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犬のキシリトール中毒~原因・症状から治療・予防法まで

 砂糖の代用品として広く用いられている人工甘味料「キシリトール」。人間に対してはほぼ無害ですが、犬に対してはなぜか非常に強い毒性を発揮し、時として死亡事故が起こってしまいます。原因や予防法を見てみましょう。

キシリトールとは?

 キシリトール(xylitol, キシリット)は1891年ドイツの科学者エミール・フィッシャーによって発見された五炭糖アルコールの一種。天然のベリー、レタス、マッシュルームなどに含まれているほか、人工甘味料として非常にたくさんの商品に用いられています。 キシリトール(xylitol)の分子構造と代表的な含有食品  キシリトールはカロリーが砂糖(ショ糖)の3分の2程度であることやケトン体生成阻止効果があることから、糖尿病患者の効果的な栄養源として使用されます。また糖尿病とは無関係に、「低炭水化物食」(Atkins diet)を信奉している一部の人たちが好むことでも有名です。
 さらに虫歯の原因菌の栄養素とならず、歯を削り取る酸の生成が起こらないという特徴から、砂糖の代用品として非常に多くの食品に用いられています。日本国内においては厚生労働省によって指定添加物の「甘味料」として認められており、キシリトールを関与成分として特定保健用食品に「歯を丈夫に保つ」と表示することが許可されています。

キシリトール中毒の原因

 キシリトールは完全に安全というわけではなく、動物種によってさまざまな毒性が報告されています。
 例えばマウスにおける半数致死量(LD50)は20g/kg、ウサギにおけるそれは4~6g/kgと推定されています。また人間においては1日130g(体重50kgの場合2.6g/kg)摂取しても下痢になるだけで、その他の症状は現れないとされています。
 一方、犬においてはなぜか強い有毒性を発揮し、わずか0.1mg/kgを経口摂取するだけで低血糖が引き起こされることが確認されています。また摂取量が0.5mg/kgに増えると肝毒性が強まり、肝臓に障害が発生すると報告されています。ただし4mg/kg摂取しても重症には至らなかったという極端なケースも報告されているため、おそらく個体差や体質の問題もあるのでしょう。
 キシリトールがなぜ犬にだけ強い毒性を発揮するのかに関してはよくわかっていません。犬の体内においては摂取したキシリトールの80%が肝臓で処理され、ペントースリン酸経路によりグルコースや乳酸へと代謝されます。おそらくこの代謝過程のどこかでアデノシン三リン酸(エネルギー源)が大量に消費され、肝細胞の死を招くのではないかと推測されています。

キシリトール中毒の症状

 犬が誤飲誤食したキシリトールは腸管から急速に吸収され、20分でインシュリンレベルが上昇を始めます。30分後にはインシュリンの作用によって血糖値が下がり始め、40分後に分泌量がピークを迎えます。低血糖が最低値になるのは60分後です。しかし24~48時間経過してから低血糖症状に陥る遅延性のケースも報告されています。
 キシリトール中毒に陥った犬の示す代表的な症状は以下です。
犬のキシリトール中毒・肉眼で確認できる主症状
  • 沈うつ状態
  • 元気喪失
  • 衰弱
  • 運動失調
  • 嘔吐
  • 低カリウム血症
  • ひきつけ発作
  • 昏睡
  • 死亡
 肉眼で確認できる変化のほか、動物病院での検査では以下に示すような異常が見られるようになります。一般的に1~4mg/kgの経口摂取で発症するとされていますが個体差があります。
犬のキシリトール中毒・検査値に現れる異常
  • 低血糖キシリトールによって膵臓から大量のインシュリンが分泌され、血中の糖分が一斉に細胞内に取り込まれます。こうして生じるのが急性低血糖発作です。グルコース(ブドウ糖)を摂取した場合に比べキシリトールを摂取した場合の血清インシュリン濃度は最大で6倍になるとされています。しかしこの現象は犬に特有のもので、人間、ラット、ウマでは確認されていません。またウシ、ヤギ、ウサギにおいてはインシュリンの放出は確認されているものの、犬ほど顕著ではないとされています。フェレットや猫では不明です。
  • 低カリウム血症インシュリンによって細胞内にカリウムが移送されると低カリウム血症が引き起こされることがあります。
  • 溶血性貧血低血糖状態が長引くと赤血球の細胞膜を破壊し、中に含まれるビリルビンが血中に放出されて溶血性貧血を発症します。
  • 肝障害肝臓内のATP枯渇、もしくは未知のメカニズムによって肝細胞が壊死を始めます。肝酵素の上昇に代表される肝障害が現れるのは、早ければ誤飲誤食から1~2時間後、遅いものでは9~72時間後です。発症までにタイムラグがある理由は、人間と違って犬は食べ物を丸呑みするため、誤食製品からキシリトールが外に出てくるまでに時間がかかるためだと考えられています。
  • 凝血機能の異常肝細胞の壊死と肝機能の低下に伴って凝血因子(血液を固める成分)の生成が滞り、凝血機能異常(DIC)が引き起こされて体表面に点状出血を示すことがあります。

