犬のストレス反応を生む音
調査を行ったのはカリフォルニア大学デービス校獣医学部のチーム。2019年春、目的を伏せた状態でFacebookを通じた23項目からなるアンケート調査を行い、犬のストレス反応を引き起こす日常生活中の音源が何であるかを調べました。また動画共有サイト(YouTube)を参照し、何らかの音を聞いて強いストレス反応を示す様子を収めたビデオクリップを調べ、音の特徴や周囲にいる人間の反応がどのようなものであるかをリストアップしていきました。
アンケート調査結果
飼い主へのアンケートを通じて収集した386人の回答(72犬種/ミックス種と純潔種がほぼ半々)を解析したところ、犬が極度に反応するのは「ブザー音」で括られる音全般であることが判明したといいます。具体的には目覚まし時計のアラーム、電話の呼び出し音、火災報知器のビープなどです。また犬のリアクションとしては以下のようなものが報告されました。数値は犬が見せた全反応665回のうちに占める割合です。
ストレス音源と犬の反応(家庭内)
- 吠える=29.0%
- 引きこもる=13.1%
- うろうろする=9.5%
- 隠れる=8.4%
- クンクン鳴き=8.4%
- 耳をたたむ=7.7%
- 震え=7.5%
- パンティング=5.1%
- あくび=3.9%
- 唇をなめる=3.3%
- 遠吠え=2.6%
- 流涎(よだれ)=1.5%
動画の解析結果
調査チームが個人投稿のビデオクリップ57本(合計50.3分)を解析したところ、82.5%では「高周波/断続的」、10.5%では「低周波/持続的」を特徴とする音が収録されていたといいます。前者の例は何らかのブザーやアラーム音、後者の例は電子レンジや掃除機の稼働音などです。また犬のリアクションとしては以下のようなものが確認されました。
周囲の人間の反応として確認されたのは以下です。「総集編」は3秒~1分半の短いクリップ79本をつなぎ合わせた28.1分の動画のことを指します。
Stress-Related Behaviors in Companion Dogs Exposed to Common Household Noises, and Owners' Interpretations of Their Dogs' Behaviors
Emma K. Grigg, Juliann Chou, Emily Parker, Anwyn Gatesy-Davis, Sara T. Clarkson, Lynette A. Hart, Front. Vet. Sci., 08 November 2021, DOI:10.3389/fvets.2021.760845
ストレス音源と犬の反応(動画内)
- 飼い主に近づく=70.2%
- 吠える=49.1%
- しっぽを振る=43.9%
- 唇をなめる=43.9%
- 遠吠え=42.1%
- クンクン鳴き=33.3%
- 耳をたたむ=21.1%
- その他=19.3%
- ジャンプその他=17.5%
- パンティング=15.8%
- 場所にジャンプ=14.0%
- ほりほり=8.8%
- 引きこもる=8.8%
- うろうろする=7.0%
- その他=7.0%
- スピン=5.3%
- しかめっ面=5.3%
- 飼い主にジャンプ=5.3%
- あくび=5.3%
- 凍りつく=3.5%
- 震える=1.8%
- 飛びかかる=1.8%
- 隠れる=1.8%
周囲の人間の反応として確認されたのは以下です。「総集編」は3秒~1分半の短いクリップ79本をつなぎ合わせた28.1分の動画のことを指します。
反応 | 個人投稿 | 総集編 |
傍観 | 49.1% | 47.9% |
笑う | 45.6% | 21.3% |
行動の分析 | 26.3% | 7.4% |
反応誘発 | 22.8% | 20.2% |
心配 | 17.5% | 0% |
Emma K. Grigg, Juliann Chou, Emily Parker, Anwyn Gatesy-Davis, Sara T. Clarkson, Lynette A. Hart, Front. Vet. Sci., 08 November 2021, DOI:10.3389/fvets.2021.760845
犬の音響ストレスを軽視しない
調査チームは人間の可聴域(20~20,000ヘルツ)と犬の可聴域(40~65,000ヘルツ)が根本的に違う点に言及し、日常生活に潜む音が犬たちに与えているストレスを周囲の人間が軽視しているだけでなく、あたふたする姿を「Funny」と捉える傾向があることに対し、強い懸念を表明しています。
「高い・断続的・突発的」な音が嫌い
飼い主へのアンケート調査では「ブザー音」が、YouTubeの動画解析では「高周波/断続的」タイプの音で極度の反応が見られました。こうした事実から、犬たちが高い音にとりわけ敏感で、なおかつそれをネガティブにとらえている可能性がうかがえます。
犬の反応の背景として考えられるのは、動物本来の防衛反応(急な物音を警戒する)、人間よりも高音に敏感な可聴域(20,000 vs 65,000)、近年指摘されているハイリーセンシティブな性質などです。最後の「ハイリーセンシティブ(highly sensitive)」は人間でも確認されている側面であり、普通の人には何でもない音でも敏感な人にとっては生活が地獄になります。犬では「人間の耳には聞こえない超音波タイプの虫除けで体調不良に陥った」といった実例もあります。
犬の反応の背景として考えられるのは、動物本来の防衛反応(急な物音を警戒する)、人間よりも高音に敏感な可聴域(20,000 vs 65,000)、近年指摘されているハイリーセンシティブな性質などです。最後の「ハイリーセンシティブ(highly sensitive)」は人間でも確認されている側面であり、普通の人には何でもない音でも敏感な人にとっては生活が地獄になります。犬では「人間の耳には聞こえない超音波タイプの虫除けで体調不良に陥った」といった実例もあります。
犬の苦痛を面白がる人々
動画解析した結果、犬の反応を見た周囲の人間は面白がる(個人45.6%/総集編21.3%)とかわざと反応を引き出す(個人22.8%/総集編20.2%)ケースが多く、心配(個人17.5%/総集編0%)を遥かに上回ることが明らかになりました。調査チームは、人間が犬のストレス反応に気づかない理由はボディランゲージに鈍感だからではないかと指摘しています。
火災報知器に驚く犬たち
生活から不快なノイズを取り除く
何の予告もなく鳴り響く地震警報や火災報知器は発生頻度自体が極端に低く、また代替案を見つけるのが難しいため仕方ないですが、飼い主の創意と工夫によって生活の中から削減~消滅できる不快なノイズもあります。
例えば夏場にキンキンうるさい風鈴を使わない、家の呼び鈴の音を小さめにする、携帯の呼び出し音をバイブ設定(ストレスの少ない低周波/持続的)にする、超音波製品(虫除け/動物除け)を使わないなどです。家庭内で甲高い大声を出して喧嘩をしないということも大事ですね。
例えば夏場にキンキンうるさい風鈴を使わない、家の呼び鈴の音を小さめにする、携帯の呼び出し音をバイブ設定(ストレスの少ない低周波/持続的)にする、超音波製品(虫除け/動物除け)を使わないなどです。家庭内で甲高い大声を出して喧嘩をしないということも大事ですね。
犬のあたふたする様子が面白いからと言ってわざと音源に晒す行為はもはや虐待です。「Bark at your dog challenge」といった悪ふざけ動画にうっかり「いいね」を押すと同罪になります。