  悲しみの5段階とも呼ばれるこの理論では、悲しみが生じてから回復するまでの心の過程を「拒否・怒り・交渉・抑うつ・受容」の5つに分類しています。先述したとおり、自分自身に起こる変化を事前に知っているだけで、ペットロスからの立ち直りが早まる可能性がありますので、以下でご紹介します。ただしキュブラー・ロス自身が述べているように、このモデルで悲しみの全てを説明することはできないし、必ずしもこの順番で起こるわけでもありません。多くの場合、各ステージを行ったり来たりしながらゆっくりと解決に向かいます。

拒否

 「拒否」(denial)とは、「ペットが死んでしまった」という事実を頑(かたく)なに認めようとしない心理プロセスのことです。事故、迷子、天災(地震や洪水)などにより、心の準備もなく突如としてペットとの別離を強要された人にほど強く起こります。
 「こんなこと自分に起こるはずがない!」という強い否認から始まり、どんなに非現実的でも「ペットが死んだというのが何かの間違いである」と思わせてくれるような材料を片っ端から探していきます。例えば「これは非常にリアルな夢で、目がさめたらペットはいつも通り隣に寝ているはずだ」とか「ペットの死を連絡してきた獣医さんが実はニセモノで、自分を驚かそうとするたちの悪い友人の仕組んだドッキリである」などです。キュブラー・ロスはこうした「拒否」の過程を、来(きた)るべき悲しみに対する心の準備期間だとしています。

怒り

 「怒り」(anger)とは、自分に苦しみを与えたものに対して漠然と反発することです。
 例えば、ペットを担当していた獣医に対し「もっと適切な処置をしていれば助かったんじゃないのか?!」「あの時手術していればまだ生きられたんじゃないの?」と詰め寄るような「他者への怒り」もあるでしょう。「もっと散歩に連れて行くべきだった…」「なぜ自宅で最期を迎えさせてあげなかったんだろう?」という「自分への怒り」もあります。怒りの矛先をどこに向けてよいのかわからず、自分で呼んだペット葬儀社に八つ当たりしたり、「何も悪いことをしていないのに、なぜうちの子にこんなひどいことをするの?」と神仏に漠然と怒りを表明するもいます。中には「私を残して行くなんてひどい!」とペットに対して怒りを感じる人もいるでしょう。

交渉

 「交渉」(bargaining)とは、悲しみを克服するために、何か神的なものに願掛けをすることです。「取引」と訳されることもあります。
 例えば「ペットを生き返らせてくれるのなら、私の寿命を10年差し上げます!」「もう怒らないからペットを返して!」「神社にお百度参りをするから迷子のあの子が見つかりますように…」などです。いわゆる「神頼み」に近い心理状態と言えます。それほど宗教的でない人の場合は、「あのときセカンドオピニオンを聞いていれば…」「もっと早く病院に連れて行ってれば…」など現実的な「たられば」を頭の中で延々と思い描くこともあります。

抑うつ

 「抑うつ」(depression)とは無気力になった状態のことです。
 余りにも強い悲しみや苦悩が、他の全てのポジティブな感情を押し流し、何をしても楽しくない、今まで夢中だったことがどうでもよくなるなど、軽い「うつ」状態になります。「ペットがいない人生に意味なんて無い」とか「自分は何のために生きているんだろう?」と悩み始めるのもこの段階です。人と会うのが苦痛になり、外にも出ず引きこもり状態になることもあります。

受容

 「受容」(acceptance)とは、ペットの死を動かしがたい事実として受け入れ、忘れかけていたポジティブな感情を徐々に取り戻していくプロセスです。事実の受け入れを「受容」、感情の取り戻しを「回復」と分けることもあります。
 ペットの死を思い起こすと当然悲しい気持ちになりますが、それは時間的にも、心理的にも、一頃よりはやや遠くに感じられるようになっており、悲しみで仕事や勉強が手に付かないということもなくなります。やがて生活の中で「楽しい」とか「うれしい」という感情を抱く機会がだんだんと増え、緩やかに再起に向かっていきます。

ペットロスが悪化する原因

悲しみから立ち直れず、自殺願望やうつ症状を併発した場合、病的なペットロス症候群と呼ばれるようになります  「悲しみの5段階」に代表される、ペット喪失後の心理プロセスは、始まってから終わるまでの期間に個人差があります。ある人は1ヶ月程度で前向きな感情を取り戻すことができる一方、1年たってもまだ落ち込んだ状態から抜け出せない人もいます。後者のように悲しみや苦悩が長引き「自分や他人、他人のペットの体を傷つける」「引きこもり状態が続く」「幻聴や幻覚がなくならない」「うつ」や「自殺願望」が引き起こされるまで悪化した状態がペットロス症候群です。ペットロスの正常な乗り切りプロセスが邪魔され、こうした病的な状態に陥ってしまう原因としては主に以下のようなものが挙げられます。 ペットロスと獣医療(チクサン出版社)

