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犬の頚部膿瘍~症状・原因から治療・予防法まで

 頚部への刺し傷や噛み傷を原因として発症する頚部膿瘍。多くの症例ではドレナージだけで治癒しますが、気道を圧迫している場合は早急な治療が必要です。

犬の頚部膿瘍疫学

 犬の頚部膿瘍(cervical abscess)とは首の周辺に膿がたまり、大きく腫れ上がった状態のこと。 犬の頚部に発症した膿瘍  今回の疫学調査を行ったのはアメリカマサチューセッツ州にある二次診療施設Massachusetts Veterinary Referral Hospitalのチーム。院内に蓄積された医療記録を2018年11月~2021年11月までの3年間に限定し、「頚部/首/腫脹/膿瘍」というキーワードで症例の絞り込みを行いました。

調査対象

 データ絞り込みの結果、82頭(去勢オス40頭+未去勢オス7頭+避妊メス31頭+未避妊メス4頭)が「頚部膿瘍」の診断を受けていることが明らかになりました。
 体重中央値は24.8kg(4.9~60.2kg)、年齢中央値は5.9歳(0.4~12.9歳)、非純血種34頭という内訳で、純血種にはラブラドールレトリバー(12頭)、ジャーマンシェパード(5頭)、ゴールデンレトリバー(5頭)などの大型犬が多く含まれていました。

症状

 頚部膿瘍患犬たちの主症状は以下です(複数回答あり)。症状の発現から7日未満の急性が46例に対し、7日以上の慢性が36例でした。また症例は下半期に集中しており、ピークは8~9月でした。
頚部膿瘍の症状
犬の頸部膿瘍に伴う主症状一覧
  • 頚部腫脹=97.5%
  • 発熱=59.8%
  • 食欲不振=39.0%
  • 元気喪失=35.3%
  • 上部気道症状=24.4%
  • 流涎症=14.6%
  • 嚥下困難=12.2%
  • 呼吸困難=6.0%

原因

 発症原因はスティック外傷が27頭、頚部咬傷が2頭、残りの53頭は不明という内訳でした。病変部から異物が回収されたのは5頭にとどまり、草、ノギ、木片、毛髪の存在が確認されました。ちなみに同じ症状を過去に発症したものの抗菌剤で軽快した既往のある患犬は9頭でした。
 原因菌特定のため80頭で培養が行われ、好気性菌が52.6%(レンサ球菌 | パスツレラ菌 | 大腸菌 | 黄色ブドウ球菌)、嫌気性菌が29.8%(バクテロイデス | アクチノミセス | フソバクテリウム)、残りの17.5%は混合という内訳になりました。なお少なくとも1つの抗菌剤に抵抗を有していた割合は12.1%でした。

治療・予後

 治療法は2頭が切開、80頭がドレナージ療法という内訳でした。術中~術後の合併症(患部離開/腫脹/膿排出/切開部の皮膚炎)は9頭で確認され、5頭では再手術を要するレベルでした。
 症状の再発は6頭で確認され中央値は47日。55頭を302~1,387日に渡って追跡調査した結果、上記以外の再発例は認められませんでした。
Outcomes of surgical treatment with patterns of bacterial culture and antimicrobial susceptibility testing in cases of cervical abscessation in dogs: 82 cases (2018?2021)
Alexandra Walker, Nicole Amato, Jennifer Brisson, Samuel Stewart, BMC Res Notes. 2023; 16: 76, DOI:10.1186/s13104-023-06332-z

犬の頚部膿瘍への対処法

 呼吸困難を主訴として受診した5頭のうち1頭は緊急の挿管を必要とするレベルでした。巨大化した膿瘍が喉頭や気管を圧迫しているような場合は命を脅かす危険性があるため早急な治療が必要です。

治療はドレナージが優先

 「膿を切開する」という表現があるように、膿瘍はメスで切り開いて中の膿を排出しなければならないという思い込みがあります。しかし今回の調査では80頭(97.6%)までもが穿刺、洗浄、ドレナージ、抗菌剤の投与だけで治癒しました。
 切開術に比べて麻酔時間が短く、侵襲性(体への負担)が小さく、費用も低く抑えられることから、治療の第一選択肢はドレナージ療法が適切であると調査班は推奨しています。

抗菌剤投与は培養してから

 培養の結果、多くの細菌は常在菌であることが判明しました。医師が自身の経験則を元にして取り急ぎ行う経験的治療では広域スペクトルの抗菌剤が投与されることもありますが、耐性菌の出現を防ぐという観点からも、培養を行って病原体を特定した上で抗菌薬を選定しなおすことが望ましいと調査班は推奨しています。

頚部の刺し傷に注意

 発症原因が判明したのはわずか35%で、スティック外傷が27頭、頚部咬傷が2頭という内訳でした。残りの53頭は原因不明でしたが、いくつかの症例では膿瘍と口腔咽頭の間、もしくは膿瘍と食道の間に炎症性の組織やサイナストラクト(膿の排出口)が認められたことから、何らかの刺し傷が原因になったのではないかと推測されています。 枝をくわえた大型犬ではスティック外傷を追うリスクが高い  8~9月をピークとした季節性が見られた理由も、居住地域が北東部に多く、冬季の活動が制限されて刺傷因子(スティック | 小枝 | 草 | ノギ etc)との接点が減ったことが原因と考えられています。スティックの危険性については別の調査でも報告されていますので、改めてチェックしておきましょう。 木の枝や棒を使って犬と遊ぶのは危険!飼い主が知っておくべきスティック外傷の注意点
ヘビに噛まれてパンパンになった顔を、SNSで笑い者にしている人をよく見かけます。症状によっては命に関わるのにどういう神経なんですかね…。