ノミダニ薬の利用効率は不完全
犬をノミやダニから守るため各種の薬剤(忌避・駆虫)が用いられますが、生体内での利用効率は100%というわけではなく、何割かは犬の体を離れてしまいます。調査を行ったのはオランダにあるヴァーヘニンゲン環境リサーチのチーム。屋外環境に放出されるルートを検証するため、いくつかの実験を行いました。
調査対象
調査に参加したのはヴァーヘニンゲン大学の環境科学グループに属する人々。調査票は350人に配布されましたが、最終的な回答率は8%(27人)とかなり少なく、また回答者の中には犬を飼っていない人も含まれていました。統計的な計算ができなかったため、調査チームは検証結果があくまでも後続調査のための仮説段階に過ぎないことを強調しています。
調査方法
成分含有量を明らかにするため、犬の尿、被毛、犬が浸かった水が解析に回されました。
犬の尿サンプルは6頭から、被毛サンプルは9頭から採取され、使用歴のあるノミダニ薬も合わせて調査されました。なお被毛の採取の方法は標準化されておらず、ブラシに自然に付着した毛や、しっぽもしくは胸部からハサミでカットした毛が採用されています。
水を介した薬剤の放出ルートを検証するため、地下水(2.6立法m)を溜めたプール(1.94 × 2.95 m)を用意し、水を交換しないまま3頭の犬に順繰りに入ってもらいました。イングリッシュスプリンガースパニエル(18.2kg)が1.32分、ジャーマンロングヘアードポインター(29.0kg)が3.1分、スプロッカースパニエル(18.6kg)が5.48分という内訳です。
犬の尿サンプルは6頭から、被毛サンプルは9頭から採取され、使用歴のあるノミダニ薬も合わせて調査されました。なお被毛の採取の方法は標準化されておらず、ブラシに自然に付着した毛や、しっぽもしくは胸部からハサミでカットした毛が採用されています。
水を介した薬剤の放出ルートを検証するため、地下水(2.6立法m)を溜めたプール(1.94 × 2.95 m)を用意し、水を交換しないまま3頭の犬に順繰りに入ってもらいました。イングリッシュスプリンガースパニエル(18.2kg)が1.32分、ジャーマンロングヘアードポインター(29.0kg)が3.1分、スプロッカースパニエル(18.6kg)が5.48分という内訳です。
調査結果
犬が使用していたノミダニ薬を調べた上で被毛に含まれる成分を解析したところ、解析対象となった4種(アフォキソラネル/フルララネル/フィプロニル/イミダクロプリド)が含まれる製品を使用した犬3頭においては、被毛および尿中から高濃度で当該成分が検出されました。下のグラフで言うと、フルララネル(緑バー)を投与されていた犬1と5、およびイミダクロプリド(黒バー)を投与されていた犬6などです。
その一方、まったく使用していないはずの成分が同時に検出されるという不可解な現象も確認され、フィプロニル(赤バー)やアフォキソラネル(黄バー)に関しては全く使用されていなかったにもかかわらず、なぜかほぼ全頭の被毛もしくは尿から検出されました。これには犬同士の接触や同居動物(犬や猫)との接触が関わっていると推測されています。可能性としてあり得る場所はドッグラン、しつけ教室、ペットホテル、グルーミングサロン、動物病院などです。
また3頭が参加した水浴び実験では、水浴び前には検出できなかった成分が水浴び後に検出されるという自明の事実が確認されました。解析対象はフルララネルとイミダクロプリドの2成分だけでしたが、累積濃度に関しフルララネルは漸減、イミダクロプリドは漸増という少し違った態様を見せました。 Pet dogs transfer veterinary medicines to the environment
Science of The Total Environment Volume 858, 1 February 2023, N.J.Diepens, D.Belgers, L.BuijseI.Roessink, DOI:10.1016/j.scitotenv.2022.159550
また3頭が参加した水浴び実験では、水浴び前には検出できなかった成分が水浴び後に検出されるという自明の事実が確認されました。解析対象はフルララネルとイミダクロプリドの2成分だけでしたが、累積濃度に関しフルララネルは漸減、イミダクロプリドは漸増という少し違った態様を見せました。 Pet dogs transfer veterinary medicines to the environment
Science of The Total Environment Volume 858, 1 February 2023, N.J.Diepens, D.Belgers, L.BuijseI.Roessink, DOI:10.1016/j.scitotenv.2022.159550
ノミダニ薬の流出ルートは?