悲嘆する本人の性格

 飼い主の性格が一般的に「メランコリー親和型性格」とか「執着気質」と呼ばれるタイプに近い場合、ペットロスが長引いて辛い時期が続いてしまうことがあります。
 具体的には根が真面目で几帳面、責任感が強く熱中しやすい、行動が杓子定規で柔軟性に欠ける、他人に気を使いがちで言いたいことを言えない、何か問題が起こるとその責任は自分にあったと思い悩む、理想や目標が高くその実現のために自己を犠牲にするなどです。責任感から「ペットの死は自分のせいだ!」という後ろめたい気持ちを持ち続け、延々と悔やんでいるうちに回復が遅れてしまいます。

悲嘆する本人の経験

 「重大な喪失、死、悲しみを過去に経験していない」とか、逆に「過去に多数の喪失経験がある」ような場合、悲しみの大きさが個人の処理能力を超え、癒えるまでに時間がかかってしまうことがあります。
 例えば身近な人の喪失をほとんど経験したことがない若い人や、子供の頃に事故で複数の身内を一度に失った人などです。また「最近生じた他の喪失とペットの死とが重なってしまう」という不運が、ペットロスを不要に長引かせてしまうこともあります。例えば離婚、失恋、失業、事業の失敗などです。

本人を取り巻く環境の問題

 「友人や家族の支えが得られない」場合や、「友人や家族がいても、鈍感なコメントしか聞かれない」といった場合、ペットとの別れのほか親しい人からの疎外感や孤立感が加わるため、ペットロスが悪化してしまうことがあります。
 他人からの鈍感なコメントの例としては、「たかがペットじゃないか。元気出しなよ」とか、「新しいペットを飼えば良いんじゃない?」などが挙げられます。また家族の中においては、夫が妻に対して「いつまでもメソメソしているんじゃない。こっちまで暗くなるじゃないか」と言うケースなどが考えられます。軋轢(あつれき)を避けようと無理して平静を装っていると、悲しみのプロセスが邪魔されてペットロスを乗り越えるまでに時間がかかってしまいます。

死に対する罪の意識

 ペットの死が「早死・突然死・不審死・事故死」などの場合、飼い主は自分に責任があったことを痛感し、罪悪感からペットロスがこじれてしまうことがあります。
 事故死の例としては車にひかれる、エアコンが故障して熱中症で死亡する、うっかり開けていた浴槽に落ちて溺死する、ベランダから転落して死亡するなどがあります。多くのケースは予防が可能なため、残された飼い主は「自分のせいで犬が死んだ!」「実質的に犬を殺したのは自分だ!」と思い悩み、罪の意識や悔恨の念が長引きます。また「死に目にあえなかった・死後に遺体を見ていない」などの状況も、「死ぬ瞬間、寂しい思いをしていたのではないか?」「自分が犬(猫)を見捨てたことにならないか?」という良心の呵責の引き金になります。

ペットの死に方

 ペットの死に方が「長患い後の死」や「苦痛やトラウマを伴う死」という場合、ペットロスが長引いてしまうことがあります。
 例えば、がんを発症して寝たきり状態だった犬を看取るとか、毒物を誤飲してもう助からない犬を苦しみから解放するため、飼い主自らが安楽死を決断するなどです。ペットの健康問題は飼い主に責任があるため、「ペットに対して何もしてあげることができなかった…」「あの子にとって最善の選択肢だったのだろうか?」という後ろめたい気持ちが生まれ、後悔や自責の念が延々と尾を引きます。

過度の依存関係

 「ペットとの交流だけが生きがい」というような人にとって、ペットの死は体の一部をもぎ取られるような一大事であり、その結果ペットロスが長引いてしまう傾向にあります。
 例えば自分自身は病院に行かなくてもペットには十分すぎる医療を受けさせたり、自分の食費を削ってでもペットに良いものを食べさせるような溺愛関係です。2016年、アメリカのテキサス州に暮らしている女性(61)がペット犬の死に直面して「たこつぼ心筋症」を発症し、心臓が破裂するという出来事がありました。この人のような過度な依存関係にあると、心臓発作とは言わないまでも、ペットの喪失が心に大きなダメージを与えてしまいます。

悲しみを抑圧すること

 正常な悲しみを率直に表現することができなかったり、正常な悲嘆プロセスが抑えられたとき、ペットロスを乗り越えられず悲しみだけが延々と続いてしまうことがあります。
 これは子供よりも大人、女性よりも男性に生じやすいパターンです。理由は「大の大人が泣くなんてみっともない」とか、「男が泣くなんてだらしない」という社会的な偏見により、成人男性は無意識的に悲しみを抑圧するからです。また家族の言葉が抑圧の引き金になることもあります。例えば子供が親に対して「前みたいな明るいお母(父)さんに早く戻って」とプレッシャーをかけるなどです。逆に親が子供に対して「メソメソしていないで勉強でもしなさい!」と発破(はっぱ)をかけるパターンもあるでしょう。悲しみを押さえ込み無理して笑顔を作っていると、ペットロスが和らぐどころか逆に悪化してしまいます。

