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犬の飼い主のための新型コロナウイルス対策~感染予防法から消毒成分の安全性・危険性まで

 2019年12月から世界中を混乱に陥れている「新型コロナウイルス」(SARS-CoV-2)。犬の飼い主として一体どのような点に注意しながら生活すればよいのでしょうか?感染予防法から消毒薬の安全性(毒性)情報までを出典付きで詳しくご紹介します(🔄最終更新日:2020年6月27日)

新型コロナ予防の基本

 感染症は「病原体」「感染経路」「感染者」という3つの要因が揃うことで成立します。他の感染症と同様、新型コロナウイルス対策においてはこの3つのうちどれか1つ~すべてを取り除くことが有効です。 厚生労働省・感染対策の基礎知識 厚生労働省・新型コロナウイルス感染症について 感染症成立の3要因~感染源・感染者・感染経路  多くの都道府県では外出自粛が宣言されているものの、ほとんど人は食料品などを買うためにスーパーやコンビニに行く必要はあるでしょう。また通信販売を利用するにしても、誰が触ったのかわからないものが家の中に入り込んできます。つまり上の図で言うと「感染経路」を日常生活の中から完全に無くすることは難しいということです。そこで重要となってくるのが感染源(新型コロナウイルス)の除去と不活化です。
 新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同様、エンベロープをもつ粒子構造になっていますので、不活化剤が比較的よく効きます。以下でご紹介するのは、生活環境内にウイルスが入り込んできた状況を想定した場合のさまざまな対策です。
NEXT:手指の消毒方法

手指の消毒方法

 新型コロナウイルスは感染者の口や鼻から出る飛沫に含まれます。顔面に直接くしゃみを受けなくても、くしゃみをしたときのしぶきが地面や商品の表面に残っており、それを触ることで感染が成立してしまうかもしれません。そこで重要になってくるのが手指の消毒です。
 犬が飼い主の手をなめるという状況を想定すると、アルコールなどは使わず流水による手洗いが第一選択肢となります。

液体石鹸での水洗い

 手指消毒の最善策は液体石鹸での水洗いです。流水による手洗いをしなかったときの残存ウイルス数を100万個とした場合、石鹸やハンドソープで10秒間もみ洗いした後流水で15秒すすぐだけで0.01%(数百個)まで減らすことができます。またこの作業を2回繰り返すと0.0001%(数個)まで激減させることができるとのこと。新型コロナウイルスに対する石鹸の効果に関し、NITE(ナイト:独立行政法人・製品評価技術基盤機構)は汚れを落とす純石けん分が脂肪酸カリウムの場合は0.24%以上、脂肪酸ナトリウムの場合は0.22%以上が必要としています。
 以下は手洗いを行う際の正しい手順と洗い残しの危険部位です。 厚生労働省・新型コロナウイルス対策 厚生労働省・感染対策の基礎知識 ウイルスを残さないための正しい手洗い方法

アルコール消毒

 手指消毒における次善策はアルコール(エタノール)消毒です。基本的には70%超濃度のエタノール消毒液が推奨されていますが、急激な需要の高まりから品薄状態になって入手できないこともあります。そのような場合は濃度60%台のエタノールでも一定の消毒効果があるため、急場しのぎとして代用できるとされています。以下はアルコール消毒する際の正しい手順です。先述したように、犬が手をなめるという状況が容易に想定できることから、可能な限り流水手洗いの方を優先するようにします。 厚生労働省・新型コロナウイルスに関するQ&A 厚生労働省・感染対策の基礎知識 手指に対するアルコール(エタノール)消毒剤の正しい使い方

イソプロパノールによる消毒

 アルコール(エタノール)が入手できない場合は消毒薬の一種イソプロパノール(70%)も有効とされます。ただしアルコールに比べて脱脂作用が強く、くり返し使うことによって手指がかさかさになってきますので、長期的・反復的な使用は推奨されません。 健栄製薬・消毒薬のQ&A CDC・Guidance for Healthcare Providers about Hand Hygiene and COVID-19NEXT:滑らかな物の消毒方法