参加頭数が少なかっため後続調査のためのパイロットデータにしかなっていませんが、犬の被毛、尿、そして水浴び後の廃用水を通じて得られたデータから、ノミダニ薬に含まれる各種成分がいくつかのルートを通じて環境中に放出される可能性が見えてきました。
被毛ルート
被毛から薬剤成分が検出された事実により、滴下(スポットオン)タイプの場合、被毛に付着した成分が脱毛とともに環境中に撒き散らされる可能性が浮かび上がってきました。「脱毛」には自然脱毛のほか、飼い主による屋外でのグルーミング(ブラッシングやトリミング)なども含まれます。
水溶ルート
簡易プールを用いた水浴び実験で薬剤成分が水の中に移行する事実が確認されたことにより、スポットオンタイプのノミダニ薬に含まれる成分が水に溶ける、もしくは物理的に流されることで環境中に流れ出す可能性があります。具体的には犬にシャンプーをする、犬が川や海に入る、公園の噴水で水遊びする、散歩中雨に濡れるなどです。
排泄物ルート
経口摂取(チュアブル)タイプに含まれる成分(フルララネル)が代謝されないまま尿中に排出される事実が確認されたことにより、ノミダニ薬がおしっこや便の形をとって屋外環境に放置される可能性があります。
流出成分による環境への影響
犬の体を仲介して屋外環境中に流出したノミダニ薬の成分は、仮説の域を出ないものの生態系によくない影響を及ぼす可能性を含んでいます。
鳥類に悪影響?
犬を対象とした調査と同時に、ヴァーヘニンゲンの居住エリアにあるヨーロッパシジュウカラの巣から犬の毛を採取し、含まれる成分が解析されました。その結果、4つの成分すべてがさまざまな濃度で検出されたといいます。
先行調査では死亡した鳥のヒナの体内からアフォキソラネルを除く3成分が検出されたと報告されていることから、調査チームは犬の被毛に含まれていた成分がヒナの死因となった可能性を否定できないと指摘しています。ただし元気なヒナを対象とした同様の成分分析を行ったわけではないので因果関係とは断定できないとも。
地表水を汚染?
オランダ国内に限定した場合、フィプロニルの年間推定使用量は有効成分だけで500kg、イミダクロプリドのそれは3,000kgと推計されています。またフィプロニルの0.01~0.3%、イミダクロプリドの1.15~6%が水処理プラントに送られると、地表水(河川、湖沼、貯水池などの地表に存在する水の総称)における濃度が基準値を超える可能性があるとも。
日本での基準は?
今調査対象となったのは、英国内で最も頻繁に使用されているノミダニ薬に含まれる成分でした。これらの成分を含む製品は日本国内でも流通しており、知名度から考えるとそれなりに売れていると考えられます。
国内においてはイミダクロプリドとフィプロニルが農薬という区分でいくつかの制限を受けている一方、比較的新興成分のアフォキソラネルとフルララネルに関しては動物医薬品として認可されているだけで環境中における基準値が追いついていません。4成分の具体的な法規制は以下のようになっています。
国内においてはイミダクロプリドとフィプロニルが農薬という区分でいくつかの制限を受けている一方、比較的新興成分のアフォキソラネルとフルララネルに関しては動物医薬品として認可されているだけで環境中における基準値が追いついていません。4成分の具体的な法規制は以下のようになっています。
農薬登録保留基準値
農薬利用に伴う被害防止の観点から、農薬取締法に基づき環境大臣が定める基準。この基準に該当する農薬は登録が保留される。 農薬登録基準について(環境省)✅水域の生活環境動植物の被害防止に係る農薬登録基準
- イミダクロプリド=1.9μg/L
- フィプロニル=0.024μg/L
- フルララネル=なし
- アフォキソラネル=なし
- イミダクロプリド=なし
- フィプロニル=なし
- フルララネル=なし
- アフォキソラネル=なし
- イミダクロプリド=0.15 mg/L
- フィプロニル=0.00050 mg/L
- フルララネル=なし
- アフォキソラネル=なし
残留農薬基準値
農産物を食べた人の健康が損なわれないよう、食品衛生法に基づき定められた農作物中の残留農薬の基準値。この規格に合わない食品の製造、加工、販売、使用はしてはならない。 残留農薬基準値検索システム
- イミダクロプリド=基準あり
- フィプロニル=基準あり
- フルララネル=基準あり
- アフォキソラネル=基準なし
水道水質基準
水道水は、水道法第4条の規定に基づき、「水質基準に関する省令」で規定する水質基準に適合することが必要であり、農薬に関しては水質管理目標設定項目によって規制を受ける。 水質基準項目と基準値(厚生労働省)
- イミダクロプリド=基準なし
- フィプロニル=0.0005mg/L
- フルララネル=基準なし
- アフォキソラネル=基準なし
守るべき屋外マナー
ノミダニ薬に含まれる成分は事前に安全性が評価されていますので、人や犬に対して害を及ぼすにはかなりの高濃度が必要となります。その一方、飼い主が犬を通して屋外環境に撒き散らした薬剤成分が、各種ルートを通じて生態系に悪影響を及ぼす危険性をはらんでいます。知らないうちに屋外マナーが疎かになっていないかどうかをセルフチェックする必要があるでしょう。
屋外マナーチェック
- 屋外でブラッシングをしないベランダや公園でブラッシングをした後、抜けた被毛をそのまま放置していませんか?
- 屋外でトリミングをしない自宅の庭でトリミングをした後、カットした被毛を風に任せていませんか?
- 屋外をトイレにしない散歩をトイレタイムにしておしっこや便を屋外に置き去りにしていませんか?
犬向けノミダニ薬に用いられている有効成分の安全性(危険性)に関しては以下のページでまとめてあります。