死のタイミング

 人生の重大な出来事と同時にペットの死が訪れた場合、ペットロスがこじれて苦しみが長引いてしまうことがあります。
 例えば誕生日、結婚記念日、出産日などです。「ペットを失った日に浮かれ気分でいた…」という自責の念が、後々になって罪悪感として心にダメージを与えていきます。また忙しさにかまけてペットの看取りをしっかりとできなかった場合も、「最後の最後で寂しい思いをさせた…」「よく考えたらペットを優先するべきだった…」という後悔の念につながり、正常な悲しみのプロセスが邪魔されて立ち直りが遅れてしまいます。

不適切な情報

 不正確な情報に基づくアドバイスなどが、ペットロスの克服を遅らせることがあります。
 例えば獣医の行った治療や処置を疑うようなメディアの情報や、霊感商法まがいのアドバイス(いつまでも悲しんでいるとペットが成仏できない)などです。より悪質なケースでは、遺骨を見たペット葬儀社が素人判断で死因を口にし、それを真に受けた飼い主が「別の病院に連れて行ってれば助かったのでは?」とか「もっと早く気づいていればまだ生きていたに違いない!」と後悔の念にさいなまれるというものがあります。こうした不適切なアドバイスが飼い主の罪悪感を不要に強め、ペットロスを乗り越えるタイミングを逸してしまうことがあります。

ペットロス症候群の対策と予防

 「うつ」や「自殺願望」を伴うペットロス症候群の危険因子がわかったら、今度は予防策や解決策を練ってみましょう。以下ではその一例をご紹介します。

不慮の死を予防する

 ペットの死が、寿命ではなく不慮の事故などによってもたらされた場合、飼い主は「リードを外さなければ…」「あの道路を選んでいなければ…」「あの時目を離してさえいなければ…」といった後悔と罪悪感に苦しめられることになります。
 それを防ぐためには、日頃からペットの安全に配慮した生活習慣を心がけておくことが必要です。犬をノーリードで散歩させない事はもちろんのこと、落下事故や感電事故にも巻き込まれないように注意します。また生活習慣に起因する病気が元でペットの死が早まってしまわないよう、食事に気を使うと同時に、日頃から犬の体や動作を観察し、病気の兆候をいち早く見つけてあげるようにします。具体的には以下のページが役に立つでしょう。 犬の怪我と事故 犬の症状一覧
事故予防の重要性  2015年、大阪堺市の女性がチワワを散歩中、ノーリードのシェパードに衝突されて死亡しました。裁判では「小柄なチワワが大柄のシェパードに突然ぶつかられたため、急激な興奮による心不全で死亡した」とし、シェパードの飼い主の管理が不十分だったして、慰謝料を含むおよそ22万円の支払いが命じられました。このようにノーリードは事故の加害者にも被害者にもなりえます。

不審死を予防する

 犬が死んだ原因がよくわからない場合、「ひょっとしたら自分に原因があるのではないか?」「違う病院に行くべきだったのでは?」「この医師はヤブ医者なのではないか?」という疑念と後悔がずっとつきまとい、飼い主を苦しめ続けます。
 犬の死亡原因がわからない時は思い切って死後解剖に回すという方法もあります。これは専門の病理学者に犬の遺体を調べてもらうことで、死因をはっきりさせるプロセスのことです。獣医師による誤診や医療ミスの可能性が除外されたり、「飼い主にできることは結局何もなかった」という事実が判明すれば、不要な思い悩みを防ぐこともできるでしょう。
犬の死後解剖  死後解剖のメリットは、専門性の高い医師によって死亡原因が特定されることです。逆にデメリットは犬の体にメスが入る事、および10万円程度の費用がかかることです。荼毘(だび)に臥(ふ)した後では絶対に出来ない事ですので、犬の死因に不審な点がある場合は死亡した直後に行うようにしましょう。

