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犬のしつけにおける拮抗条件付けのエビデンスはあるのか?~実例集から訓練への応用方法まで

 犬のしつけでは拮抗(反対)条件付けというテクニックが多用されますが、そもそも強固なエビデンスはあるのでしょうか?それとも実験室レベルのデータを無条件で転用しているだけなのでしょうか?

拮抗条件付けのエビデンス

 調査を行ったのはオーストラリアにあるラ・トローブ大学のチーム。5つの論文データベースを参照し、1980年1月以降に公開された「拮抗条件付け」がテーマの報告に焦点を絞ったシステマティック・レビューを行いました。
拮抗条件付け
拮抗条件付け(counterconditioning, 反対条件付けとも)とは、動物にある一定の情動を抱かせるトリガーを、それとは反対の感情価を喚起するトリガーに変化させる過程のこと。例えば雷の音に対して「怖い」というネガティブな感情価を抱く犬がいた場合、雷の音を聞いたら逆にポジティブな感情(うれしい・楽しい・わくわくするなど)を抱くよう訓練し直すなど。

調査対象

 調査対象を選別する際の条件となったのは「英語」「専門家による査読済み」「意図的に形成したものではなく自然発生的な問題行動」「介入方法に関する詳細な記述がある」などで、最終的に専門誌に掲載された記事12報、および修士号レベル以上の論文2報が解析に回されました。

調査結果

 解析の結果、介入群と対照群を別々に設けたランダム化研究が6報、介入群と対照群が同一の準実験的研究が3報、少数個体のデータをもとに変数間の因果関係の検討を行うシングルケースデザインが6報という内訳でした。これらはすべて2008年から22年の調査報告で、国別ではアメリカ8報、ニュージーランド2報、カナダ2報、イタリア1報、オーストリア1報でした。
 規定の指標に沿ってエビデンスグレードを評価し、拮抗条件付けの効果を検証したところ、とりわけ攻撃性や犬舎内での問題行動に有効性が認められた一方、分離不安に関連した問題行動に関してはクリアな効果が認められなかったといいます。
Counterconditioning-based interventions for companion dog behavioural modification: A systematic review
Joanna Shnookal, Deanna Tepper, Tiffani Howell, Pauleen Bennett, Applied Animal Behaviour Science Volume 276, July 2024, DOI:10.1016/j.applanim.2024.106305

拮抗条件付けを応用する

 当調査で解析対象となった14報では、具体的に以下のような拮抗条件付けが行われました。

拮抗条件付けの実例集

留守番時の問題行動
✅人が退室時に犬の行動不問で強化
✅系統的脱感作(独り待機時間を徐々に伸ばす)+退室時に犬の行動不問で強化+帰宅時に強化(不適切行動がなかった場合のみという条件付き)+環境操作
✅飼い主の帰宅を報酬とし、問題行動を見せなかった場合に分化強化 or 訓練済みの代替行動をとった場合に代替強化
犬への攻撃性
✅攻撃の前駆動作(犬の方を見るなど)を強化
✅犬がいる状況でアイコンタクト+おすわりができたら強化
犬舎での問題行動
✅吠えている限り無視し、吠えずにアイコンタクト、犬舎前でお座りや伏せができたら強化
✅人が接近したら犬の行動は不問で強化
来客時の問題行動
✅人が来訪時、ベッドへ行き落ち着いたら強化
✅ドアが開いた後、ドアベルが鳴ったり犬が訪問客を見た瞬間に強化
病院恐怖
✅週1回の病院訪問時に強化+家庭内でハンドリング訓練
✅病院でハンドリング中、事前訓練の「ターゲットの上に立つ」を保持できたら強化
飼い主への噛み癖
✅おもちゃを拾って飼い主の脇に座ったら強化
✅飼い主の指示でおすわりか伏せができたら強化
騒音恐怖
✅雷や嵐などの音を再生して落ち着いていられたら強化(週2回のペースで9週で18回)

拮抗条件付けの効果

 上記した拮抗条件付けの手法をまとめると、古典的条件付けを利用したものとオペラント条件付けを利用したものとに大別されます。
2つの拮抗条件付け
  • 古典型情動を喚起する五感刺激を条件付けの対象とする
  • オペラント型問題行動をみせない状態を強化する(分化強化)/望ましい行動を強化する(代替強化)/事前に訓練した行動を強化する(代替強化)
 「古典型」では情動を喚起する五感刺激を条件付けの対象とします。一方、「オペラント型」では両立しない行動や意識をそらす行動を強化することで結果的に問題行動を打ち消します。どちらの型でも効果に差はあれ悪化した例は一つもありませんでした。
 これまでは実験室データを無条件で犬にまで拡大解釈して拮抗条件付けが語られてきましたが、今回のシステマチックレビューにより少なくとも問題行動の軽減にはつながる可能性が高いことが明らかになりました。
実例集を見て似た状況がある場合は応用してみましょう。ご褒美を与える(=行動を強化する)タイミングにはご注意ください。犬のしつけの基本理論