短頭種の表情筋は短い
調査を行ったのはドイツにあるハノーヴァー大学のチーム。医学的な理由で安楽死となった短頭種7頭(ボストンテリア/ボクサー2頭/イングリッシュブルドッグ/フレンチブルドッグ2頭/ペキニーズ)と、さまざまな犬種に属する長頭種8頭を検体とし、頭部に含まれる筋肉のうち表情の形成に特に重要な「表情筋」(mimic muscle)に着目して形態学的な比較を行いました。
Anatomia, Histologia, Embryologia, Katharina Zoe Schatz, DOI:10.1111/ahe.12729
犬の表情筋
- 1: 頬骨筋
- 2: 内眼角挙筋
- 3: 外眼角後引筋
- 4: 眼輪筋
- 5: 口輪筋
- 6: 鼻唇挙筋・鼻部
- 7: 鼻唇挙筋・唇部
- 8: 上唇挙筋
- 9: 犬歯筋
Anatomia, Histologia, Embryologia, Katharina Zoe Schatz, DOI:10.1111/ahe.12729
短頭種における表情の制約
調査チームは具体的に以下のような筋肉群に解剖学的な制約が加わり、短頭種における表情の表出能力を低下させているのではないかと懸念しています。
表情筋への制約
- 頬骨筋長頭種では頭の長さの59%で吻側(前方)に長く走行するのに対し、短頭種では頭の長さの86%で吻腹側(前下方)に走行する。垂唇(口角にある余った皮膚組織)の邪魔もあり、唇や口の形を微調整できないのでは?
- 鼻唇挙筋短頭種では鼻梁のしわと脂肪組織に埋もれており、つねに鼻にシワが寄った形になる。この形は威嚇するときのものなので犬の世界で脅威と取られるのでは?逆に威嚇しようとしても鼻にシワを寄せることができないので、自身の感じている恐怖や不安を相手に正確に伝えられないのでは?
- 眼球周辺筋短頭種では顔面における目の占める割合が大きいが、眼球周辺の筋肉(外眼角後引筋・内眼角挙筋・眼輪筋)は短い。常にカッと目を見開いた刮目状態にあるので、他の犬には脅威に見えるのでは?
「散歩していただけで他の犬に噛みつかれた」という場合、短頭種特有の骨格と筋肉が誤解を招くような表情を作り出しているのかもしれません。