迷子や行方不明を予防する

 犬が迷子になったり何らかの理由で行方不明になると、「目を離した自分のせいだ!」「今もどこかで苦しんでいるのではないか?」「せめて生きているのか死んでいるのかだけでも知りたい!」という悔恨と自責の念が飼い主につきまとい苦しめ続けます。
 迷子を予防する方法は迷子犬の探し方・完全ガイドにまとめてありますので、そちらを参考にしてください。室内犬の場合は窓やドアの隙間から逃げ出すというパターンが大半です。外飼い犬の場合は、係留している鎖がちぎれたり首輪の金具が破損するというパターンが多く見られます。その他の失踪パターンとしては、庭からちょっと目を離した隙にいなくなった、ノーリードで散歩中に逃げ出した、コンビニの前につないでおいたら盗まれたなどがあります。あらかじめすべてのパターンを予習し、確実に逸走を防ぐようにしましょう。
ツァイガルニク効果  「ツァイガルニク効果」(Zeigarnik Effect)とは、達成できた事よりも達成できなかった事の方が記憶に残りやすいという心理現象のことです。例えば「行方が分からなくなった」という未解決な事項があると、何度も何度もそのことを頭の中で思い返し、次第に記憶が増強されます。もしそのたびごとに鬱々(うつうつ)とした気分にとらわれていると、「悲しい」とか「気が咎める」といった心理状態もまた同時に増強されてしまうのです。

過度の依存関係を改める

 ペットをわが子のように扱い「うちの子だけが生きがい!」という生活をしている人は、どうしてもペットロス症候群の危険度が高まります。
 予防するには、ペットとの過度な依存関係を改め、趣味や関心の幅を広げておくことが有効でしょう。ペット以外に趣味を持つことが難しい場合は、もう1頭別のペットを飼って、あらかじめ愛情を分散しておくなどの方法もあります。ペットの死後に別のペットを迎えることは裏切りに感じられるかもしれませんが、生前に迎えておけば悲しみを和らげてくれるパートナーになり、ペットロスを乗り越える手助けをしてくれるはずです。
依存関係がもたらす影響  2016年、アメリカのテキサス州に暮らしているジョアニー・シンプソンさん(61)は背中の激痛で目を覚ましました。病院で診察を受けた所、下(くだ)った診断は子供や配偶者を失った後によく発症する「たこつぼ心筋症」。彼女にとっての喪失体験は人ではなく、ペットとして溺愛していたヨークシャーテリア「ミーハ」の死でした。ペットロスが心と体の両方にダメージを与える典型例と言えるでしょう。

死の瞬間に立ち会う

 ペットの死に目に会えなかった場合やペットの遺体を見ることができなかった場合、「ペットをほったらかしにした…」「寂しかっただろうなぁ…」「なぜ他の用事を優先してしまったのだろう?」という後悔や罪悪感に苦しめられることがしばしばあります。
 これを予防するため、ペットの死の瞬間にはなるべく立ち会った方が良いかもしれません。例えば、入院によって病状が回復しないことがわかっている老犬は自宅に連れ帰るとか、何らかの理由で安楽死を余儀なくされた場合は自分自身も立ち会うなどです。またペットの死後はすぐ火葬に回すのではなく、冷却剤を敷いた安置ボックスに入れ、24時間程度の「お別れ会」を設けるというのも一案です。ペット葬儀社の中には、火葬に付す前のタイミングで喪主である飼い主に声をかけ、犬や猫の遺体を直接見たり触ったりするよう促してくれる所があります。これは死を現実のものとして受け止め、正常な悲嘆のプロセスを進行させて回復を早めるための配慮です。 犬の遺体の安置
看取る・見送ることの重要性  飼い猫のミトンが安楽死させられたとき、私はそこにいてやる勇気はありませんでした。(中略)それ以来、あの子を見たこともありませんし、その獣医師からも何の連絡もありません。もし今くらいの知識があったら、あんな風にミトンを死なせたりはしませんでした。あの子にしてみれば怖かったでしょうし、私に見捨てられたと思ったことでしょう。あの件に関しては、自分を一生許すことができません。 ペットロスと獣医療(チクサン出版社)
 ぼくは床の上にボブと横になって、そのからだを長いことなでていた。そしてボブがその美しいからだから離れていくときは彼をしっかり抱きしめた。ボブが何より望んでいたのは、自分はほんとうに最後の最後までぼくに愛されていたと感じられることだったろう。 ぼくのだいじなボブ(講談社)

思い切り泣く

 泣いて感情を放出することが、ペットロス症候群予防になります悲しみの感情を抑圧することが、時にペットロスをこじらせる原因になります。
 悲しいときに流す涙には、目にゴミが入ったときに流す涙より、タンパク質が20~24%多く含まれ、ホルモンや神経伝達物質も多く含まれていると言います。このように「泣く」という行為には、発汗などと同じ排泄プロセスとしての側面があるようです。「大人なんだから」とか「男なんだから」といったプライドを捨て、人目に付かないところで大声で泣くということは、ペットロス症候群の予防には必要でしょう。
涙と泣くことの重要性  アメリカのフレイが行った調査では、106人の男女のうち女性の85%、および男性の73%が「泣いた後、気分がよくなった」と回答したといいます。泣いた後は「感覚がハッキリして現実が見えてきた」とか「前よりも状況に対処しようという気になった」という女性もいたとも。また泣いたり強い感情をあらわにさせてくれる知人がいる未亡人は、泣いたり悲嘆の感情を話し合ったりするようすすめられなかった未亡人よりも健康であるという報告もあります。 ペットロスと獣医療(チクサン出版社)

