睡眠時の脳波と学習の関係
調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学の調査チーム。人間やげっ歯類において確認されている、ノンレム睡眠中のシグマ波と記憶統合との関係性が犬たちでも見られるのかどうかを検証するため、一般家庭で飼育されているペット犬を対象とした観察調査を行いました。
Iotchev, I.B., Kis, A., Bodizs, R. et al. Sci Rep 7, 12936 (2017), DOI:10.1038/s41598-017-13278-3
- シグマ波
- 睡眠中に見られる脳波の突発的な上下動(紡錘波)のうち、だいたい11~16Hz帯域に当たるもの。定義ははっきりしておらず、9~16Hzという広い帯域や12~14Hzという狭い帯域を指すこともある。また頭頂~後頭部で測定されやすい14?~16Hz帯域を「速波」、前頭部で測定されやすい10.25~12Hz帯域を「徐波」と細分する研究者もいる。
- 非学習犬がすでに知っている指示語とハンドシグナルで、犬がマスター済みの「おすわり」と「ふせ」を行う→3時間の睡眠
- 学習犬が知らない指示語で犬がマスター済みの「おすわり」と「ふせ」を行う→3時間の睡眠→起床後、ちゃんと覚えているかどうかを確認するため18回の復習テストを行う
シグマ波と成績の関係
- 復習テストにおける正答率✓メス(15.6%)>オス(4.4%)
- 紡錘波密度✓メス(4.75/分)>オス(2.69/分)
✓学習後(3.76/分)>非学習後(2.87/分) - 紡錘波密度(未手術犬限定)✓学習後:メス(5.5/分)>オス(2.2/分)
✓非学習後:メス(3.5/分)>オス(1.2/分) - 徐波(13Hz以下)✓成績と密度が連動
✓メス(4.1/分)>オス (2.6/分) - 速波(13Hz超)✓メス(0.8/分)>オス(0.2/分)
Iotchev, I.B., Kis, A., Bodizs, R. et al. Sci Rep 7, 12936 (2017), DOI:10.1038/s41598-017-13278-3
深い眠りによる学習効果
ノンレム睡眠中における9~16Hz帯域の鋭波密度によって記憶の統合が促され、睡眠前に学習したことの成績が良くなるという現象は人間やげっ歯類を対象とした調査で確認されています。犬を対象として行われた今回の調査でも、特に脳波が13Hz以下のときに同様の傾向が確認されましたので、ひとまず犬に何らかのしつけを行った後は眠ってもらうことが重要と言えそうです。
なお一般的に深い眠りとされるノンレム睡眠中における紡錘波密度と睡眠後の成績とが連動していますので、高速眼球運動(REM)を伴うような眠りではなく、ピクリとも動かない深い眠りが必要と考えられます。
なお一般的に深い眠りとされるノンレム睡眠中における紡錘波密度と睡眠後の成績とが連動していますので、高速眼球運動(REM)を伴うような眠りではなく、ピクリとも動かない深い眠りが必要と考えられます。
メス犬の方が頭がよい?
オス犬とメス犬を比較した場合、メス犬の方がノンレム睡眠中の紡錘波密度が高く、それに連動する形で睡眠後に行った記憶確認テストの成績も良くなりました。またこの成績格差は不妊手術を行っていない個体に限定した場合、さらに広がりました。詳細なメカニズムまでは分かっていないものの、性腺ホルモン(男性ホルモン or 女性ホルモン)が何らかの形で睡眠中の脳波に影響を及ぼしているものと推測されています。同じ親犬から生まれたオスとメスにまったく同じ訓練を行った場合、オスよりもメスの方が一時的に優等生に見えるという現象はあるかもしれません。
ちなみにこうした男女間の脳波格差は人間においても確認されており、少人数を対象とした調査では2倍もの開きが見られたとの報告があります(:Gillard, 1981)。
ちなみにこうした男女間の脳波格差は人間においても確認されており、少人数を対象とした調査では2倍もの開きが見られたとの報告があります(:Gillard, 1981)。
記憶統合のメカニズム
ノンレム睡眠中の紡錘波が睡眠中の記憶統合にどのように関わっているのでしょうか?仮説としては「視床皮質回路が紡錘波を制御→皮質下や海馬から皮質への情報移行をブロック→皮質の活動を抑える→干渉を打ち消して記憶の統合が促される」といったものが提唱されています。イメージ的には、英単語を暗記しようとしているとき周囲の騒音を消して学習効率を高めるといった感じです。
経頭蓋交流電流刺激(TAC)などを用いた特殊な方法で睡眠中の紡錘波を妨害すると運動学習に影響が出たり、睡眠中と覚醒中両方における空間記憶の想起に関連した海馬のリップル波が睡眠中の紡錘波に影響を及ぼすといった報告もあることから、紡錘波が記憶に深く関わっていることが伺えます。また紡錘波密度、強度、持続時間は加齢とともに悪化し、とりわけアルツハイマー患者において顕著とされていますので、睡眠の質にも大きな影響を及ぼしうるようです。
同じハンガリーのチームが行った別の調査でも、訓練後の睡眠が犬の成績を高めると報告されています。特にメス犬で顕著かもしれませんが、性別、年齢、知力(もしあるなら)に関わらず、まずはぐっすり眠ってもらうように促してあげましょう。犬の覚えが悪いと感じたとき、その原因は「睡眠不足」という意外なところにあるのかもしれません。
経頭蓋交流電流刺激(TAC)などを用いた特殊な方法で睡眠中の紡錘波を妨害すると運動学習に影響が出たり、睡眠中と覚醒中両方における空間記憶の想起に関連した海馬のリップル波が睡眠中の紡錘波に影響を及ぼすといった報告もあることから、紡錘波が記憶に深く関わっていることが伺えます。また紡錘波密度、強度、持続時間は加齢とともに悪化し、とりわけアルツハイマー患者において顕著とされていますので、睡眠の質にも大きな影響を及ぼしうるようです。
同じハンガリーのチームが行った別の調査でも、訓練後の睡眠が犬の成績を高めると報告されています。特にメス犬で顕著かもしれませんが、性別、年齢、知力(もしあるなら)に関わらず、まずはぐっすり眠ってもらうように促してあげましょう。犬の覚えが悪いと感じたとき、その原因は「睡眠不足」という意外なところにあるのかもしれません。
「睡眠」「散歩」「遊び」はいずれも、学習直後や1週間後の成績を高めるという現象が確認されています。しつけの後は3つのうちどれかを意識的に実践してあげましょう。