滑らかな物の消毒方法

 居住空間の中にある表面が滑らかな物の消毒は拭き掃除が基本となります。ウイルスに対する不活化作用をもつ成分がいくつか確認されていますので、常備しておくと安心です。

洗剤・界面活性剤

 2020年5月、NITE(ナイト:独立行政法人・製品評価技術基盤機構)の特別検討委員会は台所用洗剤などに用いられる界面活性剤の抗ウイルス作用を検討し、以下に示す成分が99.99%以上の感染価減少率を示す有効成分であるとの結論に至りました。入手のしやすさや安全性から考えて最善策としておきます。以下リンク「有効成分含有製品一覧」に具体的な商品名が記載されていますので参考にしてください。 NITE・新型コロナウイルスに有効な界面活性剤 NITE・有効成分含有製品一覧
  • 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
  • アルキルグリコシド(0.1%以上)
  • アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
  • 塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)
  • ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)
  • 塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)
  • 塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)
  • 純石けん分・脂肪酸カリウム(0.24%以上)
  • 純石けん分・脂肪酸ナトリウム(0.22%以上)
 以下は家庭における洗剤(界面活性剤)を使った消毒液の作り方および正しい使い方です。最後の「注意点」まで含めてご確認ください。なお有効な界面活性剤を含んだ製品の多くは家具、お風呂、トイレ、窓ガラスを掃除するためのもので、けっこう臭いがきつかったりします。広範囲に使用すると人も犬も具合が悪くなりますので、乾拭きと換気は忘れないようにしてください。 NITE・ご家庭にある洗剤を使って身近な物の消毒をしましょう
洗剤消毒液の作り方
  • 洗剤薄め液を作るたらいや洗面器などに500mLの水を張り、洗剤を小さじ0.5~1杯(2.5~5g)入れて軽く混ぜ合わせる。洗剤は事前に有効成分が含まれていることを確認。食器用洗剤を選ぶ場合は、食器洗い機専用ではなく、スポンジなどにつけて手で使う洗剤を選ぶこと。家庭用洗剤(界面活性剤)を希釈して作るウイルス消毒液
  • 対象の表面を拭き取るキッチンペーパーや布などに上で作った溶液を染み込ませ、液が垂れないように絞る。汚れやウイルスを広げないよう、一方向にだけしっかりと拭き取る。
  • 水拭き洗剤で拭いてから5分くらい経ったタイミングでキッチンペーパーや布で水拭きし、洗剤を拭き取る。特にプラスチック部分は放置すると傷(いた)むことがあるので忘れずに水拭きする。
  • 乾拭きする最後によく乾いたキッチンペーパーなどで乾拭きする。
  • 注意点✓手指や皮膚に直接使用しない
    ✓スプレーボトルでの噴霧は行わない
    ✓消毒液を作り置きしない
    ✓拭くときは往復せず1方向だけ
    ✓プラスチックを拭いた後は水拭きを忘れない
    ✓塗装面には使わない
    ✓布製カーテン、木、壁には使わない
 以下でご紹介するのは経済産業省が公開している身の回りにあるものを消毒する時のハウツー動画です。 元動画は→こちら

次亜塩素酸ナトリウム

 新型コロナウイルスに対しては台所用品の漂白剤などに使われている次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)の有効性が確認されています。ノロウイルスにも効果があって一石二鳥ですが、鼻にツンと来る塩素系の臭いが難点です。
 市販の漂白剤を水で薄めて0.05%溶液を作り、布などに染み込ませた上で対象物の表面を拭き、5分程度してからキッチンペーパーや布などで乾拭きして乾かします。
 なお市販の次亜塩素酸ナトリウム製品の濃度には1%、6%、10%等があります。また漂白剤として市販されている次亜塩素酸ナトリウム液の塩素濃度は約5%です。希釈する際は直接触らないよう必ず手袋を着用し、しっかりと換気した上で濃度を間違わないようご注意ください。 厚生労働省・身のまわりを清潔にしましょう 高齢者介護施設における感染対策マニュアル・改訂版
代表的な漂白剤

