アイコンタクトが得意な犬は?
調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学のチーム。犬を対象とした過去の実験によって得意と不得意が報告されているアイコンタクト(見つめ合うこと)の能力に関し、一体どのような要因が成績に影響を及ぼしうるのかを検証しました。
調査対象となったのは一般家庭で飼育されている2.5歳以上のペット犬125頭(オス犬62頭+メス犬63頭)。パフォーマンスに影響を及ぼしうる「頭部指数」を写真から算出したほか、人馴れの度合いを以下のテストを通じて判定した上でアイコンタクトの成績がどのように変動するかを計算しました。なお実験者は犬と初対面の20~27歳の女性で、頭部指数(cephalic index)とは鼻先から後頭隆起までの頭の長さを「1」としたとき、頬骨弓から頬骨弓までの顔幅が占める割合を相対的に数値化したものです。値が小さい場合は長頭、値が大きい場合は短頭を意味しています。
Bognar, Z., Szabo, D., Dees, A. et al. Sci Rep 11, 9293 (2021), DOI:10.1038/s41598-021-88702-w
調査対象となったのは一般家庭で飼育されている2.5歳以上のペット犬125頭(オス犬62頭+メス犬63頭)。パフォーマンスに影響を及ぼしうる「頭部指数」を写真から算出したほか、人馴れの度合いを以下のテストを通じて判定した上でアイコンタクトの成績がどのように変動するかを計算しました。なお実験者は犬と初対面の20~27歳の女性で、頭部指数(cephalic index)とは鼻先から後頭隆起までの頭の長さを「1」としたとき、頬骨弓から頬骨弓までの顔幅が占める割合を相対的に数値化したものです。値が小さい場合は長頭、値が大きい場合は短頭を意味しています。
犬の社会性テスト
- あいさつテスト犬と飼い主が居る室内で見知らぬ実験者が入り、両者に近づいて挨拶する→犬が自発的に近づいてきたら撫でてあげる
- 人間との遊びテスト犬と飼い主がいる室内に見知らぬ実験者がおもちゃ(ボールとロープ)を手に持って入り犬に差し出す →犬にどちらか一方を自発的に選ばせて1分間遊ぶ
- アイコンタクトテスト見知らぬ実験者が室内にいる犬の目の前におやつをポイと投げる→自発的にアイコンタクトを取るまで待ち、アイコンタクトが15回確立するか300秒が経過したら終了
待機時間が短くなる因子
- トライアル回数
- 頭部指数が大きい
- 協調的な犬種
- ミックス種
- 人間との遊びを楽しむ気質
待機時間が長くなる因子
- 年齢
Bognar, Z., Szabo, D., Dees, A. et al. Sci Rep 11, 9293 (2021), DOI:10.1038/s41598-021-88702-w
アイコンタクト能力を高める因子
犬のアイコンタクトの能力には以下のような要素が関わっていることが明らかになりました。では一体どのようなメカニズムが働いているのでしょうか?
協調的な犬種
ミックス種
単一犬種にくくれないミックス種に着目した場合、協調的な犬種と同等のアイコンタクト能力を有していることが明らかになりました。これは純血種より能力が高いという意味ではなく、非協調的な犬種より能力が高いという意味です。
ミックス種56頭のうち38頭(68%)は保護施設もしくは路上出身でした。路上生活において最も効率的にゲットする方法は、人間とアイコンタクトをとっておすそわけをもらうことです。ミックス種の成績に影響を及ぼしたのは後天的な来歴だと推測されますが、訓練所に通ったことがある犬73頭と通ったことがない犬40頭を比較した結果、パフォーマンスに格差が見られなかったため、先天的な適性の可能性も否定できません。
ミックス種56頭のうち38頭(68%)は保護施設もしくは路上出身でした。路上生活において最も効率的にゲットする方法は、人間とアイコンタクトをとっておすそわけをもらうことです。ミックス種の成績に影響を及ぼしたのは後天的な来歴だと推測されますが、訓練所に通ったことがある犬73頭と通ったことがない犬40頭を比較した結果、パフォーマンスに格差が見られなかったため、先天的な適性の可能性も否定できません。
社会性
「人間との遊びテスト」において積極的に交流を持とうとする高い社会性が確認された犬ほど、アイコンタクトをスムーズに取れることが明らかになりました。
過去に行われた調査では、イヌ6番染色体上にある「GTF2I」と「GTF2IRD1」という遺伝子の欠失変異が、犬の社会性と密接に関わり合っていることが明らかになています。これらの遺伝子は、並外れて人なつこい人格で知られる「ウィリアムズ症候群」の発症に関わっているものです。社会性が遺伝子による先天的な特性なのか、それとも後天的な経験によって形成されるものなのか、それとも複合なのかはわかりませんが、別の調査では社会性が高い犬ほど人間の顔を眺める時間が長かった(:Jakovcevic, 2012)と報告されていますので、他者に対する警戒心が弱まることは確かなのでしょう。
過去に行われた調査では、イヌ6番染色体上にある「GTF2I」と「GTF2IRD1」という遺伝子の欠失変異が、犬の社会性と密接に関わり合っていることが明らかになています。これらの遺伝子は、並外れて人なつこい人格で知られる「ウィリアムズ症候群」の発症に関わっているものです。社会性が遺伝子による先天的な特性なのか、それとも後天的な経験によって形成されるものなのか、それとも複合なのかはわかりませんが、別の調査では社会性が高い犬ほど人間の顔を眺める時間が長かった(:Jakovcevic, 2012)と報告されていますので、他者に対する警戒心が弱まることは確かなのでしょう。
年齢
短頭種
頭部指数が大きい、すなわち鼻ぺちゃの短頭種であるほどアイコンタクトを取るまでの時間が短くなることが確認されました。この関係性にはいくつかの可能性が考えられます。
短頭種のアイコンタクト能力
- 視力がよい中頭種では網膜神経節細胞が水平に配列しているのに対し、短頭種では中央部に集中しており、周辺視野による視覚的なノイズが少なく人間の視線に集中しやすいのではないかと考えられます。実証実験としては「短頭種の方かジェスチャー視線で追いやすい (:Gacsi, 2009)」とか「短頭種の方が投射された動かない顔写真を長く見つめる(:Bognar, 2018)」といった報告があります。
- 選択繁殖の結果愛玩動物として選択繁殖をする際「つぶらな瞳でじっとこちらを見てくれる」という特性が基準になった場合、世代を重ねるごとにアイコンタクトの能力が自然と高まった可能性が考えられます。
- 練習機会が多い短頭種にはベビースキーマ(幼児の容姿に含まれる”かわいい”と感じさせる要素)が多く含まれているため、愛玩目的で犬を飼育している家庭においては飼い主が積極的に交流を持ちたがり、結果としてアイコンタクトの訓練機会が多くなった可能性があります。
アイコンタクトの能力には先天的で変わらない要素(頭の形状や犬種)と後天的で変わりうる要素(年齢・社会性)の両方が関わっています。個体によって得意・不得意がありますので、その犬に合わせて柔軟に練習しましょう。