犬からのレプトスピラ感染例
レプトスピラ症はスピロヘータの一種「レプトスピラ(Leptospira)」による感染症。汚染された水や土壌に含まれる菌が裂傷や粘膜を通じて感染します。また哺乳動物の腎臓内に潜伏し尿を通じて外界に排出されることから、保菌動物の尿からも感染します。主な保菌動物はげっ歯類ですが、犬を含めその他の動物も病巣になりえます。
この度、愛媛県立中央病院・救急科のチームが犬を感染源とする飼い主のレプトスピラ症を報告しました。以下はその概要です。
50代女性が7日間に渡る発熱と下痢を主訴として愛媛県立中央病院の救急外来を受診した。検査では低血圧(70/50?mm Hg)、頻脈(120 bpm)、高熱(39.2°C)、筋肉の圧痛、下肢の点状出血、白血球増多(17,810/μL)、貧血(ヘモグロビン92g/L)、血小板減少(40,000/μL)、肝機能障害、低アルブミン血症、腎機能低下、C反応性タンパク高値、亜鉛欠乏症、チアミン欠乏症などが認められた。
CTスキャン検査では両側性の肺胞出血、エックス線検査では両側性のすりガラス様病変が認められたが呼吸器系の感染症検査は軒並み陰性を示した。
生活習慣や環境に関する詳細な聞き取りを行ったところ、来院の1ヶ月ほど前、飼い犬が同じような症状(発熱・下痢・嘔吐)で動物病院を受診していたことが判明。特殊な防護をせず犬の嘔吐物や尿の処理をしていたことが明らかになった。また家業は農家だったが水田や貯蔵庫に足を運ぶことはなく、築40年の家屋では今までネズミの糞は見られなかったという。
尿(PCR)及び血清(抗体価)検査を通じてレプトスピラの痕跡が検出されたこと、飼い犬以外の動物との接触が皆無だったこと、近くに温床となりうる水田があったことなどから総合的に判断し、レプトスピラを保有した主人(患者の旦那)の靴裏からまず犬に感染し、その後犬の尿を経由して患者に感染したものと推測された。
レプトスピラ症の確定診断後はノルエピネフリンとセフトリアキソンが投与され、24時間後には発熱や筋圧痛が改善。1週間に渡る抗生剤の投与と亜鉛欠乏に対する対症療法を経て、入院から18日目に退院を果たした。
Leptospirosis transmitted from a pet dog
Nakashiro H, Umakoshi K, Tanaka K, et alLeptospirosis transmitted from a pet dogBMJ Case Reports CP 2024;17:e261369
Nakashiro H, Umakoshi K, Tanaka K, et alLeptospirosis transmitted from a pet dogBMJ Case Reports CP 2024;17:e261369
悪条件の重なりに注意
レプトスピラ症は先進国である日本ではペット動物の病気というイメージがありますが、生活環境や飼い主の免疫力など悪条件が重なると人にも発症する怖い病気です。
田舎の風土病ではない
レプトスピラ症は基本的に郊外や熱帯地域に多い感染症であることから都市部では看過されがちで、そもそも鑑別診断のリストにすら挙がらないこともしばしばです。
当症例でも犬が最初に受診した動物病院ではレプトスピラ症が見過ごされました。飼い主の発症後に動物病院と連携し、犬の血清検査を改めて行ったところ「L. interrogans serovar Pyrogenes(血清型ピロゲネス)」および「L. interrogans serovar Canicola(血清型カニコーラ)」に対する高い抗体価が認められたことから当症の診断が下されました。
調査チームは仮に流行地域でなくても患者に対する聞き取りを行い、感染のリスクファクターが認められる場合はレプトスピラ症を考慮する必要があると言及しています。
当症例でも犬が最初に受診した動物病院ではレプトスピラ症が見過ごされました。飼い主の発症後に動物病院と連携し、犬の血清検査を改めて行ったところ「L. interrogans serovar Pyrogenes(血清型ピロゲネス)」および「L. interrogans serovar Canicola(血清型カニコーラ)」に対する高い抗体価が認められたことから当症の診断が下されました。
調査チームは仮に流行地域でなくても患者に対する聞き取りを行い、感染のリスクファクターが認められる場合はレプトスピラ症を考慮する必要があると言及しています。
免疫力低下で重症化
レプトスピラ症は軽症~中等度では症状も軽いままですが、およそ10%では重症例である「ワイル病」に移行し、肝機能障害(黄疸)、腎不全、出血などを通じて命を落とす危険もあります。
今回の症例患者では亜鉛欠乏が認められたことから、ミネラル不足による免疫力の低下が発症の一因になったものと推測されます。
レプトスピラ症は世界的に見ると年間100万ほどの症例があり、死者は58,900程度、平均致死率は6.85%と推定されています。新型コロナの致死率が1%に満たないことと比較すると、ひとたび発症するとかなり危険な感染症であることがわかります。
今回の症例患者では亜鉛欠乏が認められたことから、ミネラル不足による免疫力の低下が発症の一因になったものと推測されます。
レプトスピラ症は世界的に見ると年間100万ほどの症例があり、死者は58,900程度、平均致死率は6.85%と推定されています。新型コロナの致死率が1%に満たないことと比較すると、ひとたび発症するとかなり危険な感染症であることがわかります。
感染経路に要注意
レプトスピラの主な感染経路は水関連のリクリエーション(海水浴・川遊び・急流下り etc)、衛生レベルの低い発展途上国への渡航、自然災害、農業、と畜業、獣医療など、水や保菌動物と接する機会がある状況全般です。
今回の症例では「水田」が第一感染源、「犬」が第二感染源となって飼い主に感染しました。世界的に見ても犬から人への感染例は数えるほどありませんが、犬のワクチン未接種と飼い主の免疫力低下が折り悪く重なり合うと、今例のようにレプトスピラ症を発症してしまう可能性を否定できません。
国内では大阪でも集団発生の先例がありますので、「水あるところにレプトスピラあり」くらいの危機意識を持っていても損にはならないでしょう。
今回の症例では「水田」が第一感染源、「犬」が第二感染源となって飼い主に感染しました。世界的に見ても犬から人への感染例は数えるほどありませんが、犬のワクチン未接種と飼い主の免疫力低下が折り悪く重なり合うと、今例のようにレプトスピラ症を発症してしまう可能性を否定できません。
国内では大阪でも集団発生の先例がありますので、「水あるところにレプトスピラあり」くらいの危機意識を持っていても損にはならないでしょう。