熱湯消毒

 食器や箸などは80℃のお湯に10分間漬けることでウイルスの不活化・消毒が可能です。自動食器洗浄器を使う場合は80℃ですすぎます。 厚生労働省・身のまわりを清潔にしましょう

次亜塩素酸水

 次亜塩素酸水とは塩酸または食塩水などを電解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液のことです。上でご紹介した次亜塩素酸ナトリウムと非常によく似ていますが別物ですのでご注意ください。 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性  2020年6月、複数の専門機関によって行われた検証実験によりある一定の条件を備えた次亜塩素酸水にはウイルスを99.9%以上の割合で不活性化する能力を有していることが確認されました。具体的には液体の酸性濃度に関わらず遊離塩酸濃度35ppm(1L中35mg)以上で少なくとも20秒間接触させるというものです。塩酸などを電気分解して生成した「電解型」でも電気分解以外の方法で生成した「非電解型」でも不活化能力に違いはありません。また遊離型の次亜塩素酸水と性質をややことにするジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液に関しては液体の酸性濃度関わらず遊離塩酸濃度100ppm(1L中100mg)以上で最低20秒間という特別な使用基準が設けられています。 新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の不活化効果を証明(第一報) 新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の不活化効果を証明(第二報) NITE・新型コロナウイルスを用いた代替消毒候補物資の有効性評価にかかる検証試験の中間結果について(5.21版) NITE・新型コロナウイルスを用いた代替消毒候補物資の有効性評価にかかる検証試験の結果について(6.26版) NEXT:衣類・布製品の消毒方法

衣類・布製品の消毒方法

 衣類や布製品にもウイルスは付着しますが、表面が滑らかではありませんので拭き掃除をするわけにはいきません。またエタノールにしても次亜塩素酸ナトリウムにしても、呼吸器からの吸引によって体調不良に陥る危険性や、ウイルスの舞い上がりを逆に招いてしまう危険性があるため、スプレーなどで噴霧することは禁じられています。
 消去法で残るのは水流によってウイルスを物理的に除去するという方法です。要するに、手指消毒の最善策が手洗いだったのと同様、速やかに洗濯してしまうということです。ノロウイルスの感染防止マニュアルでは85℃で1分間以上の熱水洗濯が理想とされています。熱水洗濯が行える洗濯機がない場合は、次亜塩素酸ナトリウム液(0.05~0.1%)に10分程度浸けることでも代用可能です。ただし次亜塩素酸ナトリウムには漂白作用がありますので、色落ちにご注意ください。洗濯後は高温の衣類乾燥機などを使うと消毒効果がさらに高まるとされています。厚生労働省はウイルス汚染が疑われる布製品に関し「一般的な家庭用洗剤を使用した洗濯機を使用して洗濯し完全に乾かす」としていますので、最悪のケースでは通常の洗濯でも物理的に除去できるでしょう。 厚生労働省・ノロウイルスに関するQ&A 新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項 高齢者介護施設における感染対策マニュアル・改訂版  なお粘着テープ(いわゆるコロコロ)は衣類についたゴミを取るためのもので、細菌やウイルスなど超ミクロな生物を除去することはできません。また市販の除菌スプレーは法的な規制がゆるいため、多くの場合含有成分が記載されていません。大量に噴霧しても効果は不明ですし、香料の臭いがいわゆる「香害」となり人も犬も具合が悪くなる危険性があります。 ファブリーズの成分一覧 NEXT:ペットの被毛の消毒方法

ペットの被毛の消毒方法

 新型コロナウイルスの犬に対する感染性は現在検証が進められていますが、世界中で数百万人の人間がウイルスに感染しているのに対し、犬における感染例は数えるほどしかありません。こうした事実から考え、新型コロナウイルスは人に特異的に感染して病原性を発揮すると考えるのが妥当でしょう。
 とはいえ、人間のくしゃみや咳に伴って体外に排出されたしぶき(飛沫)が犬の被毛に付着してしまう危険性は否定できませんので、飼い主としては対策が必要となってきます。 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は猫にも感染するのか?

