詳細
調査を行ったのはスコットランド動物虐待防止協会(SPCA)のチーム。2017年6月から7月にかけ、もっぱらイギリス国内に暮らす犬の飼い主に対してオンラインアンケートを行い、犬の入手先と成長してからの行動や健康にどのような関係性があるのかを調査しました。合計2,026人(93%
女性 | 93%がイギリス人)から得られた回答を集計したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
Laura M. Wauthier, Joanne M. Williams Joanne M., Applied Animal Behaviour Science, doi.org/10.1016/j.applanim.2018.05.024
犬たちの基本属性
- 非パピーミル1,702頭
- パピーミル123頭
- 不明201頭
- オス犬51%(65%が去勢済み)
- メス犬49%(68%が避妊済み)
- 年齢中央値は2~5歳
ミニC-BARQ(気質)
「C-BARQ」とは100項目からなるアンケートを通し、飼い主の主観的な評価から犬の客観的な気質を推し量る調査票のこと。今回の調査では回答率を高めるため42項目に絞った簡易バージョン「ミニC-BARQ」が用いられ、14項目中11項目においてパピーミル出身が悪いスコアを記録した。具体的には以下(%は非パピーミル出身の犬と比較し、パピーミル出身の場合の悪い方に傾く確率)。
- 見知らぬ人への攻撃性(+87%)
- 飼い主に対する攻撃性(+92%)
- 他の犬への攻撃性(+61%)
- 見知らぬ人への恐怖心(+116%)
- 非社会的な恐怖心(+149%)
- 他の犬への恐怖心(+63%)
- 接触感受性(+80%)
- 分離関連行動(+87%)
- 興奮しやすさ
- 愛着・注目を求める
- 訓練しにくさ
健康面
非パピーミル犬の医療スコアが1.29だったのに対しパピーミル犬は1.57と、パピーミル出身の犬は概して健康状態が悪かった。特に統計的に有意と判断されたのは慢性疾患(1.89>1.45)と感染性疾患(1.26>1.13)。
緩和要素
子犬が幼い頃に経験した望ましくない環境による悪影響は、その後の飼い主の接し方によってある程度は軽減することができる。例えば散歩の回数を増やすと恐怖心や見知らぬ人への攻撃性を軽減できるとか、ご褒美ベースのトレーニングは衝動性の抑制に効果があるなど。ただしこれらの効果はそれほど大きいとは言えず、決して万能薬というわけではない。
こうした結果から調査チームは、パピーミルという繁殖環境が生まれてくる子犬の行動面に対しても健康面に対しても悪影響を及ぼしうるという可能性を示しました。幼少期における不適切な生育環境や8週齢未満の段階でストレスフルな環境に置かれることが、脳内におけるHPA軸(ストレス反応や免疫応答に関連したフィードバックシステム)の発達に影響を及ぼし、子犬の反応性を望ましく方法に歪曲しているものと推測されています。
Using the Mini C-BARQ to Investigate the Effects of Puppy Farming on Dog BehaviourLaura M. Wauthier, Joanne M. Williams Joanne M., Applied Animal Behaviour Science, doi.org/10.1016/j.applanim.2018.05.024
解説
過去にアメリカで行われた調査では、大量繁殖環境が成長してからの犬の行動に悪影響を及ぼすと報告されています。特に恐怖と攻撃性が顕著に悪化したとも(McMillan et al.,2013)。そしてイギリス国内で行われた今回の調査でも恐怖心や攻撃性を含めた多くの項目が、パピーミル出身犬において悪化する傾向が認められました。時間と空間を越えて似たような結論に至ったという事実は、パピーミル問題の普遍性と深刻さを物語っています。
生まれる前後の環境は子犬の気質に大きな影響を及ぼします。特に問題視されているのが、外界との接し方を学ぶ社会化期(4~12週齢/ピークは6~8週齢)における不適切な生育環境です。例えば妊娠中の母犬に対するストレス、問題行動を抱えた母犬による保育、人間や他の動物を始めとする刺激が少ない環境、早すぎる母犬からの離乳などですが、これらはすべてパピーミルと呼ばれる商業繁殖施設で見られるものです。
若い頃に強いストレスを受けるとHPA軸が悪影響を受ける可能性が示唆されています(Caldji et al., 2001)。HPA軸とはストレス反応や免疫応答に関連したフィードバックシステムのことで、人医学ではこのシステムの不具合によりさまざまな精神疾患につながると指摘されています(Shea et al., 2005)。C-BARQを通して現れた犬の「興奮性」「恐怖心」「攻撃性」などが精神疾患に該当するのかどうかはわかりませんが、生まれてから数週間のうちにおける良くない生育環境により、人間と協同生活をしていく上で望ましくない反応性が強まってしまう事は確かなようです。
日本国内では2017年、400頭近い犬たちをすし詰め状態にしていた福井県内の繁殖業者が問題となりました。劣悪な生育環境のほか手荒な使い方も含めて「動物虐待」以外の何物でもありませんが、県の見解は「必ずしも虐待とは言えないのではないか」という一瞬耳を疑うものでした。また母犬からの早すぎる引き離しを問題とする「8週齢問題」に関し、「どうぶつ愛護議員連盟」の事務局長を務める自民党の議員は「議論のテーブルにも上っていない」と臆面もなく回答しています。その一方で同議員は、ペットオークション業界が開催した意見交換会で祝辞を述べる暇はあるようです。
三原じゅん子議員と面会「8週齢は議論のテーブルにも上っていない」
日本国内で行われた調査でも「繁殖業者から生後50~56日で出荷された子犬と生後57~69日で出荷された子犬を比べると成長後の見知らぬ人に対する攻撃性や家族への攻撃性などに有意差が生じる」という可能性が示されています。アメリカ、イギリス、そして日本において全て「パピーミルや早すぎる離乳は子犬に悪影響を及ぼす」という結論に至っているにもかかわらず、まるで洗脳されたかのように現実を見ようとしない政治家たちにはカルト的な寒気を感じます。