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犬が嗅ぎ分ける前立腺ガン患者の尿中バイオマーカーは「サルコシン」か

 ガン探知犬を用いた調査により、人間の前立腺ガン患者における尿中バイオマーカーが「サルコシン」である可能性が高まりました(2018.3.28/チェコ共和国)。

詳細

 調査を行ったのはチェコ共和国・マサリク大学のチーム。2016年8月から2017年5月の期間、前立腺患者の尿を嗅ぎ分けるよう訓練されたジャーマンシェパードを使い、人工尿中に含まれる「サルコシン」と呼ばれる物質の濃度を変えて段階的な嗅ぎ分けテストを行いました。
サルコシン
筋肉を始めとするヒトの体内組織に見られる天然アミノ酸の一種。コリンがグリシンへ代謝される際の中間体であり、血液や尿中にも含まれる。2009年、悪性度の高い前立腺ガン患者の尿中で著しく上昇することが確認されて以来、早期発見のバイオマーカーになるのではないかと期待されていた(→Sreekumar, 2009)。
 テストの結果、以下のようなデータを得られたと言います。「感度」とは陽性のものを正しく陽性と判定する確率、「特異度」とは陰性のものを正しく陰性と判定する確率のことです。
サルコシン濃度と嗅ぎ分け精度
  • 第1ステージサルコシン濃度=1μmol/L | 感度=85% | 特異度=92.5%
  • 第2ステージサルコシン濃度=0.1μmol/L | 感度=70% | 特異度=85%
  • 第3ステージサルコシン濃度=10.0μmol/L | 感度=90% | 特異度=95%
 探知犬は前立腺ガン患者から実際に採集した尿サンプルを嗅ぎ分けるように訓練されていますが、具体的にどのような物質を弁別の手がかりにしているのかはよくわかっていませんでした。一方今回の調査により、サルコシンの濃度に連動する形で犬の感度と特異度が上下動することが判明しました。こうした結果から調査チームは、探知犬が健常者の尿と前立腺ガン患者の尿を嗅ぎ分ける時の手がかりにしているのは「サルコシン」である可能性が高いという結論に至りました。
Identification of Sarcosine as a Target Molecule for the Canine Olfactory Detection of Prostate Carcinoma
Dalibor Pacik, Mariana Plevova et al., Scientific Reportsvolume 8, Article number: 4958 (2018), doi:10.1038/s41598-018-23072-4

解説

 前立腺ガンはアメリカと西ヨーロッパに暮らす男性において2番目に多い悪性腫瘍であり、男性の死亡原因のうち3番目に多いとされています。また2012年度に診断された患者数は110万人にのぼり、男性の腫瘍性疾患のうち15%を占めるとも。
 治療の成否は「早期発見、早期介入」にかかっていますが、現在主流になっている前立腺特異抗原(PSA)とデジタル直腸検査は必ずしも精度が高いとは言えません。その結果、健康な前立腺を「ガンの疑いがある」と誤認し(偽陽性)、不要なバイオプシーを行うことが多々あります。
 一方、2011年に特殊な訓練を積んだ犬が前立腺ガンを尿サンプルから嗅ぎ分けることができる可能性が示されて以来、様々な検証調査が行われ、高い確率でガン患者の尿を弁別できることが示されてきました。例えば感度と特異度ともに91%(Cornu, 2011)、感度93.5%と特異度91.6%(Ferlay, 2015)、感度98.6~100%と特異度97.6~98.7%(Taverna)などです。いずれも90%を超える高い精度を誇っていますが、ガン患者を特徴づけている具体的なバイオマーカーがわかっていないため、ごく少数の犬に大量の尿サンプルを嗅がせないとスクリーニングできないという難点がありました。 The dogs trained to spot cancer- BBC News 訓練を積んだ犬は90の精度で前立腺がん患者の尿を嗅ぎ分けることができる  今回の調査により、犬が前立腺ガン患者の尿中から嗅ぎ取っていたのは「サルコシン」と呼ばれる物質である可能性が高まりました。もしこの物質が本当にガン患者のバイオマーカーだとすると、尿中のサルコシン濃度を機械的に計測することによって正確かつ短時間でガン患者をスクリーニングできるようになるでしょう。 犬のガン知能力