ペットに手紙を書く

 漠然とした悲しみのスパイラルが、ペットロスを長引かせることがあります。これは主として「具体的に何が悲しいのかがわからない」という心理状態から生じるものです。
 ペットに対する感謝の気持ち、謝罪や反省、ペットとの楽しかった思い出などを手紙という形で言葉にしてみると、漠然としていた気持ちが整理され、それだけですっきりすることがあります。また「ペットはもう戻ってこない」という現実を受け入れる際にも効果的です。自分からペットに宛てた手紙を書き終えたら、今度は逆にペットから自分に向けた手紙を書いてみましょう。頭の片隅に眠っていたほんの小さな記憶が蘇り、謝ったり、泣いたり、笑顔になれたりできるかもしれません。
手紙供養の重要性  親密な微笑みと涙を思い出しながらペットに手紙を書きなさい。(中略)心の痛みが無くなることは、決してペットとの大切な思い出が薄れることではありません。ペットから自分への手紙も書きなさい。きっと今まで見えていなかった自分が見えてきて驚くことでしょう。 the loss of a pet(Howell Book House)

ルーチンを変える

 ペットとの暮らしを通していつのまにか固定されたルーチン(決まりきった行動パターン)が、時にペットロスを長引かせることがあります。例えば「スーパーに行ったらペット用品コーナーに行く」などです。
 こうしたルーチンを繰り返していると、ペットとの楽しかった思い出を想起して落ち込むことが癖になっていきます。予防策としては、日常生活における行動パターンを少しずつ変えることや、ペットとの思い出の品を、気持ちが落ち着くまでいったん見えない場所に隠しておくことなどが有効です。
引っ越しは時間を空けて  ペットとの別れがあまりにも辛いため、死別からすぐのタイミングで引っ越しをしてしまう人がいます。しかし動揺した状態で行うと物件選びで失敗してしまいますので、最低でも2ヶ月くらいは期間をおいたほうが良いでしょう。またペットの死を受け入れられず、愛用の毛布、食器、おもちゃなどを廃棄してしまう人もいます。多くの場合、後になってから激しく後悔しますので、少なくとも悲しみが癒えるまでは取っておくようにしましょう。

経験者との対話

 ペットを飼ったことがない人による心ない一言が、ペットロスの傷口をさらに広げてしまうことがあります。例えば「12歳?それだけ生きれば十分でしょ」とか「新しくスコ(猫の品種名)でも飼えば?今人気だし」などです。
 その点、自分と同じようにペットを失った経験がある人に悩みを相談することは有意義です。まず「悲しんでいるのは自分一人だけでは無い」「同じ経験をした人がいるんだ」という事実に気付くだけでも、ずいぶんと安心できます。またペットロス経験者は、ペットを失う悲しみについて身をもって知っているため、不用意な発言で当事者を傷つけることがあまりありません。ペットを失った人からなるフォーラムや集会、ペットロスの経験談を綴った書籍なども有効でしょう。ペットとも別れ、人間からも疎外されるという心理的に孤独な状況だけは防ぎたいものです。 日本ペットロス協会 Pet Lovers Meeting
語ることによる回復  20代の女性が小学生の頃から15年間飼ってきた老犬が倒れ、死ぬまでの1年半家族全員で介護をした。最も熱心に介護をしてきたのは女性で、犬は赤ん坊のように身を委ね、排泄を鳴き声で知らせてきたと言う。犬の死後半年、女性には体調不良と悲哀感を主としたうつ状態が続いていた。ときに涙を浮かべて老犬の思い出を語るカウンセリングを通し、女性は徐々に回復していった。グリーフケア(心身医 Vol.51 No.4 2011)

周囲の人の心がけ

 ペットを失った人を、周りにいる人間が期せずして傷つけてしまうという状況がよくあります。理由としては「ペットを飼ったことがないため当人の気持ちがよくわからない」ということもあるでしょうし、「今までに経験がないため気の利いたセリフがパッと思い浮かばない」ということもあるでしょう。正解と不正解が明確に定義されているわけではありませんが、一般的に以下のような言動は避けた方がよいと思われます。自分の周りにペットを失った人がいる場合、知っていて損はないはずです。

他人と比べる

 悲しみに打ちひしがれている人を、第三者と比較することは避けた方がよいでしょう。例えば「ペットを飼っている人なら全員が経験することだよ」とか「私だって悲しい」などです。ペットと当事者との結びつきは世界で唯一のものです。それを「その他大勢」と混ぜ合わせて一般化してしまうと、反感につながりやすくなります。逆にペットとの出会いや楽しかった思い出など、ペットと飼い主だけが持つ経験を話題にした方が、心のケアにつながります。