散歩時は人混みを避ける

 散歩を楽しみにしている犬に外出自粛を強いるのは酷ですので、代わりに人通りが少ない時間帯やルートを選ぶようにします。また「俺コロナおじさん」のように悪ふざけで犬を触ってくる人がいるかも知れません。ソーシャルディスタンスを保ち、容易に近づけないようにすれば感染リスクを避けられるでしょう。 犬の散歩の仕方・完全ガイド

帰宅したら足を拭く

 飼い主からのルートを除くと、犬が新型コロナウイルスと接触する機会は屋外の地面に限られます。使い捨ての散歩用靴下を常備していない場合は、代わりの手段として散歩から帰って家に入る前の段階で足を念入りに拭くようにします。
 理想は人間の手指消毒と同じように流水を使って念入りに足裏~足先を洗うことです。水が苦手な場合はウエットティッシュなどを使って丁寧に拭いてあげます。またお風呂や台所掃除に使う洗剤は臭いがきついですが、有効成分を含む食器用洗剤なら希釈して使えばそれほど不快な匂いを発しません。規定の濃度に薄めた上で足裏を拭き、水拭き→乾拭きしてあげれば効果的にコロナウイルスを除去できます。食器用ですので、口から摂取したときの安全性も他の洗剤に比べて高くなっています。「有効成分名+食器用洗剤」などで検索してみてください。
 ちなみに市販の除菌スプレーや除菌シートは多くの場合、成分の含有量を表示していません。またそもそも菌とウイルスは別物で、新型コロナウイルスの消毒に有効かどうかはわかりませんので、使わない方が無難です。

お風呂・シャンプー

 どんなに犬をウイルスから遮断しても、飼い主が外からうっかりウイルスを屋内に持ち込んでしまうかもしれません。基本的には上で紹介したような対策を行うことで消毒や不活化に努めますが、何かの拍子に犬の体表にウイルスが付着してしまうこともあるでしょう。
 体表汚染が疑わしい場合は、次善策として犬をお風呂にいれます。ただしあまりにも頻繁なシャンプーはストレスの原因になってしまいますので注意が必要です。明確な基準を示すことは難しいですが、月2回程度にとどめておいた方が無難でしょう。なおグルーミングサロンに行くという行為自体がウイルスとの接触機会を増やしてしまう危険性がありますので、お家の中でお風呂に入れたほうが安全です。 犬のシャンプーのやり方・完全ガイド
🚨下のセクションでも解説している通り、アルコール(エタノール)、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水、界面活性剤には大なり小なり毒性がありますので、犬の被毛を消毒成分で拭くという行為はお控えください。体表面を直接なめたり、体表からカーペットや床に移行した成分をなめることで、思わぬ中毒症状を示す危険性があります。
NEXT:消毒成分の安全性・危険性

消毒成分の安全性・危険性

 新型コロナウイルスに対して消毒作用を持つ成分は色々ありますが、使い方や使用量を間違えると、時として人間やペット動物の健康に悪影響を及ぼしてしまう危険性があります。以下でご紹介するのは上のセクションで登場した消毒成分に関する安全性(毒性)に関するデータです。出典付きですので、気になるものがあったらリンク先をたどって更に詳しい情報を調べてみてください。なおエアコンを始めとした家電製品を自分で掃除することによる火災事故が報告されていますので十分ご注意ください。

