ペット用サプリメントに含まれる水銀
調査を行ったのはブラジルにあるサンパウロ大学のチーム。サンパウロ市内のペット用品店で犬猫用サプリメントとして販売されている商品の中からビタミンとミネラルを含み「手作りフード用」として推奨されているものだけをピックアップし、中に含まれているビタミン、ミネラル、有毒性金属の含有濃度を調べました。最終的に調査対象となったのは3つのメーカーが製造する合計7商品(犬猫共用2+猫向け1+犬向け4)で、解析対象となった金属は合計15種類です。
ビタミンおよびミネラルに関して得られた数値とFEDIAF(欧州ペットフード工業連合会)およびNRC(全米研究評議会)が犬の代謝重量1kgに対して定めている推奨摂取量とを比較したところ、以下の成分が推奨値を下回っていたといいます。アスタリスク(*)は両基準を同時に下回った項目です。
Zafalon RVA, Perini MP, Vendramini THA, Pedrinelli V, Rentas MF, Morilha IB, et al. (2021) PLoS ONE 16(4): e0250738, DOI:10.1371/journal.pone.0250738
ビタミンおよびミネラルに関して得られた数値とFEDIAF(欧州ペットフード工業連合会)およびNRC(全米研究評議会)が犬の代謝重量1kgに対して定めている推奨摂取量とを比較したところ、以下の成分が推奨値を下回っていたといいます。アスタリスク(*)は両基準を同時に下回った項目です。
サプリ中の不足成分
- カルシウム
- リン*
- マグネシウム
- カリウム*
- セレン*
- ナトリウム*
- 亜鉛*
Zafalon RVA, Perini MP, Vendramini THA, Pedrinelli V, Rentas MF, Morilha IB, et al. (2021) PLoS ONE 16(4): e0250738, DOI:10.1371/journal.pone.0250738
水銀はどこから来る?
ペット用サプリメントを対象とした今回の調査では、ラベルに記載されているビタミンとミネラルの多くが額面以下だったのに対し、ラベルに記載されておらず本来ならば含まれてはいけない金属が安全基準値以上含まれているという皮肉な結果となりました。サプリメントは手作りフードを与えている家庭において頻繁に用いられますが、足りない栄養素を補うという本来の目的が果たされないだけでなく、逆に毒性を有する金属によって犬猫を不健康にしてしまう危険性があると、調査チームは警鐘を鳴らしています。
過去に行われた調査では、手作りフードの中から有毒性金属(水銀・鉛・コバルト・ウラン・バナジウム)が検出されたものの、これらの金属が何に由来しているのかまではわからず、おそらくビタミンやミネラルを補う目的で使用されているサプリメントではないかと推測されました(:Pedrinelli, 2019)。例えば以下は手作りフードの乾燥重量1kgに含まれる重金属濃度(mg)です。MTLは「最大許容水準」を意味しています。
今回の調査では4割強(3/7)の商品から高濃度の水銀が検出されたため、上記仮説が部分的に立証されたことになります。しかしそもそも水銀は一体どのようにしてサプリメント製品に紛れ込むのでしょうか?調査チームは土壌汚染と水産資源の可能性を指摘しています。
過去に行われた調査では、手作りフードの中から有毒性金属(水銀・鉛・コバルト・ウラン・バナジウム)が検出されたものの、これらの金属が何に由来しているのかまではわからず、おそらくビタミンやミネラルを補う目的で使用されているサプリメントではないかと推測されました(:Pedrinelli, 2019)。例えば以下は手作りフードの乾燥重量1kgに含まれる重金属濃度(mg)です。MTLは「最大許容水準」を意味しています。
濃度 | MTL | 平均 |
アルミニウム | 200 | 26.04 |
ヒ素 | 12.5 | 0.17 |
バリウム | 100 | 4.93 |
ベリリウム | 5 | 0.43 |
カドミウム | 10 | 0.61 |
コバルト | 2.5 | 1.06 |
クロミウム | 10 | 2.15 |
