犬の破傷風統計・イギリス編
王立獣医大学の調査チームは2006年1月~2017年6月の期間、英国内にある特定の二次診療施設において局所~全身性の破傷風と診断された犬49頭のデータを用い、発症パターンにいったいどのような季節性があるのかを検証しました。
Daria Starybrat, Jamie M. Burkitt‐Creedon et al., Journal of Veterinary Emergency and Critical Care(2021), DOI:10.1111/vec.13068
- 破傷風
- 破傷風菌(Clostridium tetani)が産生する毒素によって引き起こされる神経系の疾患。抑制性ニューロンが障害されることによって神経が常に興奮した状態になり、筋肉の硬直や自律神経失調などさまざまな症状が現れる。
Daria Starybrat, Jamie M. Burkitt‐Creedon et al., Journal of Veterinary Emergency and Critical Care(2021), DOI:10.1111/vec.13068
破傷風リスクが高い季節は?
破傷風の季節性に関しては過去にいくつかの報告がなされていますが、統一した見解には至っていません。例えば以下に示すように調査が行われた国や地域によって全く違った傾向が確認されています。
破傷風の毒素を生成する芽胞が形成されるためにはpH7以上、37°Cという条件が必要で、逆にpH6未満、25°C未満、41°C以上という条件下では起こらないとされています。人間の破傷風が高温多湿地域(西~中央アフリカ・東南アジア・インド・太平洋諸島・アメリカ南部)で多いという報告がある一方、ナイジェリアで行われた疫学調査では乾季と雨季における発症リスクに格差が見られませんでしたので、温度や湿度も破傷風の明確な予見因子とは言い難い状態です。 犬においては冬の発症率が高いことが確認されましたが理由についてはよくわかっていません。運動量が多い若い犬たちに発症しやすいこと、冬の外気で体温が下がるのを防ぐため散歩に出た犬の運動量が自然に増えること、手が冷たいとか歩くのが億劫といった理由により飼い主がノーリードにしてしまう機会が増えることといった理由により、自由行動になった犬が足先に怪我を負いやすくなることなどが想定されます。
破傷風の発症しやすい季節
- ブラジル/ウマ破傷風を発症したウマ70頭を調べたところ、春25.7%(18頭)、夏17.2%(12頭)、秋21.4%(15頭)、冬35.7%(25頭)となり、明白な季節性は認められなかった(:Ribeiro, 2018)。
- ナイジェリア/新生児雨期における新生児の死亡率が47.3/1000だったのに対し、母親から生まれたばかりの新生児に発症する新生児破傷風による死亡率は30.8/1000だった。乾季に比べて高い値を示したものの、破傷風以外を原因とする死亡率でも同じ傾向があったため、破傷風に特有の季節性とは認められない(:Eregie, 1992)。
- フィンランド/破傷風患者1969~85年の期間、破傷風による入院患者106人(男性63人+女性43人)における死亡率は11.3%(12人)で、原因の多くは治療中に発生した不測の合併症だった。大部分は50歳以上もしくはワクチン接種が不完全な人で、地面に雪がない季節に多い傾向が見られた(:Luisto, 2009)。
- 日本/破傷風患者2010年7月~2016年3月の期間、診断群分類(DPC)データベースで破傷風と診断された499人のデータを調べたところ、春116(23%)、夏171(34%)、秋152(30%)、冬60(12%)で夏に多く冬に少なくなる傾向が見られた(:Nakajima, 2018)。
破傷風の毒素を生成する芽胞が形成されるためにはpH7以上、37°Cという条件が必要で、逆にpH6未満、25°C未満、41°C以上という条件下では起こらないとされています。人間の破傷風が高温多湿地域(西~中央アフリカ・東南アジア・インド・太平洋諸島・アメリカ南部)で多いという報告がある一方、ナイジェリアで行われた疫学調査では乾季と雨季における発症リスクに格差が見られませんでしたので、温度や湿度も破傷風の明確な予見因子とは言い難い状態です。 犬においては冬の発症率が高いことが確認されましたが理由についてはよくわかっていません。運動量が多い若い犬たちに発症しやすいこと、冬の外気で体温が下がるのを防ぐため散歩に出た犬の運動量が自然に増えること、手が冷たいとか歩くのが億劫といった理由により飼い主がノーリードにしてしまう機会が増えることといった理由により、自由行動になった犬が足先に怪我を負いやすくなることなどが想定されます。
犬に対するワクチンが開発されていないため、ひとたび重症化すると呼吸に関わる筋肉が硬直して死亡してしまうこともあります。足に怪我を負いやすい散歩ルートを避け、家に帰ってから傷のチェックを念入りにしてあげましょう。