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大人が子供とペット犬に見せるあやし顔は同じ

 大人が幼児に対して見せる「あやし顔」には定型的なパターンがあります。犬と接しているときの様子を観察したところ、人間の幼児に対して見せるのとほとんど同じ顔を見せていることが明らかになりました。

幼児と犬に対するあやし顔

 幼児と面と向かった時に大人が見せる表情には定型的なパターンがあり、たとえ国や文化が違っても驚くほど共通する部分が多いことが確認されています。ペット犬を子供と同等視している人はたくさんいますが、犬に対して見せる表情と子供に対して見せるそれは、一体どの程度重なるのでしょうか。

調査方法

  調査を行ったのはハンガリーにある自然科学研究所のチーム。1~18ヶ月齢の子供がおり、なおかつ1歳超の犬を飼育している家庭をボランティアベースで募り、最終的に22の家庭から42名の参加者を集めることができました。大人の内訳は女性22名+男性20名、年齢は18~45歳で、子供の平均月齢は10.1ヶ月、犬の平均年齢は4.9歳です。
 あらかじめ3つの状況を決めておき、それぞれの中で自然発生する大人たちの表情を録画した上で、タイプと変化の度合いを評価していきました。下記「対象パートナー」には自分の子供、ペット犬、実験者(女性)が含まれます。
観察状況
  • 注意喚起対象パートナーを呼び、「赤(piros)」「ボール(labda)」「転がる(gurul)」という単語をなるべく多く発しながら小さな赤いボールに注意を向ける。
  • 課題解決小さな赤いボールを手の中に隠し、それを見つけるよう対象パートナーに促す。「赤(piros)」「ボール(labda)」「転がる(gurul)」という単語をなるべく多く発してもらう。
  • 童謡8種類の童謡の中から自分が知っている2つを選び、対象パートナーに語り聞かせる。
 1つの状況につき30~40秒の録画を行い、最終的に378本の表情サンプルを得ることができました。

調査結果

 上記方法で得られた表情サンプルをタイプと度合いという観点で評価していったところ、いくつかの興味深い事実が判明したといいます。以下は犬と関連している部分の抜粋です。
✅大人が見せる表情の65.2%は既に知られている以下3タイプに大別できる。
  • 驚いたふり眉毛を上げる/口を大きく引っ張る/「Oooo」などの発声を伴う親が子供に見せるあやし顔(韻律顔)~驚いたふり
  • 魚顔唇をすぼめる/眉を上げる/軽く微笑む親が子供に見せるあやし顔(韻律顔)~魚顔
  • スペシャルハッピー口角を大きく引き上げる/頬を持ち上げる/口がやや開く親が子供に見せるあやし顔(韻律顔)~スペシャルハッピー
✅既知3タイプにかっちりはまらないものに関しては、以下の3タイプを新設するときれいに分類される。
  • 驚いたふり(眉)驚いたふりの顔から口の変化を除いたもの親が子供に見せるあやし顔(韻律顔)~驚いたふり(眉)
  • 驚いたふり(口)驚いたふりの顔から眉の変化を除いたもの親が子供に見せるあやし顔(韻律顔)~驚いたふり(口)
  • 驚いたふり+スペシャルハッピー眉を上げた状態でのスペシャルハッピー親が子供に見せるあやし顔(韻律顔)~驚いたふり+スペシャルハッピー
✅大人は幼児と犬に対して同じあやし顔を見せる
✅顔の変化の度合いに関しては犬よりも幼児と対峙したときの方が大きい
✅課題解決のように対象パートナーをほめる状況においてスペシャルハッピーが出現しやすい
Six facial prosodic expressions caregivers similarly display to infants and dogs
Anna Gergely, Edua Koos-Hutas, et al., Scientific Report (2023), DOI:10.1038/s41598-022-26981-7

「犬は我が子」は真実

 飼い主はペット犬に対し幼児に対して見せるのと同じあやし顔を見せることが明らかになりました。ペット犬を家族に一員として捉え、自分の子供と同等視している飼い主が多いことから考えると、予想通りの結果とも言えます。

表情の変化は子供>犬

 表情の変化を「アクション・ユニット(AU)」と呼ばれる指標で分類し、その度合いを評価していったところ、10/25において幼児>犬という勾配が見られ、特にスペシャルハッピーではすべてのAUが犬を上回っていたといいます。
 推測の域を出ませんが、幼児の月齢が平均10ヶ月ほどだったのに対し犬の年齢がすべて1歳を超えていた(平均4.9歳)ことから考えると、未熟度が高い幼児と対峙しているときの方があやし顔が自然と出やすかったのかもしれません。あるいは調査チームが「韻律顔(prosodic face)」と総称しているあやし顔には言語の習得を促すという側面がありますので、自分の子供に対する方が教育面でのモチベーションが高まり、連動して表情の大きな変化につながった可能性もあります。

ほめる幸せ

 自由発話を許可されていた課題解決の状況において「スペシャルハッピー」が多く観察されました。この表情には作り笑いと明白に違う心の底からの笑顔である「デュシェンヌ・スマイル」が含まれていますので、そもそも発話者自身が楽しんでいるということを意味しています。
 一方、犬は人間の笑顔を見分けたり高いピッチの声に敏感に反応できることが先行調査で示されています。 犬は声と表情の両方から人間の感情を読み取る 犬の認知能力を確認するために行われたクロスモーダルテストの模式図  こうした事実を考え合わせると、特定の目標行動に成功したとき「スペシャルハッピー」な表情でほめてあげると、飼い主も犬も幸せになれるのではないでしょうか。それで犬のパフォーマンスも向上するなら言うことなしですね。

ノンバーバルは重要

 口語的には「あやし顔」、専門的には「韻律顔」と称される表情群には、話者の感情を伝える、感情的な融和(調律)を支える、ポジティブな交流を促進する、交流者間の結び付きを強めるといった効果が想定されています。
 実際、人間の幼児を対象とした調査では、産後うつの母を持つ子供は後の人生において精神疾患を発症しやすいとか、誇張や明白さに欠ける韻律(言語の中で話者の感情や文脈による影響を受けて変化する要素)の中で育った子供は4ヶ月齢時における協調タスクの成績が悪いなど、韻律顔が少なからぬ影響を及ぼす事例が報告されています。
 人間における知見を無条件で転用はできませんが、犬にも人の笑顔を見分ける能力がある点から考えると、飼い主の発する韻律がポジティブにもネガティブにもなりうる可能性があることは考慮しておいたほうが良いでしょう。この知識は犬をほめる状況において特に重要になります。 犬のしつけの基本理論