エタノールの安全性

 エタノール(ethanol, エチルアルコール)は揮発性で無色透明なアルコールの一種です。細菌などに対する殺菌作用をもつほか、エンベロープをもつウイルスに対しても濃度依存性に抗ウイルス作用を示します。
 人間が経口摂取したときの最小中毒量は体重1kg当たり700mg、最小致死量(吸入暴露以外の経路で摂取して死に至った時点における投与量の最小値)は体重1kg当たり1,400mgと推計されています。またラットにおける半数致死量(LD50)は体重1kg当たり6,200~17,800mgです。
 犬における95%エチルアルコールによる半数致死量(LD50/摂取から12~24時間)は体重1kg当たり5.5~6.5mLとされています。この値を100%エタノールに換算すると体重1kg当たり4.1~4.9g、70%エタノールに換算すると体重1kg当たり5.86~7gです。市販の70%エタノール消毒液では1回のポンププッシュでおよそ1mLが出ますので、体重1kg当たり6~7回分の量を一度に経口摂取するとかなり危険ということになります。
 体重10kgの場合は60~70回分ですので、ポンプが破損して中身が全部出てしまったものをベロベロなめるとか、バカな飼い主が犬の体に大量のエタノール消毒液を塗りたくるなどの状況があると、致死的な中毒に陥る危険性があります。 Acute alcohol intoxication in a dog 職場のあんぜんサイト「エタノール」 製品安全データシート「アルコール」

次亜塩素酸ナトリウムの安全性

 次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ)は上水道やプールの殺菌に使用されている塩素含有化合物の一種です。家庭用製品では塩素系漂白剤や殺菌剤にも含まれています。日本国内においては1950年に指定添加物に認定されており、ごま以外の食品であれば使用量の最大限度は設けられていません。動物における毒性は以下で、LD50は投与された個体群のうち半数が死ぬ値のことを意味しています。
次亜塩素酸ナトリウムの毒性
  • 急性毒性有効塩素12.5%溶液を経口摂取した場合のラットにおけるLD50は体重1kg当たり8.8g。100%の純品を経口摂取した場合のマウスにおけるLD50は体重1kg当たり5,800mg。
  • 経皮毒性皮膚を通じて経皮的に吸収した場合のウサギにおけるLD50は体重1kg当たり10,000mg(10g)超。
  • 慢性毒性飲み水を通し体重1kg当たり1日58~200mgを3ヶ月~2年間摂取し続けたラットにおける試験では、体重増加の抑制が見られたが病理検査では異常が認められなかった。
  • 発がん性ラットを対象として体重1kg当たり1日500~2,000mgを104週間、マウスを対象として500~1,000mgを103週間投与したところ、濃度に反比例する形で体重増加率が減少したものの、生存率や腫瘍の発生率については非給餌群と有意差がなかった。
 次亜塩素酸ナトリウムは皮膚に対する刺激性が強く、5%超で重度の刺激性、10%超で腐食性を示すとされています。長時間接触していると皮膚炎や湿疹を起こしたり、目に入ると角膜表面が侵食される危険性があります。また霧状のミストを吸入すると気道粘膜が刺激され、しわがれ声、咽頭部の灼熱感、疼痛、激しい咳、肺浮腫を生ずる危険性があります。 添加物評価書「次亜塩素酸水」 職場のあんぜんサイト「次亜塩素酸ナトリウム」 AGC「次亜塩素酸ソーダ安全データシート」

