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犬の偽妊娠(想像妊娠)~原因・症状から対策・治療法まで

 メス犬が妊娠していないにも関わらず、あたかも妊娠しているかのように振る舞う偽妊娠(想像妊娠)。避妊手術を行っていないメスのおよそ半数で見られるこの症状はいつまで続くのでしょうか?また効果的な対策や治療法はあるのでしょうか?

犬の偽妊娠(想像妊娠)とは?

 メス犬の偽妊娠(想像妊娠, pseudopregnancy)とは、実際には妊娠していないにもかかわらず、子を身ごもっていたり、すでに出産をしたかのような行動を取ることです。体内を循環するホルモンの一種であるプロゲステロンの減少とプロラクチンの増加が原因で引き起こされると考えられており、アフガンハウンド、ビーグル、ボクサー、ダックスフントといった犬種においては、避妊手術を終えていない場合50~75%の割合で偽妊娠の症状を示すと報告されています。偽妊娠(想像妊娠)に入った犬はおもちゃやぬいぐるみを子犬のようにいたわるようになる  時期的には発情期から6~12週後のタイミングで現れ、以下のような行動的・生理学的な変化を見せるようになります出典資料:L.K.Singh, 2018)
犬の偽妊娠の症状
  • 母性に関連した行動変化落ち着きがなくなる・乳腺をなめる・食欲不振(ご飯を食べない)・活動性の低下(元気がない)・攻撃性の上昇(近づく人にうなるなど凶暴に振る舞う)・営巣行動(巣作り)・非生物(ぬいぐるみやおもちゃ)を我が子のようにいたわる
  • 妊娠に関連した生理学的な変化体重増加・乳腺肥大(しこり)・泌乳(母乳分泌)・腹筋の収縮
  • その他(まれ)多尿・多食・下痢・嘔吐(食べたものを吐く)
 犬の偽妊娠は血液検査によってプロゲステロンやプロラクチンなどの血清ホルモンレベルを調べても正確な診断はできません。一般的な見分け方は飼い主への問診(妊娠の可能性があったかどうか)や腹部触診、超音波検査、レントゲン検査などです。
 症状がひどい場合は「顕性の偽妊娠」や「病的な偽妊娠」などとも呼ばれ、乳腺炎乳がん子宮蓄膿症を発症するリスクが高まります。
 最も簡便な対処法はエリザベスカラーで腹部をなめないようにすることです。軽症の場合は1~3週間で発情休止期に入り自然消滅します。薬を用いた治療法では、性腺ステロイドによって下垂体からのプロラクチン分泌を抑えたり、プロラクチン抑制剤を投与することで症状の緩和を図ります。ただし前者は副作用が強いため、実際に処方されることはほとんどありません。 軽症の偽妊娠(想像妊娠)ではエリザベスカラー乳房をなめたり噛んだりできないようにする  永続的な効果を持つ治療法は子宮卵巣切除術によって、5~12ヶ月からなる発情周期(発情前期→発情期→発情後期→発情休止期)自体をなくすことです。ただしメス犬が発情後期あるタイミングで避妊手術を行うと、逆にプロラクチンレベルが上がって症状が悪化する危険性があります。手術を延期して発情休止期まで待つのはそのためです。

偽妊娠(想像妊娠)の疫学・英国編

 メス犬が偽妊娠の症状を示した場合、放置するといつまで続くのでしょうか?また薬を投与した場合、症状が消えるまでにどのくらいの期間を要するのでしょうか?スコットランド・グラスゴー大学の調査チームは2015年10月、英国内にある一次診療施設の獣医師397人にアンケートを行い、一体どのくらいの頻度で偽妊娠に遭遇するかを調べました。
Canine pseudopregnancy: an evaluation of prevalence and current treatment protocols in the UK
Root AL, Parkin TD, Hutchison P, Warnes C, Yam PS.. BMC Vet Res. 2018;14(1):170. Published 2018 May 24. doi:10.1186/s12917-018-1493-1img src="https://www.koinuno-heya.com/images/cc-by.png">

偽妊娠の頻度

 調査の結果、96%もの獣医師が過去12ヶ月で最低1件の偽妊娠に出くわしたと言います。またすでに避妊手術を終えたメス犬に限定したところ、49%の獣医師が避妊後の偽妊娠を確認したとも。ただし、「しょっちゅう」が1%、「ときどき」が7%で、「まれに」が41%と大部分を占めていました。

よくある症状

 「しょっちゅう目にする身体症状」に限定したところ、泌乳(乳腺から母乳が出る状態)の有無を問わず「乳腺の肥大」が90%、食欲不振が22%、体重増加が2%でした。また「ときどき目にする身体症状」に限定したところ、食欲不振が57%、体重増加が26%、嘔吐が10%という結果になりました。
 「しょっちゅう目にする行動の変化」に限定したところ、おもちゃやぬいぐるみを可愛がる母性行動が65%、巣作り・営巣行動が63%、活動性の減少が23%でした。また「ときどき目にする行動の変化」に限定したところ、活動性の増加が48%、攻撃性の増加が45%、活動性の減少が43%という結果になりました。

偽妊娠の対策・治療

 治療に関しては、何もせず症状が収まるのを待つという待機策が52%、プロラクチン阻害薬の投与が44%、その他が3%という割合を占めていました。
 プロラクチン阻害剤の投与期間は平均5.7日(中央値で5日)で、68%では複数回の処方を要したといいます。また最長日数に限定した場合、行動と生理学的な変化の両方が消えるまでに要した期間の平均は13日でした。
 行動が消えるまでに要した最長期間は42日、生理学的変化が消えるまで要した最長期間は90日だったとも。
偽妊娠を繰り返すと乳腺炎乳がん子宮蓄膿症を発症するリスクが高まります。心配な方は避妊手術(子宮卵巣切除術)をご検討下さい。