悲しみを紛らわそうとする

 悲しんでいる人を元気づけようと映画やアミューズメントパークに連れて行く事は避けた方がよいでしょう。まず「何かを楽しむ」という気持ちになっていませんし、また正常な悲嘆のプロセスを途中で邪魔してしまうことにもなります。逆に、生活のペースを落とし、ペットとの別れを悲しむ時間を作るよう勧めた方が、悲嘆からの回復が早くなります。

決まり文句で慰める

 「止まない雨は無いじゃない」とか「去る者は日々に疎しだよ」といった決まり文句で慰めることには、あまり効果が期待できません。決まり文句には「よくある状況で使う言葉」という意味がありますので、ペットの喪失に悲しんでいる人に対し「そんなこと、よくあることじゃないか」と言っているのと同じ意味になってしまいます。沈黙を埋めるために常套句を使うくらいなら、黙って相手の話を聞いてあげた方が効果的です。

檄(げき)を飛ばす

 「いつまでもメソメソしてるんじゃないよ」「そのうち慣れるよ」「暗い顔をしているとペットが天国に行けないよ」など、相手を元気付けたり檄を飛ばすような言葉は避けた方がよいでしょう。相手の感情を過小評価することは、間接的にペットの存在を軽視することにつながります。当事者の悲しみを軽減するどころか、神経を逆なでしてしまうのが関の山です。逆に「思い切り泣いた方がいいよ」など、感情を放出するよう促した方が適切でしょう。

虹の橋

 「ペットが虹の橋に旅立った」という表現をよく目にします。「虹の橋」(Rainbow Bridge)とは、作者不詳の散文詩で、飼っていたペットとその飼い主とが再びめぐり合う架空の場所のことです。詩が綴られた正確な時期はわかっていませんが、ペットロスに陥った動物愛好家の間で広まり、最初はアメリカで流布していたものが次第に世界中に広がって、日本でも知られるようになってきました。 飼い主とペットはやがて天国の入口である「虹の橋」で再会を果たす
虹の橋
天国には「虹の橋」と呼ばれる場所があります。
飼い主にこよなく愛されていた動物は全て、この虹の橋に集まります。
誰もが皆、走り回ったり遊んだり出来るよう、ここには草原や小高い丘があります。
食べ物も飲み水も豊富にあり、太陽が暖かく照り付けてとっても心地よい場所です。
病気や老いで弱っていた動物たちは、全て元の元気な体に戻ります。
傷ついたり体が不自由だった動物たちも、全て健康で活力に満ちた体を取り戻します。
それはちょうど、飼い主がペットが元気だった頃を懐かしむときの姿です。
動物たちは皆満ち足りており、何の不満もありません。
でも、たった一つだけ、気がかりなことがあります。
それは一緒に虹の橋に連れてくることの出来なかった、飼い主であるあなたのことです。
動物たちはみんな仲良く集まってはしゃぎ回りますが、
そのうちふと足を止めて遠くを見つめるときが来るでしょう。
やがて瞳がらんらんと輝き、体が震えだしたかと思うと、
突然仲間のもとから離れて緑の草原を駆け抜け、飛ぶように走りに走るのです。
そう、あなたを見つけたのです。
特別な感情で結ばれたあなたと友達は、とうとうこの場所で再会を果たし、
もう二度と別れることのない新たな出会いに胸を躍らせます。
友達はあなたの顔にキスの雨を降らせ、
あなたも懐かしい友達の体を撫でて長いこと見ることの無かったその瞳を見つめます。
片時も忘れることの無かったその瞳を。
そうしてあなたと友達は、共に虹の橋を渡るのです。 虹の橋~原文と日本語訳(別窓)
「虹の橋」の袂では飼い主の到着を待つ犬や猫が戯れている

ペットロスQ&A

 以下では「ペットロス」や「ペットロス症候群」についてよく聞かれる疑問や質問をご紹介します。

ペットロスはいつまで続くのか?