次亜塩素酸水の安全性

 次亜塩素酸水(電解水)は10~80ppmの有効塩素濃度を持つ酸性電解水のことです。日本国内において2002年6月に指定添加物に認定されています。成分規格は強酸性次亜塩素酸水(有効塩素20~60mg/kg・pH2.7以下)、弱酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度10~60mg/kg・pH 2.7~5.0)、微酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度50~80mg/kg・pH5.0~6.5)です。
 食品添加物として使用量の最大限度はありませんが、使用基準として「次亜塩素酸水は、最終食品の完成前に除去しなければならない」とされています。要するに食品添加物ではあれど口に入れることを想定していないということです。
 参考までにラットにおける毒性を以下に示します。LD50とは投与された個体群のうち半数が死ぬ値のことです。
強酸性次亜塩素酸水の毒性
  • 急性毒性経口摂取時のラットLD50は体重1kg当たり20~54mL超
  • 亜急性毒性(28日間)ラットを対象とした28日間の亜急性毒性試験では、体重1kg当たり1日109~118gを摂取したところ肝酵素値の上昇(オスメス)やトリグリセリド 濃度上昇(オス)、総コレステロール濃度減少(メス)、トロンボプラスチン時間延長(オス)が認められたが、いずれも軽度で関連する病理組織学的な変化はなかった
  • 亜急性毒性(90日間)ラットを対象とした90日間の亜急性毒性試験では、体重1kg当たり1日15~30mLを摂取したところ口腔粘膜や舌の角質層に肥厚化が認められた
微酸性次亜塩素酸水の毒性
  • 急性毒性経口摂取時のラットにおけるLD50は体重1kg当たり40mL超
  • 亜急性毒性(90日間)ラットを対象とした90日間の亜急性毒性試験では、メスの胸腺の重量増加が認められたが、関連する病理組織学的変化は伴っていかなかった。メスの平均赤血球容積減少および総白血球数の増加が認められたものの変化は軽微で、毒性はないと考えられる
 2002年6月に食品添加物として指定されて以降、次亜塩素酸水の安全性に関して問題となるような知見が得られていないことから、使用後にしっかり除去しさえすれば安全性に懸念がないと考えられています。 添加物評価書「次亜塩素酸水」 亜塩素酸ナトリウムの使用基準について 特定農薬評価書「電解次亜塩素酸水」

界面活性剤の安全性

 界面活性剤とは物質と物質が境界を接する面に作用して、性質を変化させる物質の総称です。2020年5月、界面活性剤のうちのいくつかが新型コロナウイルスに対する不活化作用を有していることが明らかになったことから、家庭内における消毒方法の選択肢が大幅に増えました。以下はNITE(製品評価技術基盤機構)が発表したウイルスに有効な界面活性剤の安全性と毒性に関する情報です。

直鎖アルキルベンゼンスルホン酸

 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)は、主として衣料用洗剤に配合される陰イオン性界面活性剤の一種です。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムという形で濃度0.1%以上のときに新型コロナウイルスをほぼ100%消毒できるとされています。
 LASを食事や飲み水を通じて体内に取んだ場合、消化管で速やかに吸収された後、血液を介して全身を巡ります。血中濃度は摂取後2~4時間で最大となり、48時間後にはほとんどゼロとなります。消化管から吸収されたLASは多くの器官に分布しますが、特定の器官や組織に蓄積するという現象は確認されておらず、胆汁とともに腸に分泌されるほか、大部分は肝臓の代謝を受けた後で腎臓に運ばれ、およそ7日後には99%が尿中に排泄されます。
 以下は動物におけるLASの毒性です。LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)、NOELは何の影響も見られない最大投与量、NOAELは有害反応が見られない最大投与量のことを意味しています。
LASの毒性
  • 経口急性毒性✓マウスのLD50:体重1kg当たり1,665~3,400mg
    ✓ラットのLD50:体重1kg当たり404~1,900mg
  • 眼刺激性0.05%溶液で3時間以内に結膜、眼粘膜に軽度の充血、流涙が見られ、0.1%溶液で2時間以内に粘膜浮腫が見られることからNOELは0.01%
  • 経口慢性毒性✓ラットを対象とし、体重1kg当たり1日50~250mgのLASを12週間に渡って摂取した試験結果から、メスにおけるNOAELが体重1kg当たり1日50mg、オスにおけるNOAELが250mg
    ✓ラットを対象とし、体重1kg当たり1日37~913mgのLASを26週間に渡って摂取した試験結果から、NOAELは体重1kg当たり1日37.2mg
    ✓ラットを対象とし、体重1kg当たり1日75~300mgのLASを26週間に渡って摂取した試験結果から、NOAELは体重1kg当たり1日150mg
  • 経皮毒性✓ラットを対象とし、1匹あたり0.5~5mgのLASを経皮的に吸収させた試験結果から、NOAELは1匹あたり5mg
    ✓ラットを対象とし週に3回LASを塗布し、翌日にぬるま湯でふき取るという実験を2年間に渡って行った結果からNOAELは体重1kg当たり57mg
 LASには揮発性がありませんので空気中にただよった分子を吸入してしまう可能性はありません。その一方、皮膚表面には付着した場合、24時間経ってもほとんどがその場にとどまり続けます。皮膚からの吸収率は24時間で約0.03%とかなり低いものの、1%水溶液では指間に手荒れを生ずるとされていますので注意が必要です。なお適正濃度とされる0.04%であれば人に皮膚に影響はなく、0.09%までは皮膚感作性を示さないとされています。 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩・有害性評価書