🚨水銀 | 0.27 | 0.76 |
ニッケル | 50 | 1.53 |
鉛 | 10 | 8.28 |
アンチモニー | 40 | 1.13 |
スズ | 100 | 6.94 |
ウラン | 10 | 68.49 |
バナジウム | 1 | 1.51 |
土壌汚染由来の水銀
水銀が空気や水流に乗って工業地帯から人口密集地に長距離移動することが確認されています。サプリメントの原材料と水銀によって汚染された土壌との間に何らかの接点があると、製品の中に紛れ込んでしまう可能性はあるでしょう。考えられるリスクは森林伐採、油田採掘、化石燃料(石油・石炭)燃焼、道路建設、鉱山開発などです。以下のような具体例もあります。
水産資源由来の水銀
水銀を含む工業排水が海に流れ込み、プランクトン→小魚→大きな魚といった生物濃縮プロセスを経て、水産物の体内に蓄積されてしまうことが確認されています。サプリメントの原材料として水産資源を用いている場合、製品の中に水銀が紛れ込んでしまうことは容易に起こりうるでしょう。以下のような具体例もあります。
- シーフード/台湾妊娠中の台湾女性(平均年齢28.1歳)145人のうち、シーフードをたくさん食べる習慣がある母親78人(61.9%)から高濃度の水銀(5.8μg/L超)が検出されるリスクはオッズ比で2.91だった(:Huang, 2016)。
- サメ軟骨/アメリカアメリカ国内で市販されているサメ軟骨を用いた16種類のサプリメントを対象とし、神経毒の一種であるBMAA(β-メチルアミノ-L-アラニン)および水銀の濃度を測定した。その結果、BMAAは94%(15/16)の割合で検出され、乾燥重量1g中86~265μgという濃度だった。水銀は低濃度だったが、BMAAとの相乗効果で毒性を発揮する危険性は否定できない(:Mondo, 2014)。
- カルシウム/韓国韓国内で市販されているカルシウムサプリ55種を対象とし、中に含まれる有毒性金属の濃度を調べたところ、製品1kg当たり水銀が0.01mg、ヒ素が0.48mg、カドミウムが0.02mgという結果になった。さらにカルシウムの原料を骨、乳、カキ・二枚貝殻、卵殻、藻類、サメ軟骨、キレートに区分して比較したところ、サメ軟骨を素材とした場合の水銀濃度(0.06mg)とカドミウム濃度(0.13mg)が最高値を示した(:Kim, 2003)。
犬猫用サプリメントの注意点
犬猫向けに販売されているビタミン・ミネラルサプリメントを使用する場合は、ラベルに記載されていない水銀が知らないうちに慢性中毒を引き起こす危険性をはらんでいることを理解しておく必要があります。また「軟骨の健康維持に」などと称して売られている関節用サプリメントも、原料としてサメ軟骨を使用しているかどうかを確認したほうが良いでしょう。総合栄養食であれ一般食であれ療法食であれ、グリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸・グルコサミン)を含んでいる場合は高い確率で水産資源が使われていますので、同様の警戒が必要だと思われます。ペットフード安全法」が定められています。しかし以下の文章からも分かる通り、水銀を含む重金属は標準検査項目に入っていません。
日本国内では犬猫の健康を守るため「今後、水銀、カドミウム、鉛、ヒ素についても、科学データを収集した上で、安全基準の設定を検討する予定です。安全基準の設定後も、科学的知見の収集に努め、必要に応じて対象物質の追加や基準値の見直しなどを行っていくこととしております。原因不明の体調不良が見られ、なおかつペット用サプリメントを日常的に与えている場合、ペットの健康を思ってやっていることが逆に健康を害しているかもしれないと発想を転換してみましょう。以下は犬や猫における水銀中毒の代表的な症状です。人医学でいうところの水俣病に近い病状を呈します。
犬猫の水銀中毒症状
- 運動失調
- ふらつき・よろめき
- なきわめき
- 虚弱
- 水平眼振
- 頭の傾斜
- 四肢麻痺
- 強直性発作
手作りフードだけで五大栄養素のバランスを整えることは非常に困難です。必要な栄養素が不足したり、重金属など不要な成分が過剰になったりしますのでご注意ください。