犬のスティック外傷・調査詳細
調査を行ったのはオランダ・ユトレヒト大学獣医学部のチーム。2011年~2015年の期間、大学附属のコンパニオンアニマル医療科学科を受診した犬のうち、「スティック外傷」と診断された犬83頭を対象とし、回復率や死亡率に影響を及ぼす因子が何であるかを検証しました。患犬たちの具体的な内訳は以下です。なおスティック外傷とは棒状のものが口の中、喉頭(のど)、咽頭、食道、胸部(肺)などに突き刺さり、組織が損傷された状態のことを指します。
Department of Clinical Sciences of Companion Animals, Janna Idsardi et al. 2019
スティック外傷患犬の区分
- 急性外傷発生から受診までのタイムラグが24時間以内=28頭
- 亜急性外傷発生から受診までのタイムラグが24~72時間=37頭
- 慢性外傷発生から受診までのタイムラグが72時間超=18頭
スティック外傷患犬の特徴
- 頚部外傷患犬(全体の61%)よりも胸部外傷患犬(14%)の回復率が低かった
- 急性+亜急性患犬の回復率は52%
- 慢性患犬の回復率は61%
- 3つのグループ間で回復率に格差は見られなかった
- 急性+亜急性患犬の死亡率は14%
- 慢性期患犬の死亡率は17%
- 3つのグループ間で死亡率に格差は見られなかった
- 頚部の外科的な探査を行わなかった犬のうち合併症を患ったのは3%
- 頚部の外科的な探査を行った犬のうち合併症を患ったのは38%
犬のスティック外傷・多い犬種
犬のスティック外傷・急性期症状
犬のスティック外傷・慢性期症状
Stick trauma in dogsDepartment of Clinical Sciences of Companion Animals, Janna Idsardi et al. 2019
犬のスティック外傷・解説
調査チームが得た知見の中には、従来の常識とは異なるものがいくつか含まれていました。具体的には以下です。
スティック外傷の新たな発見
- 治療開始のタイミング受傷から時間が経てばたつほど治療が難しくなるため、なるべく早く医療的な介入を行うのが望ましいとされてきました。しかしデータ上は回復率に統計的な格差は見られませんでした。調査チームは適切な鎮痛管理をした上で24時間程度の猶予を持てるのではないかとしています。
- 検査によるトラウマ検査を兼ねて頚部の外科的な切開を行った犬においては高い合併症の発症率が確認されました。侵襲性の高い検査自体がトラウマとなっていることがうかがえます。調査チームは、生活に支障がない軽症例においては、わざわざ首元を傷つけて傷を悪化させるような検査はしないほうが良いと推奨しています。
- 慢性期患犬の治癒率慢性期患犬の回復率や生存率と急性や亜急性患犬のそれとの間に格差は見られませんでした。一般的に慢性期患犬の治療は難しく、治癒率も低いと考えられているものの、実際はむしろ簡単で、急性期患犬と遜色のない治療効果が得られることが判明しました。
- 食道外傷ケースの扱い食道に外傷を負った症例は全体の17%で、そのうち6割までもが安楽死となりました。一方、安楽死を免れた犬のうち60%は生存、40%は完全回復に至っています。他の報告でも生存率が64%~83%とされていることから、食道にまで傷が達していても回復する可能性は十分にあるため安易に安楽死を選ばないほうが良いと忠告しています。
中~大型犬はスピードと質量が小型犬よりも格段に大きいため、よくない角度で棒と接触すると、運動エネルギーによって首や胸部に刺さることがあります。重要臓器を貫通すると命の危険すらありますので要注意です。【イギリス】
— 子犬のへや (@koinuno_heya) 2018年5月15日
道端に落ちていた棒きれで遊んでいる最中、ふとしたはずみでのどの奥に刺さってしまった犬の「ウィロー」~神経と血管が無傷だったため奇跡的に一命を取り留める。同様の事故による年間受傷件数は推定6万超。#犬 #犬健康
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