アルキルグリコシド

 アルキルグリコシドは主に台所用洗剤に用いられる非イオン系界面活性剤の一種です。デシルグリコシドやドデシルグリコシドといった物質が含まれ、濃度0.1%以上のときに新型コロナウイルスをほぼ100%消毒できるとされています。
 以下は動物におけるアルキルグリコシドの毒性です。LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)のことを意味しています。
アルキルグリコシドの毒性
  • 経口急性毒性ラットLD50:体重1kg当たり2,000~5,000mg
  • 経口慢性毒性ラットLD50:体重1kg当たり1日1,000mg
  • 経皮急性毒性ウサギLD50:体重1kg当たり2,000mg超
  • 皮膚刺激性濃度が30%を超えると紅斑や浮腫などの有害反応が出る。鎖長が大きくなるにつれ刺激性は高まる
NITE・家庭用洗剤 Surfactant Science Book 91, Nonionic Surfactants: Alkyl Polyglucosides

アルキルアミンオキシド

 アルキルアミンオキシドは起泡力や洗浄性を高めるため、台所用洗剤等の液体洗剤に配合されている両性界面活性剤の一種です。アミンオキシドとは一般構造式が「R3N=O」と表記される化合物の総称で、長鎖アルキル基を持つアミンオキシドがアルキルアミンオキシドと呼ばれ、濃度0.05%以上のときに新型コロナウイルスをほぼ100%消毒できるとされています。
 以下は動物におけるアルキルアミンオキシドの毒性です。「C数字」は化学式の「R」の部分に含まれる炭素原子(C)の数、LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)、NOAELは有害反応が見られない最大投与量のことを意味しています。
アルキルアミンオキシドの毒性
  • 経口急性毒性(C12)✓マウスLD50:体重1kg当たり2,146~2,700 mg
    ✓ラットLD50:体重1kg当たり1,267 mg
  • 経口急性毒性(C10~18)ラットLD50:体重1kg当たり846~3,873mg
  • 経口慢性毒性(C10~16)✓ラット(オス91日間)NOAEL:体重1kg当たり1日63mg
    ✓ラット(メス91日間)NOAEL:体重1kg当たり1日80mg
    ✓ラット(オス104週間)NOAEL:体重1kg当たり1日42.3mg
    ✓ラット(メス104週間)NOAEL:体重1kg当たり1日52.6mg
  • 経皮急性毒性(C10~16)体重1kg当たり2mL(アミンオキシド520mgに相当)の投与で動物の死亡は認められなかった
  • 皮膚刺激性(C12)ウサギの皮膚に2mgを24 時間適用した結果、強度の刺激性がある
  • 眼刺激性C12の1%溶液で強度の刺激性がある。アルキル鎖長の異なる各種アミンオキシドについては1%では刺激性が認められず、5%で中等度の刺激性が見られる
化学物質の環境リスク評価 アミンオキシドのヒト健康影響と環境影響に関するリスク評価結果について

