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犬の花火恐怖症は子犬のうちからの訓練で治るかも

 夏における犬の迷子の原因として悪名高い花火。半数近くの犬が抱えるこの「花火恐怖症」を克服するコツは、1歳になる前の早い段階でしっかりと音に慣らせておくことのようです。

犬の花火恐怖症・疫学

 スイス・ベルン大学の調査チームは、花火の爆音に対して恐怖反応を示す犬の飼い主を対象とし、犬の症状を悪化させる要因や改善させる要因が何であるかを検証しました。ここで言う「花火恐怖症」には、実際の音に対して恐れをなすこと(fear)、爆音を予期して不安に陥ること(anxiety)、そして音に対して常軌を逸した恐怖心を持続的に示すこと(phobia)のすべてが含まれます。 夏場における犬の迷子原因として花火は最も多い  イギリスとドイツに暮らす犬の飼い主にSNSなどを通じてアンケートを呼びかけたところ、最終的に1,225頭分の有効回答が得られたと言います。犬たちの基本属性は以下です。データには花火恐怖症の犬と、花火に対して恐怖を示さない犬の両方が含まれています。
元データになった犬の基本属性
  • イギリス=527頭
  • ドイツ=699頭
  • メス=588頭(避妊手術73%)
  • オス=637頭(去勢手術率67.5%)
  • 純血種=729頭
  • ミックス=485頭
 調査の結果、52.2%の犬では大なり小なり花火恐怖症が確認され、そのうちおよそ1/3は重度に区分されたといいます。また収集したデータを統計的に計算したところ、犬の花火恐怖症の予見因子となっているものとして「犬種グループ」および「年齢と健康問題」が残りました。

犬種グループ

 FCI(国際畜犬連盟)における分類法を用いて犬たちを犬種グループごとに分けていったところ、ミックス犬およびポインターにおいて重度の恐怖症が確認されました。ここで言う恐怖症の度合いとは、「花火によって犬の福祉全般が大きく損なわれているか?」という質問に対する飼い主の主観的な回答を元に導き出した中央値で、数値が大きいほど恐怖症が重度であることを意味しています(※最小1~最大5)。 FCI(国際畜犬連盟)の犬種別に見た犬の花火恐怖症の度合い  ミックス犬においてとりわけ強い恐怖症が確認された理由としては、後天的な経験が悪い方向に作用したからではないかと考えられています。例えば屋外で生まれて人工的な音にあまり接することなく育ってきた後、保護施設などを通じて家庭に引き取られたなどです。
 またポインターにおいて比較的強い恐怖症が確認された理由としては、猟犬として銃声を聞く機会が多いからだと考えられています。今回の調査では、花火恐怖症を示す犬において高い頻度で銃声もしくは雷に対する恐怖症も併せて確認されました。

年齢と健康問題

 健康面に問題がない健全な犬においては、10歳になるまで恐怖症を示す犬の割合が少しずつ増えていき、11歳を過ぎた頃から逆に減っていく傾向が確認されました。また健康面に何らかの問題を抱えた不健全な犬においては、8歳になるまで恐怖症を示す割合が少しずつ増えていき、9歳を過ぎた頃から逆に減っていくという傾向が確認されました。 犬の年齢別に見た花火恐怖症の有病率(健全組と不健全組の対比グラフ)  体に何らかの痛みを抱えた犬では騒音に対する恐怖心が強まるという傾向が確認されていますので、8歳になるまでの間、健康面に問題を抱えた犬の方がずっと高い有病率をキープしていた事実に関係しているものと推測されます。 犬の抱えている痛みが騒音恐怖症の原因になる可能性あり  9歳を過ぎ、健康面に問題がない犬と不健康な犬の有病率が逆転した理由としては、加齢によって聴力が悪化したからだと推測されています。過去に行われた調査でも、騒音恐怖症が自然に治った犬のうち、およそ半数では聴力の悪化が関係していたと報告されています。耳が悪いため聞こえる音のボリュームが小さくなり、それに連動して恐怖心も小さくなるという意味です。
Not a one-way road ? severity, progression and prevention of firework fears in dogs
Stefanie Riemer, bioRxiv, doi.org/10.1101/654301

犬の花火恐怖症の治し方

 今回の調査では「去年1年間で犬の花火に対する恐怖心がどのように変化したか?」という質問を通じ、恐怖症が改善したのか悪化したのかも併せて検証されました。 その結果、およそ2/3の犬では何らかの変化が見られたと言います。具体的には以下です。
花火恐怖症の変化
  • 大いに改善=11%
  • ある程度の改善=28%
  • 変化なし=33%
  • 悪化=18%
  • 大いに悪化=8%
 26%の犬では悪化したのに対し、39%の犬では改善を示しました。そして改善を示した犬のうち2/3では、拮抗条件付けとリラックストレーニングが採用されていたといいます。「拮抗条件付け」とは苦手な刺激(この場合は花火の音)とごほうびを結びつけることにより、それまで恐怖の対象だったことを逆に快感の合図にしてしまうことです。「リラックストレーニング」とは、飼い主の合図に応じておすわりや伏せなどの姿勢を取りリラックスした状態にさせることです。
 こうした予防策・改善策は、1歳になる前の子犬においても1歳を過ぎた成犬においてもある程度の効果を発揮したとのこと。犬の花火恐怖症が確認された年齢の中央値は1歳で、45%の犬では1歳になる以前の段階ですでに恐怖症の徴候を示していたと言います。なるべく早い段階で飼い主が介入し、子犬のうちに花火の音に慣らせておくことが重要と言えるでしょう。
 ちなみに花火に対する恐怖反応(※下記ボックス)が消えるまでの期間に関し、75%では翌日まで、12%では3~7日、3%弱では数週間~数ヶ月、そして1頭に関してはいつまでたっても回復しなかったそうです。犬の健康と福祉を損なわないためにも、花火の音に慣らせると同時に、花火大会の会場にわざわざ犬を連れて行かないといった配慮が求められます。
花火に対する恐怖反応
震える、動かなくなる(フリーズする)、呼吸が荒くなる、よだれを垂らす、姿勢を低くする、しっぽを足の間に丸め込む、隠れる、逃げる(脱走しようとする)、ヒトや同居動物との接触を避ける、うろうろ歩き回る、おもらしをする、破壊行動(自傷を伴うこともあり)
 花火恐怖症の治し方に関しては以下のページをご参照ください。具体的なサウンドサンプルも用意してありますので、ボリュームの調整がスムーズに行えるでしょう。 犬を音に慣らす訓練