明白な基準や目安はありません。人によって数ヶ月~数年と大きな幅があります。

 「ペットロスとはすべての飼い主が経験する正常なモーニングプロセス(悲しみ体験)であり、いずれは時間が解決してくれる」とはよく聞く表現ですが、実はすべての人に当てはまるわけではありません。例えばコロラド州立大学が1年以内にペットを亡くした飼い主を対象として行った調査では、31.7%が抑うつ傾向にあったといいます(Stallones, 1994)。また東京と愛知にある動物火葬施設を利用したペットの遺族を対象とし、精神健康調査票による追跡調査が行われたことがあります(Kimura, 2015)。その結果、医療的な介入が必要なほど深刻なペットロスに陥っている人の割合が、死別直後で59.5%(22/37)、2ヶ月後で56.7%(17/30)、4ヶ月後で40.7%(11/27)に及んだといいます。 精神医学的な介入が必要と判断されたペット喪主の割合・経時変化  上記したように、ペットロスとかペットロス症候群という病名自体は存在していないものの、ペットとの別れが原因で病的な状態に陥ってしまう人は少なからずいるようです。
 では異常なペットロス症状で示したような状態がどのくらい続くと病的と判断されるのでしょうか?明確な国際基準はありませんが、その他の診断基準などを参考にすると「2~12ヶ月」とするのが妥当なようです。医学的な治療を希望する場合は精神科になりますが、抵抗がある人はまず専門のグリーフ・カウンセラーに相談してみるという選択肢もあります。
グリーフ・カウンセリング
 「グリーフ・カウンセリング」(Grief Counseling)とは、死別、離婚、ペットの喪失、大災害、失業などに伴う悲しみの感情を、なるべく早く昇華させるために発展した心理セラピーの一種です。人と人との対話を重視するスタイルを「グリーフ・カウンセリング」と呼ぶのに対し、医学的なアプローチも含めて患者と対峙するスタイルを「グリーフ・セラピー」と呼び分けることもあります。人との死別のみならず、大切なペットとの死別に際しても効果を発揮するという点において重要です。日本国内では「グリーフケア外来」を設けているところも少数ながらあります。 Grief Counseling

アニマルコミュニケーターとは?

テレパシーやオーラといった不思議な事象を通じて動物の考えていることを理解できると信じている人のことです。

 分類上は、霊や魂、神といった超自然的な存在との見えないつながりを信じる「スピリチュアリティ」に属すると言えます。似たような立場としては、インディアンの「シャーマン」、日本の「イタコ」などがあり、人によっては「スピリチュアルカウンセラー」と名乗っているかもしれません。死者の言葉を現世の人に伝えるという「口寄せ」には、時としてグリーフカウンセリングに匹敵するような効果があります。
 一方、不適格な人物が悪意を持ってこうした口寄せを行えば、クライアントの心を癒すどころか、逆に傷つけてしまうこともあります。例えば、少しでも悲しみを癒そうとして頼ったアニマルコミュニケーターが、以下のような発言をした場合は、もはやカウンセリングでも何でもなく単なる霊感商法です。
  • あなたにはペットの悪い霊が憑いている!
  • この○○を買えばペットが天国に行ける
  • ペットのたたりを祓うには○○が必要だ
 こうした霊感商法まがいの不適切なセッションは、「ペットロスをこじらせる原因」のうち、「悲嘆についての不正確な情報に基づくアドバイス」に相当するものであり、飼い主の罪の意識や悔恨の念をいたずらに増やしてしまうものです。ペットと死別して心が弱っているときは冷静な判断ができなくなることもありますので、十分気を付ける必要があるでしょう。

ペットを理由に休んでよい?

学校や仕事はできれば数日間お休みしたいものです。

 時間をかけてしっかり見送ってあげないと、ペットの死を現実のものとして受け止められなかったり、「ちゃんと見送ってあげなかった…」という後悔や罪悪感がずっと頭にこびりつくことになります。後から取り返しのつく勉強や仕事より、しばらく喪に服する事の方がはるかに大事です。
 では可愛がっていたペットが死んでしまった場合、人間の場合と同様「忌引」(きびき)を取れるのでしょうか?結論から言うと「理解のある会社はまだ多くない」となります。
忌引
 忌引(きびき)とは身内に不幸があった際、お通夜やお葬式などに参加するために取る数日間のお休みのことです。一般的な目安としては叔父や叔母など少し遠い親戚の場合は1日、兄弟姉妹や祖父母の場合は3日、両親や配偶者の場合は10日といったものがあります。
 10~50代の男女361名を対象として行われたインターネット簡易調査によると、ペットの死を理由に学校や会社(仕事)を休むことに対し、23.8%もの人が「ありえない」と回答しています。回答者がペット飼育者かどうかによって変わるとは思いますが、「ペットが死んだので学校(会社)を休みます!」と公言してしまうと、およそ4人に1人は心の中でしかめっ面をしているかもしれません。

「体調がすぐれない」で休む

 ペットロスに対する理解がない会社の場合、正直に「ペットとお別れするので休ませて下さい」とは言わないほうが良いかもしれません。先述したように同僚や上司の中には「ありえない!」と感じている人が少なからず含まれていますので、「たかがペットで…」とか「新しい犬(猫)を飼えばいいじゃん」とか心無い言葉を無神経に投げかけてくる可能性があります。
 いたずらに不快な思いをしますし、また悲嘆のプロセスにも邪魔が入りますので、必ずしも嘘ではない「体調がすぐれない」を理由にしたほうが賢明でしょう。また労働基準法上、有給休暇は理由を問わず休むことが出来ますので、残っている場合はそれを利用するという手もあります。
 子供が学校を休む場合、親族の忌引を馬鹿にする子はいないでしょうが、ペットが死んで学校を休むことを馬鹿にする残酷な子供はいるはずです。心が弱っているときに無駄なストレスを感じないよう、「具合が悪い」を理由にしたほうがよいでしょう。