塩化ベンザルコニウム

 塩化ベンザルコニウムは第4級アンモニア化合物(QUAT)に属する陽イオン系界面活性剤の一種です。ベンジルジメチルアンモニウムクロリドとも呼ばれます。グラム陽性・陰性菌、芽胞のない細菌、カビ類といった真菌類に対して殺菌作用を有するほか、濃度0.05%以上のときに新型コロナウイルスをほぼ100%消毒できるとされています。
 以下は動物における塩化ベンザルコニウムの毒性です。LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)のことを意味しています。
塩化ベンザルコニウムの毒性
  • 経口急性毒性ラットLD50:体重1kg当たり240~250mg
  • 経皮急性毒性ラットLD50:765~1,560 mg
  • 皮膚刺激性10%以上の濃溶液は皮膚に対して腐食性または強い刺激性を示す
  • 眼刺激性10%溶液を結膜嚢に0.1mL適用した結果、全ての動物に角膜、虹彩、結膜への重度の障害が生じ、角膜混濁と虹彩炎は観察期間終了の21日目まで持続した
  • 感作性呼吸器からの長期間な吸引により職業性喘息を発症することがあったり、皮膚接触によりアレルギー性結膜炎を発症したという報告がある
職場のあんぜんサイト「塩化ベンザルコニウム」 NITE「塩化ベンザルコニウム」

ポリオキシエチレンアルキルエーテル

 ポリオキシエチレンアルキルエーテルは非イオン系界面活性剤の一種です。家庭用製品では台所用洗剤や洗濯用洗剤として、業務用製品では化粧品のクリームやローションの乳化剤、農薬の補助剤、医薬品の乳化剤などとして利用されています。
 以下は動物におけるポリオキシエチレンアルキルエーテルの毒性です。LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)のこと、NOAELは有害反応が見られない最大投与量のことを意味しています。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの毒性
  • 経口急性毒性✓ラットLD50:体重1kg当たり544~9,800mg
    ✓マウスLD50:体重1kg当たり1,170~7,600mg
    ✓ウサギLD50:体重1kg当たり710~1,180mg
  • 経口慢性毒性ラットNOAEL(104週間):体重1kg当たり1日500mg
  • 経皮慢性毒性ウサギNOAEL(13週間):体重1kg当たり1日50mg
  • 皮膚・眼刺激性0.1%以下の濃度では刺激性は無刺激から軽微
  • 感作性皮膚感作性はないが、長期間空気と接すると徐々に酸化され、感作性を示すアルデヒド化合物やホルムアルデヒドを生ずる可能性がある
化学物質の環境リスク評価 化学物質の初期リスク評価書 NITE「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」

塩化ベンゼトニウム

 塩化ベンゼトニウムは陽イオン界面活性剤の一種。逆性石鹸の一種で第4級アシモニウム化合物(QUAT)などとも呼ばれます。0.1%で手指や医療機材、0.02%で結膜嚢、0.01%で感染皮膚面の消毒に用いられるほか、濃度0.05%以上のときに新型コロナウイルスをほぼ100%消毒できるとされています。
 以下は動物における塩化ベンゼトニウムの毒性です。LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)のことを意味しています。
塩化ベンゼトニウムの毒性
  • 経口急性毒性ラットLD50:体重1kg当たり368~665mg
  • 経皮急性毒性マウスLD50:280mg
  • 皮膚刺激性5%以上の濃度では皮膚に刺激性を引き起こす可能性がある
  • 眼刺激性0.03%で刺激性があり、適用7日後に角膜と虹彩に障害を生じない最大耐性濃度は0.5%溶液で0.1mL
  • 感作性軽度の刺激性があるものの感作性はない
職場のあんぜんサイト「塩化ベンゼトニウム」 FUJIFILM安全データシート

塩化ジアルキルジメチルアンモニウム

 塩化ジアルキルジメチルアンモニウムは陽イオン系界面活性剤として用いられる第4級アシモニウム化合物(QUAT)の一種。国立感染症研究所での検証試験では、新型コロナウイルスに対して0.01%で40秒という条件で使ったときに99.9%以上の感染価減少率が確認されたといいます。
 以下は動物における塩化ジアルキルジメチルアンモニウムの毒性です。LD50は投与された個体群の半数が死んでしまう量(半数致死量)のことを意味しています。 日本シーマ・安全データシート
塩化ジアルキルジメチルアンモニウムの毒性
  • 経口急性毒性ラットLD50:体重1kg当たり2,000mg
  • 経皮急性毒性ラットLD50:2,000mg超
  • 皮膚刺激性ウサギで弱い刺激性
  • 眼刺激性ウサギで重度の損傷が見られた
  • 感作性モルモットではなし
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