犬用歯ブラシの洗浄力比較
調査を行ったのはウプサラにあるスウェーデン農科学大学のチーム。犬に歯磨きを施す際、使う道具によって洗浄能力にどのような違いが出るかを検証するため、タイプが異なる4つの歯ブラシを用いた比較実験を行いました。実際に用いられた歯ブラシは以下です。
1日1回のペースで1分間、35日間に渡って歯磨きを続けた結果、口腔内の各種指標に以下のような変化が見られたといいます。
さらに犬たちの恐怖(Fear)、不安(Anxiety)、ストレス(Stress)を「FAS指標」と呼ばれるプロトコルで評価したところ、初日と35日目では明白な低下が確認されたといいます。具体的には、柄付き歯ブラシが平均で1.8→0.5、繊維製歯ブラシが平均で2.18→1.18、全体では平均で2.00→0.86というものでした。
Improved Oral Health and Adaptation to Treatment in Dogs Using Manual or Ultrasonic Toothbrush or Textile of Nylon or Microfiber for Active Dental Home Care
Olsen, L., Brissman, A.Wiman, S., Eriksson, F., Kaj, C.Brunius Enlund, K. , Animals 2021, 11, 2481, DOI:10.3390/ani11092481
犬用歯ブラシの種類
- 手袋型歯ブラシ手袋の形をしたナイロン繊維製/歯茎を避けるようにして歯磨き粉なしで1分間歯の表面だけをこする
- 指サック型歯ブラシ指にはめるタイプのマイクロファイバー製/歯磨き粉なしで歯茎と歯の表面を1分間こする
- 超音波歯ブラシ「Emmi-pet」と呼ばれる歯磨き粉つきの製品/歯の表面に歯ブラシをあてがい、1ヶ所につき10秒間ホールド
- 手動歯ブラシ当初は電動歯ブラシの予定だったが犬たちの忌避が強かったため急遽手動に変更/別売りの歯磨き粉(Petosan)を用いて上顎と下顎を30秒ずつ磨く
1日1回のペースで1分間、35日間に渡って歯磨きを続けた結果、口腔内の各種指標に以下のような変化が見られたといいます。
歯磨きと口腔指標の変化
- 歯肉の健康指標炎症なし(0)~重度の炎症・充血・浮腫・出血・潰瘍(3)/柄つき歯ブラシでも繊維製歯ブラシでも統計的に有意なレベルで改善が見られた
- 歯垢の蓄積指標蓄積なし(0)~歯肉溝における豊富な歯垢や軟性物質(3)/柄つき歯ブラシでも繊維製歯ブラシでも統計的に有意なレベルで改善が見られた
- 歯石の蓄積指標蓄積なし(0)~歯肉上縁や下縁における豊富な歯石(3)/4頭(柄付き3頭+繊維製1頭)で個別の改善が見られたものの、平均するとどの方法でも改善は見られなかった


Olsen, L., Brissman, A.Wiman, S., Eriksson, F., Kaj, C.Brunius Enlund, K. , Animals 2021, 11, 2481, DOI:10.3390/ani11092481

どの歯ブラシでも効果あり
歯肉の炎症および歯垢の蓄積という観点で評価した場合、歯ブラシの種類にかかわらず改善が見られました。たとえ短時間であっても、飼い主が家庭で行う毎日のデンタルケアには歯周病予防という観点からそれなりの価値があるようです。
歯肉炎は軽減する
実験初日と35日目を比較した場合、歯の表面に蓄積している歯垢の量には明白な減少が見られました。また歯肉の炎症の度合いにも軽減がみられました。
歯周病の発症に最も大きな影響を及ぼすのは歯と歯肉の間にある歯周ポケットと呼ばれる部位の炎症です。線維製の歯ブラシではなかなか届かない印象がありますが、少なくとも炎症の軽減という形では改善がみられるようです。
なお超音波を当てると歯石がポロッと取れる印象があるものの、歯ブラシの種類に関わらず歯石の指標に改善は見られませんでした。しかしそもそも歯石は見た目のインパクトとは裏腹に歯周病の発症には直接関係していませんので、どちらかといえば歯垢指標の方が重要だと考えられます。

なお超音波を当てると歯石がポロッと取れる印象があるものの、歯ブラシの種類に関わらず歯石の指標に改善は見られませんでした。しかしそもそも歯石は見た目のインパクトとは裏腹に歯周病の発症には直接関係していませんので、どちらかといえば歯垢指標の方が重要だと考えられます。
犬の馴れが生じる
実験初日と35日目を比較した場合、歯ブラシや歯磨きに対する犬のストレス指標に改善がみられました。
飼い主が歯磨きを断念する大きな理由の一つは犬の拒絶ですが、うまくやれば犬も慣れてくれるようです。ここで言う「うまく」とは、いきなり犬を拘束するのではなく、マズル周辺に対するタッチやじっとしていることに対してご褒美を与え、「口を開けているといいことがある」「じっとしているといいことがある」と少しずつ信じ込ませることです。

重要なのは毎日の継続
今回の調査では歯ブラシのタイプに関わらず口腔内の健康指標に改善が認められました。しかし以下のような注意点も指摘されています。現時点で犬に対する「おすすめ」の歯ブラシを提案することはできませんが、選ぶときのポイントにはなるでしょう。
犬用歯ブラシの注意点
- 電気式歯ブラシ手動による歯磨きが嫌いな犬に適しているとされているが、じっとしていることが苦手な犬には不向き/超音波は人間の耳には聞こえないが犬の可聴域には聞こえて騒音と認識される可能性がある/電動歯ブラシは忌避される可能性が高い(細かい反復運動?音?専用歯磨き粉の匂い?)
- 繊維製歯ブラシ柄付き歯ブラシに比べると歯肉溝に届きにくいかも/噛み癖が強い犬の場合、指を噛まれる危険性がある/指サックの場合、犬が誤飲してしまう危険性がある
飼い主による毎日の歯磨きが歯周病予防のゴールドスタンダードです。犬の反応を見て最適な歯ブラシを選び、少しずつ慣らしてください。