キシリトール中毒の治療

 犬の誤飲誤食したキシリトールの量が50mg/kg程度の場合は汚染物質の除去とモニタリングが必要となります。一方、誤食量が100~500mg/kgと大量の場合は肝不全を発症する危険性があるため、より積極的な治療が速やかに行われます。犬が飼い主の目の前で明らかにキシリトール含有食品を飲み込んだとか、状況から考えてキシリトール含有製品を食べたかもしれないと疑われる場合は、念のため動物病院を受診しておきましょう。
 過去のデータでは、犬が低血糖症状だけを示している場合は一般的に予後が良いようです。それに対し、肝酵素の値が上昇している場合や高リン血症を示している場合は予後が悪く、劇症肝炎を発症した場合は覚悟が必要とされています。
 犬のキシリトール中毒に対して行われる一般的な治療法は以下です。

催吐

 犬が嘔吐していない場合は催吐剤によって人為的に嘔吐を引き起こし、胃の内容物を外に出します。ただし病院を受診する30分以上前に100%キシリトール(粉など)を摂取した場合は逆に使用を避けなければなりません。理由は、腸管から急速に吸収されたキシリトールによって低血糖が引き起こされ、嘔吐の途中で運動失調やひきつけ発作を起こしてしまう危険性があるからです。
 なお活性炭はキシリトールと結合しにくく、また有効であるという報告もないため、基本的に胃洗浄は行われません。

輸液治療

 犬が100mg/kg以上の大量のキシリトールを経口摂取した場合は、症状の有無にかかわらず犬を入院させて輸液治療を行います。具体的にはデキストロース(糖分の一種)を静脈注射して低血糖改善し、肝臓への障害を予防します。また血清カリウム濃度が2.5mEq/Lを下回っている場合は輸液で補います。
 血糖値は最低24時間モニタリングして肝臓の状態を確かめなければなりません。特に500mg/kg以上のキシリトールを大量誤食したような場合は肝臓に障害が発症する危険性が高いため、慎重なモニタリングが要求されます。

キシリトールを含む製品や食品一覧

 犬のキシリトール中毒を予防する方法は飼い主がキシリトールを含んだ製品を犬に近づけないよう気をつけることです。
 2001~2011年の期間、アメリカ動物虐待防止協会が設置している「中毒コントロールセンター」に寄せられたデータを調べた所、キシリトールを含む食べ物や製品には以下のようなものがあったといいます。
キシリトールを含む食品
  • ビタミン剤
  • サプリメント(コエンザイムQ10 | カフェイン | 5ヒドロキシトリプトファン | メラトニン)
  • チョコレート
  • 焼き菓子
  • プリン
  • シロップ
  • ドライフルーツ
  • マフィン
  • カップケーキ
  • チューインガム
  • クッキー
  • ダイエットバー
  • ピーナッツバター
  • 水に溶いて飲むドリンクパウダー
キシリトールを含む製品
  • 歯磨きペースト
  • マウスジェル
  • マウススプレー
  • 赤ちゃん用のぬれナプキン
  • 錠剤
  • 顔拭きペーパー
  • 潤滑液
  • デオドラント
  • ハンド(フェイス)クリーム
  • 液状薬
  • 風邪薬
  • 舌下錠
  • 鼻スプレー
 飼い主は製品のラベルをよくチェックし、キシリトールが含まれていないことをしっかりと確認しましょう。「キシリトール」や「xylitol」という言葉の代わりに「Eutrit | Kannit | Klinit | Newtol | Xylite | Torch | Xyliton」といった言葉が用いられているかもしれません。国産でも輸入品でも怪しげな成分がある場合は、犬から遠ざけておいたほうが安全です。
犬の毒になる食物を参考にしながら危険物を犬のそばから一掃しましょう。