犬の腸内細菌と不安障害
調査を行ったのはイタリア・ボローニャ大学のチーム。ボローニャにある動物保護施設に収容された犬たち(オス23頭 | 年齢・犬種・体重バラバラ)を獣医行動診療学の専門医が診察し、「攻撃的」(11頭=うなる・歯をむき出す・噛む)、「病的な怖がり」(13頭=永続的な緊張状態・パニック)、「健常」(18頭)のいずれかに分類した上で、便中に含まれる腸内細菌叢と犬の気質とが一体どのような関係性にあるのかを解析しました。またストレスと関係が深いとされているホルモンの一種コルチゾール、および攻撃的な行動と関係が深いとされているテストステロン(男性ホルモン)濃度も合わせて計測されました。
その結果、コルチゾールレベルやテストステロンレベルおよびテストステロン/コルチゾール比率(T/C比率)にグループ間の格差は見られなかったといいます。一方、統計的に有意なレベルで多いと判定されたのは以下の腸内細菌です。
Mondo E, Barone M, Soverini M, et al.. Heliyon. 2020;6(1):e03311. Published 2020 Jan 29. doi:10.1016/j.heliyon.2020.e03311
その結果、コルチゾールレベルやテストステロンレベルおよびテストステロン/コルチゾール比率(T/C比率)にグループ間の格差は見られなかったといいます。一方、統計的に有意なレベルで多いと判定されたのは以下の腸内細菌です。
攻撃的なグループ
- 操作的分類単位(OTU)
- ドレア(Dorea)
- ブラウティア(Blautia)
- コリンセラ(Collinsella)
- ルミノコッカス属(Ruminococcus)
- スラッキア(Slackia)
- カテニバクテリウム(Catenibacterium)
- メガモナス(Megamonas)
病的な怖がりのグループ
- ラクトバチルス(Lactobacillus)
健康なグループ
- フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)
- バクテロイデス(Bacteroides)
- ファスコラークトバクテリウム(Phascolarctobacterium)
- フソバクテリウム(Fusobacterium)
- プレボテラ(Prevotella)
Mondo E, Barone M, Soverini M, et al.. Heliyon. 2020;6(1):e03311. Published 2020 Jan 29. doi:10.1016/j.heliyon.2020.e03311
おなかと頭を結ぶ腸脳軸仮説
腸内細菌の種類は多く、菌株まで含めるとその数は膨大です。プロバイオティクスやプレバイオティクスが数多く市販されていますが、「○○を与えたら犬の行動が変わる!」という明白な因果関係は証明されていません。
腸脳軸仮説とは?
近年、哺乳動物の腸内細菌叢が宿主の中枢神経系と交信できるとする「腸脳軸」(gut-brain axis)という仮説が提唱されています。これは腸内細菌叢(フローラ)が神経活性物質(GABA, セロトニン, ノルエピネフリン, ドーパミン)を産生し、迷走神経や複数のチャネル(神経免疫シグナリング機構や神経内分泌シグナリング機構)を通じて中枢神経に働きかけるというものです。また中枢神経が自律神経系を通じて腸内の運動性、分泌様式、透過性を変化させ、細菌叢の構成比率や代謝産物を変化させるという逆向きの働きかけも含まれます。
例えばアメリカ・オレゴン州立大学の調査チームが違法闘犬の現場から保護されたピットブルタイプの犬を対象とした腸内細菌叢検査を行ったところ、他の犬に対して攻撃的な態度を見せない穏やかな10頭と比較し、攻撃的な21頭の細菌叢ではラクトバチルス、ドレラ、ブラウティア、ツリシバクター、バクテロイデスに明白な違いが見られたとされています(:Kirchoff, 2019)。チームによると、こうした行動特性の違いは腸内細菌叢の違いを反映したものではないかとのこと。
例えばアメリカ・オレゴン州立大学の調査チームが違法闘犬の現場から保護されたピットブルタイプの犬を対象とした腸内細菌叢検査を行ったところ、他の犬に対して攻撃的な態度を見せない穏やかな10頭と比較し、攻撃的な21頭の細菌叢ではラクトバチルス、ドレラ、ブラウティア、ツリシバクター、バクテロイデスに明白な違いが見られたとされています(:Kirchoff, 2019)。チームによると、こうした行動特性の違いは腸内細菌叢の違いを反映したものではないかとのこと。
問題行動と食事療法
腸脳軸は興味深い仮説ですが、まだまだ不明な部分もたくさん残されています。例えば上で紹介した闘犬を対象とした調査では、他の犬に攻撃的な行動を見せる犬たちの腸内でラクトバチルス(乳酸桿菌)が豊富に検出されたとされています。一方、マウスにおいてはラクトバチルス(菌株rhamnosus)がGABAを産生し、迷走神経を通じて中枢神経系に対して抑制的に働くとされています。また当調査内では病的な恐怖症を抱えた犬の腸内で多く検出されました。現時点では特定の腸内細菌と行動との因果関係は証明されていませんので、食事を介して問題行動を改善するという方法論が確立するのはまだまだ先の話でしょう。
ちなみに攻撃行動の履歴を持つジャーマンシェパード18頭と問題行動の履歴がない犬18頭を対象とし、血漿中の多価不飽和脂肪酸濃度を計測した結果、攻撃的な犬においてはドコサヘキサエン酸、コレステロール、ビリルビン濃度の低下のほか、オメガ6/オメガ3比率の上昇という特徴が確認されたと報告されています。体内におけるオメガ3脂肪酸の減少がセロトニンレベルの減少につながり、結果として攻撃性が上昇したのではないかと推測されています(:Re S, 2008)。
この報告では腸内細菌叢についての言及が一切ありませんが、ひょっとするとオメガ3脂肪酸とセロトニンとの間に仲介者として関わっている可能性も十分あるでしょう。
ちなみに攻撃行動の履歴を持つジャーマンシェパード18頭と問題行動の履歴がない犬18頭を対象とし、血漿中の多価不飽和脂肪酸濃度を計測した結果、攻撃的な犬においてはドコサヘキサエン酸、コレステロール、ビリルビン濃度の低下のほか、オメガ6/オメガ3比率の上昇という特徴が確認されたと報告されています。体内におけるオメガ3脂肪酸の減少がセロトニンレベルの減少につながり、結果として攻撃性が上昇したのではないかと推測されています(:Re S, 2008)。
この報告では腸内細菌叢についての言及が一切ありませんが、ひょっとするとオメガ3脂肪酸とセロトニンとの間に仲介者として関わっている可能性も十分あるでしょう。
犬の腸内細菌やディスビオーシス(腸内毒素症)については「犬の腸内細菌・最新情報」で詳しく解説してあります。