犬が好きなアロマは何?
調査を行ったのはポーランドにある生命科学大学のチーム。国内で飼育されているペット犬14頭(メス10+オス4/犬種、大きさ、年齢はバラバラ)を対象とし、33種類の匂いサンプルを用いた自発選好テストを行いました。
テスト方法
実験室内に犬と飼い主のペアを招き入れ、部屋の奥には1mの間隔をあけて4種類の匂いサンプルが設置されました。トライアル回数は1日5トライアル×8日間の合計40トライアルで、1つの匂いサンプルにつき最終的に最低4回コンタクトをとるようデザインされました。
匂いのネガティブコントロールとしてはシャンプーなどに多く用いられるジプロピレングリコール、ポジティブコントロールとしては食べ物およびカストリウム(海狸香:ビーバーの持つ香嚢から得られる香料)が採用され、残りの30種は植物系アロマを中心としたさまざまな匂いが採用されました。
テスト1:結果
実験室をハンドラーに近い「ハンドラーゾーン」と匂いサンプルが置かれた「匂いゾーン」とに区分し、それぞれにおける頭部の停留時間を計測した結果、トライアルの77.5%(31/40)ではハンドラーゾーン>匂いゾーンという勾配が見られたといいます。
逆に勾配が認められなかった残り9トライアルの共通事項を調べたところ、サンプルに「食べ物」もしくは「カストリウム」が含まれているという点でした。
逆に勾配が認められなかった残り9トライアルの共通事項を調べたところ、サンプルに「食べ物」もしくは「カストリウム」が含まれているという点でした。
テスト2:結果
匂いサンプルが置かれた4つのコンパートメントにおける停留時間を計測した結果、「食べ物」が置かれている場合が常に長くなることが明らかになりました。それ以外ではタンジェリンおよびラズベリーで停留時間の延長が見られました。
テスト3:結果
持続時間を度外視して匂いサンプルが嗅がれる確率を調べたところ、基準となるグリコール(=中立)と比較して食べ物(3.45倍)とカストリウム(6.17倍)が最高であることが判明しました。またネガティブコントロールのグリコールを基準とした場合、オレンジオイル(2.46倍)>グリコール、酢酸リナリル(0.42倍)<グリコールという統計的な勾配が認められました。
さらに「2秒以上(=興味がある)」嗅がれる確率を調べたところ、グリコールと比べてライムオイルとアンブレットリド(ムスク香)において統計的な有意差が確認されました。
さらに「2秒以上(=興味がある)」嗅がれる確率を調べたところ、グリコールと比べてライムオイルとアンブレットリド(ムスク香)において統計的な有意差が確認されました。
テスト4:結果
右と左どちらの鼻腔を用いるかには犬の感情価が反映されると考えられています。サンプルを嗅ぐ際の犬たちの鼻腔側性を調べたところ、ラバンジンオイル(ラベンダーとスパイクラベンダーを交配してできたラバンジンと呼ばれる植物の花から抽出したオイル/ラバンデュラハイブリダ油)において左もしくは左右両方の鼻腔を優先的に用いることが確認されました。この事実を感情価モデルに沿って解釈すると、「ポジティブな感情を抱いている」となります。
Canine Smell Preferences - Do Dogs Have
Their Favorite Scents?
Kokociinska, A., Woszczylo M., Sampino S.et al., Animals 2022, 12, 1488.DOI:10.3390/ ani12121488
Kokociinska, A., Woszczylo M., Sampino S.et al., Animals 2022, 12, 1488.DOI:10.3390/ ani12121488
犬が好きな植物の匂い
ポジティブコントロールとして用いられた「食べ物」や「カストリウム」は生命維持に直結する食料としての側面を持っていますので、犬たちがおしなべて興味を抱き、匂いを嗅ぐ頻度や時間が増えるのは当然です。
では、今回の調査で用いられた植物系の匂いには一体どのような適応的な意味があるのでしょうか?
では、今回の調査で用いられた植物系の匂いには一体どのような適応的な意味があるのでしょうか?
犬と植物の利害関係
犬の興味を引く植物というものが本当にあるのだとすると、以下のような仮説が考えられます。
植物と犬の適応的な意味
- 嗅覚迷彩?犬が排泄物の上で転げ回るのは、獲物に気づかれにくくするための嗅覚迷彩ではないかという仮説があります。植物の匂いも何らかの状況でカムフラージュに使えるのだとすると、犬たちが習性的に興味を持って匂いをかごうとするのにもいくらか説明が付きます。
- 虫除け?ある種の植物に虫除けとしての効果があるのだとすると、匂いを身にまとうことで防虫効果を期待できます。本能的に「自分に有利」と判断した場合、熱心に匂いを嗅ごうとするでしょう。
- 犬媒花?植物が芳香で動物を惹きつけて花粉を媒介させるという戦略を取っている場合、犬にとってかぐわしい匂いを放つ花が優先的に生き残っていても不思議ではありません。
- 食料?逸話レベルですが、犬が家庭菜園のミントを自発的に食べるとか、オオカミがブルーベリーやイヌバラの実(ローズヒップ)を食べるといった観察が報告されています。食べられるのであれば熱心に植物の匂いをかぐ行動にも説明が付きますね。
犬はラベンダーがお好き?
今回の調査によりタンジェリン(オレンジの一種)、オレンジオイル、ラズベリー、ライムオイル、アンブレットリド(ムスク香)、ラバンジンオイルに対する好意的な反応が見られました。
調査に参加した犬が14頭と少なく、犬種もポーリッシュハンティングスパニエル(5)、ビーグル(4)、シーズー(1)、ボーダーコリー(1)、チベタンテリア(1)、ミックス(2)とかなり偏っていますので、得られた結果を犬全般に拡大はできません。
しかし唯一ラベンダー(ラバンジン)に関しては過去に行われた調査でもポジティブな反応を引き起こすことが確認されています。例えば犬を対象としたものでは心拍数の低下、乗車中の休息時間延長、保護犬の落ち着き促進など。人間を対象としたものでは酸化ストレスの軽減、コルチゾールレベル低下などです。
今回の調査結果と合わせると、犬種に関わらずラベンダー系の匂いが犬に忌避される可能性はかなり低いと考えられます。
調査に参加した犬が14頭と少なく、犬種もポーリッシュハンティングスパニエル(5)、ビーグル(4)、シーズー(1)、ボーダーコリー(1)、チベタンテリア(1)、ミックス(2)とかなり偏っていますので、得られた結果を犬全般に拡大はできません。
しかし唯一ラベンダー(ラバンジン)に関しては過去に行われた調査でもポジティブな反応を引き起こすことが確認されています。例えば犬を対象としたものでは心拍数の低下、乗車中の休息時間延長、保護犬の落ち着き促進など。人間を対象としたものでは酸化ストレスの軽減、コルチゾールレベル低下などです。
今回の調査結果と合わせると、犬種に関わらずラベンダー系の匂いが犬に忌避される可能性はかなり低いと考えられます。
人と犬の嗅覚感度はまったく違います。犬用シャンプーに香り付けを行う際は、匂いの種類だけでなく濃度にまで配慮する必要があるでしょう。