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犬の外耳炎治療に軟膏を用いた場合は急性の聴覚障害に注意!

 どんな犬でもかかる危険性がある外耳炎。治療のために耳に塗布する軟膏が、犬の聴力を悪化させてしまうことがあるようです(2018.5.10/アメリカ)。

詳細

 報告を行ったのはオハイオ州立大学を中心としたチーム。急性の聴覚障害を示した4頭の犬(ジャーマンシェパード | ヨークシャーテリア | スコティッシュテリア | シェットランドシープドッグ)を詳しく調べた所、すべてのケースにおいて「外耳炎用の軟膏を塗布した」という共通項が見られたと言います。ビデオ耳鏡を用いて耳の中を調べたところ、垂直耳道に異常は見られませんでしたが、鼓膜の周辺に軟膏の残滓らしきものが確認されました。 外耳炎治療用の軟膏が鼓膜の周辺にこびりつく  検査と治療を兼ね、犬たちに全身麻酔をかけて生理食塩水で耳洗浄を行い、施術の前後で「BEAR」(聴性脳幹誘発反応検査)と呼ばれる手法を用いた聴覚検査を行ったところ、以下のような変化が見られたと言います。「dB」とはデシベルと呼ばれる音の単位で、数字が小さいほど耳の感度が良いことを意味しています。
耳洗浄前後における聴力変化
  • 洗浄前=104.6±22.5 dB
  • 洗浄後=82.4±26.2 dB
  • 平均改善度=22.3 dB
 耳洗浄前の平均が約105dBだったのに対し洗浄後の平均は約82dBで、全体的に22dBほどの改善が見られました。こうした結果から調査チームは、外耳炎の治療薬として処方された軟膏を塗布した後、急性の聴覚障害が確認された場合は、軟膏が耳道や鼓膜を閉塞することによる伝音性難聴である可能性が高いため、飼い主や獣医師は注意しておく必要があるとしています。
Conductive hearing loss in four dogs associated with the use of ointment‐based otic medications
Lynette K. Cole, Paivi. J. Rajala‐Schultz, Gwendolen Lorch, Veterinary Dermatology Volume 0, Issue 0, doi.org/10.1111/vde.12542

解説

 難聴には伝音性難聴と感音性難聴とがあります。
 前者の「伝音性難聴」は音を伝える神経は生きているけれども、音を伝える機構的な部分に不具合が生じて耳が悪くなる状態のことです。具体的な発生要因としては耳垢や異物による耳道の塞栓、アトピー性皮膚炎やアレルギーによる耳道虚脱(内腔が狭くなること)、耳管皮膚の過形成、鼓膜穿孔による中耳への液体・耳垢・粘液の侵入などが挙げられます。
 一方、後者の「感音性難聴」とは、音を伝える機構的な部分は正常だけれども、神経システムの方に不具合が生じて耳が悪くなる状態のことです。具体的な発症要因としては先天的な疾患によるコルチ器受容細胞の変質、ウイルスや薬剤によるコルチ器の変質、老化に伴う神経ネットワークの劣化(老人性難聴, presbycusis)などが挙げられます。 犬の耳に軟膏やローションを入れた後は急性聴覚障害に注意  今回の症例報告では耳洗浄の前後において聴力の著明な改善が見られましたので、鼓膜の周辺に残った軟膏を原因とする伝音性難聴だったと推測されます。
 外耳炎に際してもっぱら処方されるのは、患部に局所的に塗布するローション(水分が多い)や軟膏(水分が少ない)です。軟膏の構成成分には、菌の繁殖を抑える抗菌成分や炎症を抑えるグルココルチコイドのほか、薬剤が患部に長期的にとどまるよう添加される可塑剤や保湿剤があります。しかし可塑剤や保湿剤が耳道や鼓膜にこびりつき、音の伝わりを悪くしてしまうというケースが少なからずあるようです。
 犬に耳栓をした状態で行った「BEAR」検査では、耳栓の存在によって音に対する感度が35dBほど悪くなったとされています。当調査では耳洗浄後に22dBほどの改善が見られましたので、ちょうど耳の奥に小さな耳栓を入れていた状態に近いのかもしれません。
 外耳炎は数ある犬の病気の中でもトップ3に入るくらい発症頻度が高い病気の1つです。治療薬として軟膏を処方された場合、使い始めてから数日~数週間は、犬の聴力に悪化が見られないかどうかに意識を集中しておいたほうがよいでしょう。 犬の外耳炎