ペット忌引がある会社

 近年はペットロスに対する理解も深まり、ペットの死を理由とする「ペット忌引」を公的に認めている会社も少しずつ増えてきました。こうした会社に勤めている場合、「ペットを見送りたいのでお休み下さい」と比較的言いやすくなります。例えば以下のような企業です。
ペット忌引の導入事例
  • Amazonジャパンペットの病気などの看護のために1年に5日休暇が取れる「パーソナル休暇」の制度を導入しています。
  • 日本ヒルズ・コルゲートペット忌引き休暇」という制度が2005年から導入されており、社員の飼っているペットが死んだ場合、休暇が1日与えられることになっています。
  • アイデックスラボラトリーズ2011年から「社員ペット慶弔規程」が導入されており、犬か猫を飼っている社員が事前に登録しておくと、ペット死亡時に弔慰金が支給されると同時に、忌引休暇の取得が認められます。
  • アイペット損害保険2016年から、同居している犬もしくは猫が死亡した場合、「死亡診断書」や「火葬証明書」を提出すると1頭につき3日間の休暇を取得できるというシステムを導入しています。
  • ユニ・チャーム2017年から、自宅で飼育していたペット(犬・猫)が死亡した際、特別休暇1日が取得できるペットの忌引休暇制度を導入しています。
 こうしたペット忌引は、「ズル休みする人が出てくる」とか「ペットを飼っていない人に不公平」といった問題があるため、すべての企業が明日からすぐに導入できるタイプのものではありません。しかし採用する企業が増えてくれば、ペットロスがもたらす生産性の低下にもスポットライトが当たっていくでしょう。

天国は存在するのか?

宗教的な問いに答えはありませんが、臨死体験の事例なら世界中に山ほどあります。

 ペットと死別して現世に残された人間は「うちの子は無事虹の橋にたどりつけたのだろうか?」「お浄土で再会できるのだろうか?」といった想像をして悶々と苦しむことがあります。
 こうした確かめようのない不安を和らげる際は、臨死体験をした人の話を聞いておくのが効果的かもしれません。「臨死体験」(りんしたいけん, near death experience)とは、何らかの理由によって一端死にかけたけれども、運良く一命をとりとめて生き返ったという珍しい経験のことです。この分野に関しては非常に多くの書籍が出されており、おすすめできないものもたくさんありますが、アカデミックなアプローチをしている立花隆氏の「臨死体験」(文春文庫, 上下巻)が最も安心して読めると思います。内容を簡潔に表すと「生きている人間の想像とは裏腹に、驚くほど多くの人が臨死体験を心地よいものとして体感している」といった感じになります。
 この世からあの世へ行く際、一体どのような体験をするのかは生きている人間にはわかりません。しかしあらかじめ想像しておけば、「うちのペットは暗闇の中を泣きながらさまよっているのではないか?」といったモヤモヤした不安感が少しは和らいでくれるはずです。

ペットをクローンで生き返らせたい

技術的には不可能ではありませんが、全く同じペットとして蘇るわけではありません。

 遺伝子工学の発達により、ペットのDNAを生前に採取しておけば、クローン技術によって同じDNAを有した個体を生み出すことが可能になりました。例えば2018年にはアメリカの女優バーブラ・ストライサンドが、死んだペット犬「サマンサ」のクローンを5万ドルで購入しています。
 こうしたクローン犬は見た目が瓜二つであることから、あたかもペットが生き返ったかのような錯覚に陥り、人によってはペットロスの軽減につながるかもしれません。しかしこれができるのはごく一部の裕福な人だけです。
 代わりの方法としてはペットを剥製にするというものがありますが、ペットの体に手を加えるというプロセスに対しては多くの飼い主が抵抗を感じるでしょう。より身近で安価な例としては、ペットをモデルとしたぬいぐるみを制作するというサービスがあります。「犬 オーダーメイド ぬいぐるみ」などで検索をかけると見つかるはずです。
 手元供養の方法としては他に、「お骨の1部をペンダントに入れて持ち歩く」とか「お骨の1部をプランターに入れて植物を育てる」とか「写真を飾る」といったものがあります。必ずしもお金が必要なわけではありませんので、自分の性格やライフスタイルに合ったものを選ぶのが良いでしょう。
ペットロス症候群の目安は「2ヶ月」です。別離から2ヶ月たっても異常なペットロス症状が続いており、「引きこもり状態が続く」「幻聴や幻覚がなくならない」「生きている意味が見いだせない」という場合、グリーフカウンセリングを受けることもご検討下さい。